29話
辿り着いた先は──それは古き朽ち果てそうな寺『礼尊寺』。棟門は崩れかけ、切妻屋根の瓦は所々割れ苔がむしている。いくつかある層塔は風化し、倒れたものもあり、形を成したものは皆無に等しい。今にも倒壊しそうな本堂は軋みをその風に奏でる。時間に取り残された姿はあとは崩れ去り消え去るのを待つのみ……そう朧な風が伝えてきた。
「清さま、ここでございます」
相い変わらず大人ぶった口調に根音は苛立つ。
「ほんと似合わないんだよ……この跳ねっ返りのじゃじゃ馬……」
根子はきっと睨みただ一言……
「ガキ……」
そう言うとふんと鼻をならしそっぽを向いた。何度なだめてもこの二人は変わらないらしい。
「いい加減におよし……本当におまえたちは……おまえたちはいくら花護人とて双子の兄妹。仲良くおし……」
清は自分の状況を苦々しく想いながら二人をなだめた。
──私にそれを言う資格があるのだろうか? ただ姉さまに憎悪を纏った私に──
しかし、その憎悪を感じる度に異常なほど魂が喜ぶ清がいる。悲しみも痛みもすべてが失われている。あるのは喜びと憎悪のみ。恐怖さえ心の片隅に存在しない。
「もう、時間がない。いくよ……」
清は敷地内に入っていく。よく見ると敷地内には下駄の足跡。三枚歯で踏み固めたもの。あの下駄の重みにこの地は悲鳴をあげたに違いない。
「花化粧の足跡……そして間違いなく姉さまが来ていたということ……」
「清さま……もしかしら、もう……」
根子が震え、根音は清の着物の裾をしっかり握っている。
「大丈夫……俺らが清さまを守る……」
根音の男らしいセリフも心許ない。清はぽんと二人の頭を撫で向かう。
「大丈夫……私は二人なしでは生きられない。あなたたちには感謝している。ありがとう……」
そう、伝えると躊躇うことなく、清は進む。それが何を意味しているのかもわからずに……。
カツ……カツ……カツ……
杖をつく音が聞こえる。
「ほう……この感覚……あの時に感じたもう一人はそなただったのか……」
目の前に現れた盲目の僧侶が清たちの前に姿を現した。
「そなたが清殿か……この目は視えぬ……だが、心の動きは視える……そなたの揺らぎが、ここに届いている。誠に言葉通り……末恐ろしき『傲』の塊……そなたの傲がこの場を染めていく……この地に何を遺そうとするのか? それとも心に楯突くか……いざ、確かめようぞ」
彼は清に感じる心をそのまま口にした。背後にそびえる本堂からカラランと崩れ去りそうな音がした。
「なぜ、私の名前をご存知で!?」
清は戸惑った。
「数日前、ある者から知らせを受けてな……手前は零闇にてございます……もうすぐ仏の元に旅立つ時ともその者に言われましたな……」
「それは宿静という名では?」
清は平然と尋ねた。しかし、零闇は答えなかった。
零闇の左手の甲には花紋様の痣があったが、すでに消えかけていた。




