誘拐事件
「栗原さん!今日もいい天気だね!」
「……。」
最近転校生してきたクラスの男の子に、やたら話しかけられる。
転校生とのラブロマンスなんて少女漫画的な展開は私に限って、あり得ないだろう。
理由は単純明快、この顔の大きなあざだ。
見慣れたはずの自分ですら、目を背けたくなる。
だとしたら、彼もうちの家目当てなんだろう。小さい頃から近付いてくる人間は私の事を栗原葵としてではなく、栗原の子として見てはくれない。
ただそれも当然の話で、私の同級生にもし総理大臣の息子なんかがいれば、私もその人を総理大臣の息子としてまず見てしまう。
そう仕方のないことなのだ。
私はこれ以上話しかけられないよう、席を立ち、トイレへ逃げ込んだ。
(休み時間が終わるまで、ここで時間を潰そう…)
暫くトイレに座っていると、何人か入ってきたようだ。声を聞く限り、クラスメイトのようだった。
「はぁーっ。颯くんって栗原さんのこと好きなのかな…」
私の名前が出て思わず声が出そうになる。
この声は安藤さんだ。バスケ部のエースで美人の子で私とは違うキラキラした子だ。
(何、安藤さんって転校生くんのこと好きなのか…)
「そんなことないと思うよ。会話も一方通行だし、ほっとけないんじゃないかな松前くん良い人みたいだし」
(この声は委員長の宮村さん。そう宮村さんの言う通り、私に恋なんてしてないから安心して安藤さん)
「咲はもっと自信持ちなよ。可愛いんだから!」
「自信はないけど…頑張る!彼女になりたいもん!」
「私も協力するよ咲!」
(変な恋愛のいざこざに巻き込まれなくて良かった…。でも少し羨ましい。こんなアザがある限り、私に恋なんて出来ないしね。)
二人が出て行ったのを見計らって、トイレから出て、鏡を見て自分の醜さを痛感した。
(早く自立して、お金を貯めて、自分の力でこのアザを消すんだ。)
それが私の目標であり、夢だ。大嫌いなこの家を出て、自分の人生を歩みたい。
それまでは他の事なんて一一一
一一一一
放課後になり、いよいよ計画実行の時が来た。
栗原葵は予定通り、早々に帰宅準備を整え、教室を出て行った。
「あ、あの颯くん。今日は何か予定とかありますか?良かったら遊びに行かないかな?」
「ごめん咲ちゃん。今日は外せない用事があるんだ」
「わ、私こそ急に誘ってごめんね…!」
「また誘って!それじゃあ!」
そう今は寄り道している場合ではない。俺は急いで教室を出て、後を追った。
「ようやく追いついた。劇団の人たちはまだ来ていないようだな。」
ギリギリ気付かれない距離まで近づいて、そのまま様子を伺う。
すると急に葵は周りをキョロキョロと見渡し、路地に入って行った。
(不味い。尾行に気付かれたか)
慎重に葵の入って行った路地を除くと、何やら誰かと喋っているようだ。劇団の人達か?
だがもっと仕掛けるポイントは先のはず
「よちよち。今ご飯あげるからねー」
よく見ると、会話の相手は人ではなく、小さな黒猫だった。
葵は鞄を漁ると、中から餌を取り出し、猫にあげている。
喋りかけても、表情ひとつ変えない氷の女王のような葵にこんな一面があったとは
「うちで飼えたらいいんだけど…ごめんね…」
悲しそうな表情で猫を撫でる。猫も懐いているのかゴロゴロと喉を鳴らし、葵に甘えていた。
「じゃあそろそろ行くね。また来るから」
そう言うと葵は立ち上がり、名残惜しそうな目をしながらその場を離れ、路地から出たその瞬間、黒いハイエースが葵の横に止まった。
「え…やめっ…!?」
そして、急にドアが開き、白昼堂々葵を攫って行った。
どう言う事だ。劇団との打ち合わせでは単なる不良に絡まれる筋書きだったはず
それに計画のポイントと大幅にずれている。
すると花火から電話がかかってきて、俺はそれを取った。
「社長、劇団の人達からまだターゲットがつかないと連絡が、何か寄り道とかされてますか?」
「え、さっきのが劇団の人達じゃ…まさか」
俺は急いで電話を切り、後を追った。
クソ予想外だ。まさか本当の誘拐犯が来るなんて…。




