君が死んだ後の世界
病院の中が映し出されると、横たわっている男の顔に白い布のようなものがかかっている。その近くで泣いている俺の両親を見る限り、恐らく俺の死体なのだろう。
長いこと両親とは会話もしてなかった。ニートの俺に呆れて、もう愛情なんてないと思っていたが、泣き崩れてる両親を見て、胸が痛くなる。今までずっと親不孝だったのに、親より先に死ぬという親不孝を更に重ねてしまった。
ドアが勢い良く開いて、弥生が入ってくる。
「おじさん、おばさん!涼介は!?」
泣き崩れてる両親を見て、察したのか弥生はその場に崩れるように座り込んだ。
「な、なんで…」
現実が飲み込めておらず、何度もその言葉を繰り返す。頭を抱えて、首を振っても俺が死んだという現実は変わらない。自分の命になんて価値がないと思っていたが、他人が同じとは限らない。
『弥生は…なんで死んだんだ…?』
『とりあえずその答えは続きを見て、自分で確かめてね』
スクリーンの映像が早送りされ、近くのセレモニーホールが映った。喪服を着てる人達がいることを察すると、俺の葬式だろうか。
ただ友達なんていなかったので、来るのは両親の知り合いや身内だけだと思うが
弥生が命を絶ったという話を聞いたから、急いで、姿を探した。
入り口のところで受付をしてる姿を見つけた。
顔は憔悴しきっていて、今にも倒れそうな状態だった。
暫くすると、俺と同い年ぐらいの集団が入ってきた。
あれは…まさか…雪ちゃん。そして隣にいるのは栗原や俺を虐めていた奴らだ。
なんでこいつらが大して仲良くもないのに…
「弥生ちゃん。久しぶり。涼介くん残念だったね…」
「…雪ちゃん。」
雪ちゃんは受付の弥生に話しかけると、俯いていた顔を弥生はゆっくりと上げる。雪ちゃんの隣にいる男の顔を見て、見る見ると表情を変えていく。
「!?…何であんたらが来てんのよ…」
「弥生ちゃん。落ち着いて…栗原くんたちも涼介くんにしたことを悪く思ってるみたいなの…せめて一言だけでも謝りたいって言ってて…」
「帰って……」
「宮村。久しぶりだなぁ。あの高原がまさか誰かを庇って死ぬとはな…かっこいい死に方だよな。」
「ちょっとやめなさいよ。」
「うるせーよ雪。あんだけ今まで無様だったのになぁ」
「これから大事なを時期なのよ。今問題を起こしたら」
「大丈夫だよ。ほら」
そう言うと栗原は札束を受付のテーブルに投げる。
「慰謝料だから、これで忘れろよ。」
栗原だけでなく、後ろの取り巻きたちも笑っている。死んでも尚、馬鹿にされるのか俺は
「弥生ちゃんごめんね。ただ涼介くんの家族もこれから入用になると思うし、受け取ってね?」
「帰れって言ってんのよ!」
弥生が泣きながら、栗原に掴みかかる。
ただ女性の細腕では、栗原の身体はぴくりとも動かなかった。
「あんな奴に本来1円も払いたくないんだけど、慰謝料足りなかったかぁ?」
栗原は弥生のことを振り払うように平手で殴り、弥生は受付の机にぶつかるように倒れ込んだ。
『天使!俺を今直ぐあそこに飛ばしてくれ!早く』
『無理だよ。今見てる世界はもう過ぎ去ってしまった世界だからね。ただ巻き戻して映像で見てるだけにしかすぎない』
自分の大切な幼馴染が傷つけられてる様を指を咥えて見てるしかできない。悔しさで口を噛んで、血が出てくる。
この騒ぎを聞いて、周りの人間が弥生たちの周りに集まってくる。
「本当にごめんね。弥生ちゃん。これ弥生ちゃんの分だから。治療費に当てて、もし足りなかったら、電話してね…」
そう言って、雪ちゃんは弥生に小さい包みを渡した。
そしてその顔は何故か笑っていた。心底楽しそうに
そして倒れ込んだ弥生の耳元で何かを囁き、栗原たちと会場を後にした。
『なんだこの映像…これが実際に起こったことなのか…』
『そうだよ。あなたが前いた世界で起こったこと。そしてこの後直ぐ、あなたの幼馴染は首を吊ったよ…。』
あいつの気持ちも知らずに俺は別の世界でのうのうと生きて、そして今の世界でもまたあいつを傷つけて…。
それに雪ちゃん。あの子は何かを隠している。弥生に何を言ったんだ…。
「有難う天使。俺にこれを見せてくれて、俺を生き返らせてくれて…」
天使が俺の顔を見て、一瞬こわばっていた。
何か狂気を見るような顔だった。
狂気でも何でも染まってやる。あいつらを破滅に導けるのなら…
幼少期編完