27話
「薄っすらと朧気に感じるものは月明かりか……それも満ち欠けを繰り返しているようで……」
零闇は感じていた。つく杖は道を確かめるようで、それでいて力強い。進める歩は弱々しいが、それでいて迷いがない。この世に産声をあげた時から、光は失われていたが、そのお陰で耳は誰よりも響きを心に奏でる。
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
「こんな夜更けに珍しい足音を響かせるものだ……」
目の前までその道中下駄を履き外八文字で歩く音が鼓膜を強く振動させ、ピタリと止まる。
「おまえさんの後ろにも誰かいるねぇ~、一人、二人、三人か? いや……足音は二つ!? 不思議なことだねぇ~なんだい? この目の見えぬ手前に何かご用かな?」
「さすがでございますな……いくら隠しても隠し通すのは無理難題なことですな……ただ、ここにいる者は私と花化従だけでございますが……」
下駄を鳴らす花化従の背後の闇からそっと語りかけてくる。
「そうか……今も、もう一人の陰を感じるのじゃが……。気のせいというには、はっきりと。じゃが、足音は二つ。手前の勘違いなんじゃろう」
「音以外にも伝わるんですね、恐ろしきお方でございます……」
「そなたの心は足音以上に心の音がざわめいておる。その悪意は手前に? いや、違う……誰かに向けておられるのがはっきりと視える」
「さようでございますか……申し遅れました。私は宿静と申します。花仕舞師を追われた者でございます……」
零闇は奥に潜む者と会話をした。人外なるものは無用と言わんばかりに……長い黒髪を揺らめかす宿静と名乗る人物と対話した。
「それで……手前、零闇に何用で?」
「はい……そろそろあの世への……お迎えの時間が来る頃かと思いまして……そう、あなた様の死期が訪れております」
「ほう、そんなことがわかるんですか? これはこれは、まだ手前の知らないことは多くにございますなぁ~」
零闇は口元を綻ばせた。
「はい……それが花仕舞師、特有の能力でございますに……」
「そうでございますか……時は無常でございますなぁ~。まだ、僧の身として達観できておらぬにも関わらず仏の元へ逝かねばならぬとは……」
夜風が淋しく零闇を包み込んでいた。左手の甲にはぼんやりと花紋様が赤く浮かび上がってくる。
「私が零闇殿に安らかに逝けるよう仕舞わせていただきます……ただその前にお願い事がございまして……今、私の命を受けた者が零闇殿の元へ向かうよう、仕向けております……」
静は願い事を零闇に話す。そして──欠けた月の輝きを覆い隠すような夜雲が広がっていった。
数時間後──
──己が誇りを花に託し、奪われし輝き。 高き天を見上げし者に咲くは、傲慢の花──
「これにて花尽──」
舞い終え背を向ける静。
「頼みますぞ……零闇殿……我が本懐のために……あの者が確実に死ぬために……」




