滝川雪を探れ②
「由美も切り替え早いよなぁ。前まで天童くん天童くんってうるさいぐらいだったのに」
「天童くんのSっぽい感じも確かにいい。でも陛下は厳しさの中にも愛情があるんだ。わかるか?」
「何かご主人様からランクアップしてね?まあ確かに天童くんは完全にうちらのこと道具扱いだったもんね。それにしてもどこ行っちゃったんだろ天童くん。」
「シッ!!」
田中が指で前をしきりに刺している。目の前を楠木が見てみると、そこには滝川雪の姿があった。
見たところ特に変わったところもなく、むしろ近所の人に笑顔で挨拶をする真面目な良い子という感じだった。
「でもおかしいな…」
「なにが?」
「いやこっちは滝川の家の方向じゃないんだよ。一体どこへ…」
滝川は川沿いをひたすら歩いていく、暫くするとぽつんとベンチだけがある広場に着き、そこで腰を下ろした。
「誰かと会う予定でもあるのか…」
「まあ暫く待ってみようよ」
そこから何時間経っただろうか。滝川は誰と会うこともなく、ただ遠くの川を見つめ、ぼーっとしてるだけだった。
「ちょっと何してるか聞いてくる!」
「おい!由美不味いって」
痺れを切らした田中は涼介の役に立ちたい一心で、滝川雪の前に飛び出していた。
「田中さん…楠木さん…なんでここに?」
「お前こそ何してんだよこんなとこで。もう暗くなるぞ」
滝川は暫く考えると、ゆっくりと喋り出した。
「家に帰りたくないんだ」
「なんでだよ?お前の家族って優しそうな良い人たちだけどな。うちなんて小うるさくてたまんないよ」
「…田中さんと楠木さん私をつけてたでしょ。じゃないとこんなとこに来ないよ。誰かに頼まれた?」
滝川は楠木の質問には答えず、質問で返した。
「いや頼まれたわけじゃなくて私が勝手に」
「おい!馬鹿!」
自分達の背後の人間がいることを田中は思わず喋ってしまう。
「やっぱりね…」
「それはともかくだ!滝川何か悩みがあったら聞くぞ!陛下ならお前のことを救ってくれるはずだ」
「…陛下って誰?」
一一一一一
田中から連絡を受けて、俺は自転車で走っていた。あの後、田中達は雪ちゃんを勝手につけていたらしく、そこで彼女が悩みがあり、それを俺に手助けして欲しいと言うことを言われた。
「ごめん。遅くなって滝川さん」
「全然待ってないよ陛下。」
「ちょ、滝川さん。何陛下って…」
「高原くんが田中さんに陛下とかご主人様って呼ばせてるって聞いたから」
雪ちゃんは冗談をくすりと笑った。こんな冗談を言う人だったのか。
そして笑った後、表情が真剣なものになった。
「高原くんはさ…誰かを殺したいって思ったことある?」
「…滝川さんはあるの?」
俺は答えられなかった。雪ちゃんは弥生が自殺した原因を知っている。まだ信用のできない相手に腹の中を明かすことはできなかった。
「あるよ。思っちゃダメって我慢すればするほど、自分の中に黒い何かが湧いてくるんだ。」
「あのさ、俺に出来ることがあれば、君を助けたい。良かったら話してくれないか?」
「話したら何か変わるのかな。心が軽くなるのかな。」
見えていなかっただけで、彼女の心には大きな壊せない壁がある。
可愛くて優しくて真面目でどんな仕草も上品で、そんな表面的な所しか俺は見れてなかったんだな。
「俺は君を助けたい。」
だから君をもっと知っていきたい。
過去を遡ってでも、君に会いたかったのだから