忍び寄る魔の手⑤
俺はあれから田中と楠木と別れ、家に帰っていた。
今日は色々あって疲れた。俺は倒れ込むようにベットにうつ伏せになる。
このまま寝てしまおうか…。いやダメだ。今日は弥生の家に
夕飯にお呼ばれしてるんだ。
俺のアドバイスにより、両親は働かないでも一生暮らせるだけのものを手にした。そしてその両親は今夫婦で新婚の時にお金がなくて行けなかった新婚旅行をかねた海外旅行に行っている。
普通なら子供を置いて、そんな長期の旅行は行かないが、生まれ直してる俺に心配するところなんてないのだろう。
そして、一人の俺を気遣ってか度々夕飯にお呼ばれしている。前世でも変わらず、弥生の家はもう一つの家族のような存在だった。
そして弥生の葬式の日、弥生の家族のあの顔は忘れられない。
俺は気だるい身体を無理やり起こすと隣の弥生の家に向かった。
玄関を開けると、まだ小学生の弥生の妹、灯と弟の健太が俺を迎えた。
弟の方は前世ではゲーム友達で、俺が引きこもりになっても良く、オンラインゲームを一緒にしていた仲で妹の方は小学生の時はお兄ちゃんと慕ってくれていたが、大人になると、俺をクソニートと呼んで、部屋に良く突撃してきて、部屋から出そうとする迷惑なやつだった。
「涼介兄ちゃんゲームしようよ!」
「ずるい!前も健太と遊んだ!今日は私と遊ぶの!」
「はい、二人とも!涼介くんが困ってるでしょ!ご飯の後で遊んで貰えるから、待っててね!」
「「はーい」」
右腕と左腕両方を引っ張られ、動けない状態でいると、弥生が助け舟を出してくれた。
席に座るといい匂いがしてくる。弥生のお母さんは料理教室を営んでいるため、料理が物凄く凝っていて美味しい。
「今日のご飯はハンバーグよ。」
「「やった!」」
健太と灯が喜んで飛び跳ねる。無理もない。
弥生のお母さんのハンバーグは粗挽きで、肉の美味しさがダイレクトで感じられ、そこから肉汁が溢れ出てくる料理店に出てくるような本格的なものだからだ。
「涼介くんどう?美味しい?」
「素晴らしいです。旦那さんが羨ましい。ここの子になりたいと思ったぐらいです」
「え、いつでもいいのよ?弥生と結婚すればここの子よ?」
弥生のお父さんが聞いていたら、心臓発作でも起こしていただろう。幸いにも出張でお父さんはいなかった。
「ちょ、ちょっとお母さん何言ってるのよ!」
「え?あんたも涼介くんとの結婚式の絵とか書いてたりしたじゃない」
「それはちっちゃい頃の話でしょ!」
「お姉ちゃんずるい!お兄ちゃんと結婚するのは私だもん!」
「あらあら、弥生取られちゃうわよ?」
弥生は無言で俺の腕に抱きついてくる。
こういう未来も悪くない。もう復讐とか何もかも辞めて、結婚して幸せに暮らしていくのも
その時パリーン!とガラスの割れる音が部屋中に響いた。音の先には大きな石が投げ込まれている。ベランダの方を見ると、身長180センチほどのレインコートを来た女が庭に立っていた。女の顔は長い髪で隠れていて見えない。
「おばさん!弥生!二人を連れて、部屋に入って鍵を閉めて!」
俺はピリピリと感じる殺気を肌にうけ、急いで弥生達を下がらせる。
「私は大人よ!涼介くんが逃げなさい!」
「おばさん急いで部屋の中で警察を呼んでください。子供の俺だといたずらだと思われるかもしれない!早く!行って!」
弥生達はそのまま奥の部屋の扉を開け、鍵を閉め、中に立てこもっていた。
女はゆっくり近づいてきて、割れた窓から手を入れ、鍵を開ける
その手には鋭利な包丁が握られていた。
「貴方が高原くんね…。貴方を殺せば司くんが私とキスしてくれるんだって…貴方が貴方が貴方が貴方が貴方が貴方が貴方を貴方を」
本能的に感じる。こいつはやばいと
目の焦点が定まっておらず、腕には無数のリストカットの跡。
幸いにも俺が狙いだが、俺がここでやられれば、弥生達の家族も目撃者だ。絶対に殺されるだろう。
「ツう………!?」
そんな考え事をしてるうちに眼前に包丁が迫ってくる。それを俺は間一髪の所で避ける。
こいつは躊躇ってものがないのか。
間髪入れずに今度は横から包丁が首めがけて飛んでくる。こいつの攻撃は全て俺の急所を狙っている。本気で殺す気だと分かる。
女だからって言って手を抜ける状況じゃないな。
「俺も殺すつもりでやるよ。」
女と言ってもこっちは中学生であっちは身長もガタイも向こうの方がある。
そして向こうには武器がある。
格闘技のスキルをカンストしてても油断はしない。
女が包丁で刺してくる、俺はその軌道を逸らすため腕を手刀で打つ。
ただこれではキリがない。
何とか刃物を奪わなければいけない。
女が包丁を刺そうとした瞬間、俺は腕を掴みそのままテイクダウンさせる。
そして包丁を奪い取り、それを遠くへ投げた。
「勝てた…」
「涼介くん!」
弥生が母親の制止を振り切って扉から出てくる。
俺の気が弥生の姿を見て緩んだ瞬間、女はそれを見逃さなかった。
コートの中からナイフを取り出し、俺の拘束を解いて、弥生に向かい走っていく。くそなんで俺を狙わない。
俺は弥生の前に身を投げ出す。あの時決めたんだ。俺が絶対守るって!
「庇うと思ったよ。」
女はにやりと不気味な笑顔を浮かべて、俺の身体にナイフを突き立てる。
「やったやったよ司くん!」
自分の身体から赤い液体が滴り落ちる。これは前世の俺が死んだ時と同じ一一
ただこのまま死ねば弥生たちが危ない。俺はふらふらになりながらも渾身の力で女を殴り飛ばした。
そして俺はその場に倒れ込む。パトカーのサイレンが今頃聞こえてくる。
「涼介くん!!やだ!やだ、死なないで!」
弥生や弥生のお母さんたちが泣きながら俺に駆け寄る。この人達を守ることが出来て良かった。
俺は安心すると目の前の視界が真っ暗になった。




