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花仕舞師  作者: RISING SUN
第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え
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29/252

29話

 辿り着いた先は──それは古き朽ち果てそうな寺『礼尊寺(れいそんじ)』。棟門(むねもん)は崩れかけ、切妻屋根の瓦は所々割れ苔がむしている。いくつかある層塔(そうとう)は風化し、倒れたものもあり、形を成したものは皆無に等しい。今にも倒壊しそうな本堂は軋みをその風に奏でる。時間に取り残された姿はあとは崩れ去り消え去るのを待つのみ……そう朧な風が伝えてきた。

「清さま、ここでございます」

 相い変わらず大人ぶった口調に根音は苛立つ。

「ほんと似合わないんだよ……この跳ねっ返りのじゃじゃ馬……」

 根子はきっと睨みただ一言……

「ガキ……」

 そう言うとふんと鼻をならしそっぽを向いた。何度なだめてもこの二人は変わらないらしい。

「いい加減におよし……本当におまえたちは……おまえたちはいくら花護人とて双子の兄妹。仲良くおし……」

 清は自分の状況を苦々しく想いながら二人をなだめた。


 ──私にそれを言う資格があるのだろうか? ただ姉さまに憎悪を纏った私に──


 しかし、その憎悪を感じる度に異常なほど魂が喜ぶ清がいる。悲しみも痛みもすべてが失われている。あるのは喜びと憎悪のみ。恐怖さえ心の片隅に存在しない。

「もう、時間がない。いくよ……」

 清は敷地内に入っていく。よく見ると敷地内には下駄の足跡。三枚歯で踏み固めたもの。あの下駄の重みにこの地は悲鳴をあげたに違いない。

「花化粧の足跡……そして間違いなく姉さまが来ていたということ……」

「清さま……もしかしら、もう……」

 根子が震え、根音は清の着物の裾をしっかり握っている。

「大丈夫……俺らが清さまを守る……」

 根音の男らしいセリフも心許ない。清はぽんと二人の頭を撫で向かう。

「大丈夫……私は二人なしでは生きられない。あなたたちには感謝している。ありがとう……」

 そう、伝えると躊躇うことなく、清は進む。それが何を意味しているのかもわからずに……。


 カツ……カツ……カツ……


 杖をつく音が聞こえる。

「ほう……この感覚……あの時に感じたもう一人はそなただったのか……」

 目の前に現れた盲目の僧侶が清たちの前に姿を現した。

「そなたが清殿か……この目は視えぬ……だが、心の動きは視える……そなたの揺らぎが、ここに届いている。誠に言葉通り……末恐ろしき『(おごり)』の塊……そなたの傲がこの場を染めていく……この地に何を遺そうとするのか? それとも心に楯突くか……いざ、確かめようぞ」

 彼は清に感じる心をそのまま口にした。背後にそびえる本堂からカラランと崩れ去りそうな音がした。

「なぜ、私の名前をご存知で!?」

 清は戸惑った。

「数日前、ある者から知らせを受けてな……手前は零闇にてございます……もうすぐ仏の元に旅立つ時ともその者に言われましたな……」

「それは宿静という名では?」

 清は平然と尋ねた。しかし、零闇は答えなかった。

 零闇の左手の甲には花紋様の痣があったが、すでに消えかけていた。

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