28話
「清さま、もっとゆっくり歩きましょうか?」
根子が寄り添いながら心配そうな顔をする。
「大丈夫です……元々、痛みは感じぬのですから……血も滲むことはありませんし……ありがとうね、根子……」
「でも……」
清は大丈夫と言い、根子を嗜める。
「俺らだって、清さまのことを心配してるんだぞ……今だって清さまの歩幅に合わせてるんだから」
根音が根子の気遣いが気に入らないのか口を挟む。
「相変わらずガキね……根音は……全く」
やれやれと言った表情を浮かべる根子。
「跳ねっ返りのくせに、何、猫被ってんだよ」
いつものように根音が応戦する。
「こら、二人ともやめなさい……根音もいつもありがとうね」
根音の頭に手を置き優しく撫でる。撫でられると根音はおとなしくなった。
灰音郷の出来事から数日が経っていた。静と対峙した時の清の表情を思い浮かべると、今の清の柔らかさは想像できない。これも『花切の契』の力かと二人は肩を落とした。もし契りを交わさなければ寄り添う道はあったのかと二人は口に出さずとも共通する想いだった。
その時、不穏な声が三人に聞こえる。
「そんなんで追い付けますかね?」
それは、根音の影から声がする。
「えっ? 何?」
根音が立ち止まり自身の影を見る。見ると影がゆらゆらと動き、そこからぬるりと人の姿が現れる。
「そなたは花傀儡の花徒影!? なぜここにっ……」
清が叫ぶ。
身体をゆらゆらと動かしながらぬめり、陽に照らされると青く輝くような衣を羽織り、じっとりとした表情で清を見つめる。
「そんな生ぬるい感性で静さまを仕舞おうと? 静さまの言葉が身に染みまするな。あなたさまを出来損ないと呼ぶのがよくわかる……しかし、それでも、急がれたがよいのでは……そなたの目的の盲目の僧侶の元にはすでに静さまが辿りついておられますぞっ……もう、時すでに遅しか……今頃、『傲』に堕ちてしまわれたか……くくくっ……くくくっ……」
花徒影はそう言い残すとまた影になりするするっとあらゆる影に入り込み姿をくらました。
「根音、根子急いで案内するのです……また姉さまが邪魔を……」
先程まで穏やかだった清の表情が憎悪で一変する。
「わかりました」
根子が返事をする。根子と根音は二人の憎悪は避けられない運命なのだとさらに悟り、清を盲目の僧侶の元まで急ぎ案内することを決意した。
「急がねばなりません。相も変わらず下劣な姉さま……一体何がしたいのか……姉さま……」
身体の奥底から沸き立つものがある。血は滲まぬが、それよりも確かなもの──憎悪がこの身に刻まれ、清は急ぎながらその想いを一層膨らませた。




