誘拐事件②
「こらっ!大人しくしろ!」
誘拐犯の一人が暴れる葵の頬を叩く、倒れた隙を見て、もう一人が腕をロープのようなもので縛り、身動きができないようにした。
「大人しくしてれば、無事に家に帰してやる。お前の親が素直に金を払えばだけどな」
「無駄よ…。」
「なに?どういう意味だそりゃ」
「私に人質の価値はないもの…。身代金なんて絶対払わない」
「けっ、そんな嘘に騙されるわけないだろ!もしそうだとしたら、人身売買の組織にでも売りつけるから問題ない」
(どこかの変態にでも売りつけられるのか、いや醜い私は臓器とかを抜かれるのか…)
今まではいつ死んでもいいと思っていた葵は、いざその場面に遭遇した時、恐怖で震えが止まらなくなった
一縷の希望は自分に身代金が払われることだが、あの父親が払うとは到底思えなかった。
どのぐらい走ったのだろう。車の走行音が聞こえなくなり、どうやら止まったようだ。
外の様子はカーテンがかかっていて、何も見えない。
誘拐犯たちはこれからの計画を話し合っていた。
恐らく目的地に着いたのだろう。
(この隙に逃げたとしても、恐らく周りは人気が無いところだろう。私の足じゃ人がいるところまで逃げられない…)
「なんだあいつこんな所で」
「行ってこいよ。バレたら不味い。抵抗するなら殺せ」
リーダーらしき男が他の誘拐犯に指示を出している。どうやら口ぶりからして外に誰かいるようだけど
ドアが閉まり、外で何か話し声が聞こえるが、防音がしっかりしてるからか、全く聞こえない。
「な!?なにもんだ!?おいお前!やっちまうぞ!」
リーダー格の男が驚いた顔で運転手の男に合図を出し、車から降りる。
「い、一体何があったんだろう…車内には今一人だし、今が逃げるチャンスかも…」
葵はドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。
どうやら運転席からしか開けられないタイプのようだった。
運転席に恐る恐る乗り出し、鍵を開けようとする。
「もうちょっと…届いた」
鍵を開け、ドアを開けた瞬間、勢い余って転びそうになったが、外で待っていた誰かに葵は身体を受け止められた。
(不味い!?バレた…)
恐る恐る上を見上げると、知っている男の子の顔があった。
「え、松前くん?なんで?」
「助けに来たよ。栗原さん。」
「え、何でここに。あの男たちは?」
「説明は後、今は気絶してるから、暫くは大丈夫だけど、起きると大変だから、警察呼ぶから待ってて」
そう言うと、颯は携帯を取り出し、警察に連絡した後、車の中を物色し、車にあったロープなどを使い犯人を縛り上げて行った。
「お礼が遅れたわ…。ありがとう。でもどうしてここに」
「一緒に帰ろうと思って、後を追いかけたら、車に無理やり連れ込まれる栗原さんを見つけて追いかけてきたんだ。」
「よく大の大人3人に勝てたわね…。」
「いちお武道に嗜みがあるからね。後はこいつらが素人で助かったよ。」
「本当に有難う。私あなたに失礼な態度ばっか取ってたのに…私嫌な奴だったのに…」
「そんなことないよ。君が優しい子だってことは知ってる。いつも早く来て花壇や教室の水やりをしてたこと見てたんだ。その時の優しい表情が素敵で、それで君と友達になりたいと思ったんだ。」
勿論それは栗原葵の信頼を得るために、口から出たでまかせにすぎない。
そして命の危険にあった葵には吊り橋効果でより効果てきめんだった。
(誰も私のことを一人の人間として見てくれないって、栗原の娘としか見られないって…この男の子は私自身を見てくれてる…)
警察が来て犯人を連れて行ったあと、葵と松前もパトカーに乗せられ事情を聞かれた。
そして家のものが迎えに来ると言うことで、警察署で葵は待っていると
使用人と父親が入口から入ってきた。
「大丈夫か?葵。怪我はないか」
(心にも思ってないくせに…。)
「大丈夫です。松前くんに助けてもらいましたから」
「警察の人からあらかた話は聞いたが、その少年に感謝しなければな。どこにいるんだ」
「今警察の人と話してるはずです。あ、あの方です。」
父親と話していると、警察の人に連れられて松前がやってきた。
「やあ君が松前くんか。今回は本当にありがとう。」
「初めまして、松前と申します。葵さんのお父様ですね…」




