三人目
目を覚ますと、白い天井が続いてる。
ほのかに香る薬剤の香りから、病院だと気付いた。
少し足に重さを感じると思い、見てみると弥生が俺のベットにもたれかかる様に眠りについていた。恐らく俺が心配で寝ずについていてくれたのだろう。
「あ、目を覚ましたの?本当に良かった。」
暫くすると病室に弥生のお母さんが入ってきた。
「ええ、心配かけちゃいましたね。すみません…。」
「何言ってるの!あなたは私たちの命の恩人よ!」
結果的にはそうなったかもしれない。ただあの女は確実な俺が目的だった。弥生達の家族を俺が巻き込んでしまった形になる。
「あ、あの女は捕まったんですか?」
最後の力を振り絞って、女に一撃を与えたが、その後すぐに意識を失ってしまった。
「逃げたわ…警察が来てくれたタイミングで目を覚まして…今は警察の人が行方を追ってるみたいだけど、見つからないみたい」
行方の検討はついている。恐らく司にご褒美をもらいに会いに行くだろう。
「涼介くんの両親には私から連絡を入れたわ。すぐに帰国するって言ってた」
想定外だ。両親が帰ってくれば動きにくくなる。ただ実の息子が刺されたと知って帰ってこない親などはいないだろう。
それにあの女が俺が生きてると知った以上また追撃に来るだろう。そしてこの身体じゃ弥生の家族達を守りきれない。幸い警察が暫く弥生の家の周りに護衛をつけてくれるとのことだが、少し不安だ。
「…んっ…!?涼介くん起きたの!?」
「ああ。心配かけたな。」
俺はそう言うと弥生の頭を撫でる。弥生の目にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「死んじゃうかと思ったんだから…」
「ちょっ、待て!痛い痛い!」
勢い良く抱きついてきたため、傷にひびき、お腹に激痛が走った。
「ご、ごめん!」
「大丈夫だ。お前も無事で良かった。」
ただこれは本格的に不味い。俺が刺されたことが学校に知られれば、俺が脅している前田や田中や楠木たちがどんな行動を取るかわからない。ここで弱みを見せるのは不味い。
「おばさん。頼みがあります。このことは学校には言わないでもらってもいいですか?」
「それは構わないけど、どうしてなの?」
「学校に変に心配をかけたくないんです…。ただでさえ、クラスメイトが一人失踪したばかりなので…。」
ただこの対応も付け焼き刃だ。天童が直接刺されたことを言わないと思うが、長期間休んでいれば、俺に何かあったと皆が感づくだろう。その前に天道を片付けないといけない。
一一一一一一
「うおっ、殺したってまじか!」
天道司の携帯に女から朗報が入る。
「最近で一番いいニュースだな。司まじ良くやった!」
「まあ、俺の実力なら当然。ただこっからがちょっと鬱なんだよな…」
「どうしてだ?」
「いや、高原を殺した女に褒美にキスしなきゃいけないんだけど、そいつが気持ち悪いやつでさ」
「バックレればいいじゃねぇかよ」
「命令されて人殺すようなやつだぜ?そんなことしたら今度は俺が刺されるわ…」
「ご愁傷様だな。帰ってきたら高原が死んだことを祝って打ち上げだ!全部俺の奢りだからな」
「それは楽しみだ。まあ軽く唇触れるぐらいでもキスだしな。とりあえずテキトーに流して速攻で帰るよ!」
そう言うと、天童は栗原達に別れを告げ、女のいる場所へ向かった。
まだ女は警察に追われているため、人目のつかない古い工場跡を指定してきた。
「こんな不気味なところに呼び出しやがって。おい!来たぞ!いるのか!」
建物の陰から女が出てくる。警察から逃走してるためか、女の服は至る所が破れ、足には擦り傷のようなものがいくつもあった。
「そんなとこにいたのか。良くやったな。高原を殺したって」
「誰が死んだって?」
後ろから聞き慣れた声がして、振り返るとそこには死んだはずの人間が経っていた。
「な、なんで?」
「そこにいる女と取引したんだよ。俺の復讐を手伝う代わりにお前を引き渡すのと警察の逃走資金をやるってな。全く病院から抜け出すのも苦労したぜ」
「おい!おまえ裏切ったのか!?」
「だってぇー司くんはキスしかくれないけどぉ、この人は司くん丸ごとくれるって言うんだもん」
「俺としては、お前の自信ある顔を鉄板とかで焼いてやろうと思ったんだけど、顔と下半身は欲しいって言われたからさ…」
「何する気だよ!?」
「まあそれは後のお楽しみ。お前にはこのお腹の傷の礼もしなきゃな」
後ろから天童は女に抑えられ、無理やりクロロホルムを染み込ませた布を顔に当てられる。ゆっくりと天童は力を失っていった。
「じゃあちゃちゃっとすませちゃおうか!先生お願いします」
一一一一一
「じゃあ天童と幸せにね!そこは俺が所有してる山奥の物件だから、邪魔者も来ないだろうし。先生達も難しい手術ありがとね!」
俺は今回依頼した闇医者に分厚い封筒を渡す。
医者はそれを受け取ると車で去っていった。
「本当に有難う。貴方のこと刺しちゃってごめんねぇ。」
「俺はいいけど、俺の周りの人間に手を出すなよ?その時はわかってるよな?」
「わかってるわよぉ。じゃあまたねー?」
女は俺が手渡した逃走用の車に乗り、その場を去っていった。
「じゃあな天童司。」
何時間かして天童は目を覚ました。ここは何処だろう。口とタオルが巻かれ、目隠しもされているため、喋ることも見ることも出来ない。
「あ、目覚ましたみたいだねぇ」
「むぐぅーぐううう!!」
「あ、これじゃ喋れないよねごめんね。」
女はそう言うと、天童の目と口の拘束を解いた。
「ここはどこだ!?俺をうちに帰してくれ!!」
「ここは私達の愛の巣だよぉ。ここが今日から貴方の家なの」
「ふざけんな!俺は帰るからな!」
天童が立ちあがろうとした瞬間。あるべきはずのものがそこにはなかった。
立ち上がるための足も、それを支える手も消えて無くなっていた。
「あ、あの男の子が持ってちゃったよ。私はその綺麗な顔と私に子種をくれるところさえあればいいからさぁ」
「あああ”あ”あ”俺の手ガァぁぁ足がアぁぁぁ」
「大丈夫。私が養ってあげるからぁ。二人で幸せになろうねぇぇ旦那様ぁ」
山奥の小屋に絶望の叫びが響きわたった。、




