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10-9話 三者三様(後編)


 これはただの狩りで、言うならばお遊びである。

 とは言え、マルクはこの狩りに自分の全てを注いでいた。

 貴族としての誇りの為、命をやり取りする獲物への感謝の為……そういった話ではなく、単純に、友達と本気で遊ぶという事の経験がない為だ。

 だからこそ、過去を取り戻す位の心構えを持っている。

 何てことはない。

 要するに……マルクは全力ではしゃいでいるだけである。


 とは言え、そこらへんの子供と違い、マルクのはしゃぎ方は普通に大人げない。

 全力で、それでいてあらゆる手段を持って相手を上から叩き潰すなんて発想をするはしゃぎ方をする子供なんて他にいるだろうか。

 貴族としての教育を受け、あらゆる事を何なくこなすマルクだからこそのはしゃぎ方なのだが……えげつないと表現する以外に表せなかった。


 それでも、あの二人ならこんな普通でない自分の全力でも受け止め、尚且つ正面から勝負してくれるとマルクは信じており、またそれだけやったとしても絶対に勝てるとは思っていない。

 それだけ、あの二人の事をマルクは信じていた。


 とは言え、エージュは最も獣が少ないという意味で不利な平地であり、また本人もさほど勝負する気がない様伺える。 

 そこまで用心しなくても良いだろう。

 問題は、サリスの方だ。

 最も過酷で危険ながら最もリターンの多い森林地帯に赴いた身体能力の高い野性的なサリス。

 マルクはサリスという存在に対し一切の油断を持っていない。

 自分よりも巨大な獲物を狩る事なんて当たり前の事であり、場合によってはそれこそ地元民であるマルクすら見た事も拝んだ事もない凄まじい何かを狩ってくる事さえありえる。

 真向から立ち向かう場合、サリスにマルクが勝っている部分は余りに少なかった。


 だが、真向ではない場合マルクにはサリスやエージュに対し強力な武器を持っている。

 それは、情報という名の武器である。


 狩場のどこに何がどの位いるか。

 そしてその獲物がどの位の戦闘力でどの位食材として向いているのか。

 そういった情報を事前に仕入れ集めている事こそが身体能力の劣るマルク最大の武器である。


 この事に、マルクは卑怯ともズルいとも思わない。

 出来る事を遠慮して行わず、全力を出せる時に出さない事。

 それこそがマルクの思う卑怯な行いだからだ。


 そしてその上で、悲しい事に情報を最大に使い普通に狩ってもマルクはサリスどころかエージュにも及ばない。

 理由は単純に、身体能力の差だ。

 サリスは当然、エージュすらも獲物を狩るだけなら余裕と言って良い程の戦闘力を持っている。

 だから通常の狩りを行った場合、ネックとなるのは獲物の強さではなく、それどころか質でもない。

 重要となるのは、大きさ。

 つまり……自身の輸送量の限界値である。

 どれだけ大きな獲物を沢山狩ったところで人一人が運べる量はたかがしれている。

 そして狩猟能力に問題のない限り、そのネックが勝敗の決定的な差であると言っても過言ではない。

 そうなると、手足が短く力の乏しい自分こそが最も不利な条件であると言っても良い。

 そうマルクは考えた。


 それでも、マルクは負ける気などサラサラない。

 今までの様な負けてはいけない戦いではなく、負けても良い遊戯での勝負である。

 だからこそ、ちゃんと己が意思で、マルクは本気で勝ちを目指したかった。

 それこそが、本当に価値がある勝負だとマルクは考えていた。

 そしてそれ故に、マルクは真っ当ではない方法で狩猟勝負を勝利しようと企んだ。


 傾斜が高く、木々の生えていない禿山。

 その山岳地帯半ばから、マルクは空を見る。

 暗くなりだし星が見えだした夜空は、マルクの目ではほとんど何も見えない。

 それでも、上空にうっすらと何かが飛んでいる様な気配と音は聞こえた。

 その程度しかわからないのだが、その程度分かればマルクには十分だった。


 マルクはそっと弓を構え、弦を引き絞る。

 狙いを定める必要はない。

 重要なのは、この弦を引くという動作そのもの。

 その動作により、上空の気配がどう反応したかである。


 弦を引く時に響く、糸の引き絞られる僅かな音。

 その音に上空の鳥の内数羽が反応し動きを変える。

 今までの様に旋回するのではなく、右往左往と狙いを定められない様に不規則な動きとなった。

「……運が良いな。一羽でもいれば良いと思っていたが……」

 そう呟き、マルクは適当に弓を放つ。

 引き絞られた弦から放たれる矢はまっすぐ空に向かい、そして何の得物にも触れず空に消え、それと同時に一部の鳥が逃げていき空にいる鳥の気配が一気に少なくなる。


 だが、マルクが狙いを定めた得物は何故か逃げていなかった。

 マルクの狙う鳥には幾つか変わった習性を持っている。

 例えば、弓を引き絞る音に反応する事、矢が飛んだ後すぐに逃げずしばらく不規則な挙動で様子見をする事。

 そのに加えて夜活動する事

 それらには共通した、たった一点の理由がある。

 要するに、この鳥は昔から弓で狙われやすかったのだ。


 長い歴史で矢の餌食になり続けたからこそ定向進化で矢に対して強くなった。

 逆に言えば……矢に射抜かれ続けた歴史があるという位その鳥は狙われる理由を持っているという事。

 つまり、長い歴史で見て保証される位その鳥は旨いという事だ。


 マルクは再度、弓を構えわざとらしく弦を引く。

 それだけで空の鳥は慌てて不規則な動きに変化する。

 そんな動きを遥か彼方上空で見えない中されるのだから、普通に考えると矢を当てる事など出来る訳がない。

 そう、普通なら。


 更に弦を引き絞り、弓をしならせ、その音に反応し鳥達は方向を急転換させる。

 その瞬間、マルクは矢を手放した。

 引き絞られた弓と弦から勢いよく放たれ、矢はあらぬ虚空に飛んでいく。

 何もない空にまっすぐ向かう矢。

 その矢に、何故か鳥が自分から向かって来て、そして鳥は矢に射抜かれた。


「……一匹目。次」

 そう呟き、マルクは再度弓を引き絞り、放つ。

 その矢もまた虚空に飛び、そしてその矢に鳥が自ら向かってくる様射抜かれる。


 鳥の中でも知能が高く、矢に対して反応する鳥だからこそ、マルクにはその鳥の考えが未来予知というレベルまで深く読み取れる。

 それはつまり、矢を見てどう動くかわからない普通の鳥よりも射抜きやすいという事に外ならなかった。


「……四羽中二羽か。まあ、僕の腕ならこんなものか」

 暗闇で鳥を射抜くなんて芸当をしておきながらそう呟き、マルクは松明に火をつける。

 そして落ちた鳥の首を落として血抜きをし、一羽ずつ小さな布袋に入れた後纏めて大きなバッグに入れた。

「これで……十二羽か。そろそろ一旦バラすか」

 周辺に血の臭いをかぎ取った獣達の気配を感じるマルクはそう呟き、松明を持ったままマルクはさっさと移動を開始する。


 移動した先は、小川だった。

 そこでマルクはさっきまでで落とした鳥、『陽落鳥』を纏め、解体ナイフで丁寧にばらし水洗いをする。

 そしてばらした部位で胸と喉の部位だけを集め、バッグに入れていた別の小さな袋、ひんやりとした冷気を放つ袋に仕舞っていった。


 これがマルクの作戦、大量に獲物を獲り大量に持ち帰ると予想されるサリスに対抗する為の『量より質』作戦である。

 見つけやすい割に狩りにくく、それでいてやたらと美味い陽落鳥のみに獲物を集中させ、その上で美味いと言われる胸と高級部位である喉だけを持ち帰る。

 これなら大した量を持ち帰れない自分でも勝ち目は高いであろう。

 その上で、鮮度を落とさない為に事前に準備した保存用の冷気袋を使用する。

 コネ、情報、財力、能力。

 その全てを費やして考えた作戦が、これだった。


 そしてマルクが解体を終えるというタイミングで、がさっと何かがマルクの前に姿を見せる。

 マルクはそれに松明を向けその姿を確認した。


 爬虫類の様な鱗を持ち、前足を宙に浮かせた二足歩行をする大きな頭と牙を持つ小柄な獣。

 それはまるで小さな陸を這う竜の様。

 そんな獣が五匹位の群れを成しマルクの傍に来て今にも襲い掛からんとする雰囲気を醸し出していた。


「『ラプター』か」

 そうマルクは呟いた。

 ラプター。

 小柄な割に戦闘能力が高く、狩り自体も決して苦手ではないがどちらかと言えばその移動速度と連携を生かし誰かが狩った獲物を横取りする方が得意。

 そんな獣である。

 ちなみに、味自体も決して悪くはない。

 固く脂身は少ないが代わりにしっかりとした肉自体の旨味を持つヘルシーな肉である。

 そう、悪くないのだが……悪くない程度でとても美味いという訳ではない。

 俊敏で逃げ足が速いという戦いになると時間がかかる上に取ろうになりそうな上、そこそこの肉。

 マルクから見れば狩る意味のない相手でしかない。

 そんなマルクは陽落鳥の胸と喉以外の部位を全て、ラプターの方にばらまいた。

 それに合わせ、隠れていたラプターも含めて一斉に現れてそのばらまいた肉をマルクの方に意識を向けながら貪りだした。

 計九匹。

 九匹の獣が全員足を止めたのを確認し、マルクはその場から静かに離脱した。


 そこから数度同じ事を重ねた辺りで、キャンプ地より大きな爆発の音が響く。

 それは、時間終了の合図だった。




 三人によって狩られた獲物が食材置き場に並べられ、それらを詳しく確認した後、プランは食堂で待つ三人の元に向かう。

 そして三人はプランを見て、緊張した面持ちとなった。

「それで、プランの目から見て誰が一番であったか?」

 そうマルクが尋ねると、プランは困った顔をした。

「それさ、ほんっとうに私が決めて良いの?」

 三人は困り果てたプランの言葉に心の底から同意し頷いた。


「というかプランじゃないと駄目だわ。他の誰が言っても納得出来ない。さあ遠慮はいらん、誰が一番だった。やっぱり俺だろ?」

 そう、サリスは自分こそが一番であると自信に溢れながら言葉にした。

「うむ。文句など言う訳がなかろう。誰が一番であってもな」

 そうサリスに負けない自信を見せながらマルクが言葉を足し、エージュは静かに頷いた。


「はーい。んじゃ、発表しまーす。でろでろでろでろでろでろ……」

 口で変な擬音を再現しながらプランは三人の周りととてとてと走り回り……そして、その勝者の手を掴み高くあげた。

「と言う訳で一番はエージュでしたー。はくしゅー」

 そうプランが言葉にすると、張本人であるエージュを含めた全員が目を丸くした。

「え? は、はい? 私です?」

 エージュが驚きそう尋ねるとプランはしっかり頷いた。

「うん」

「どうしてか尋ねても?」

「色々あるけど……今日は魚な気分だったからかなー」

 そんな答えを聞き、エージュは少々複雑な気持ちとなった。

「いや。そんな理由でお二人の勝負を邪魔するのは少々心苦しいのですが……」

 そう困った顔で呟くエージュにプランは溜息を吐いた。

「はぁー。全くエージュはー。ちゃんとそれだけじゃないよ。心配なら皆が何をして何を取ったのか確認して、どうしてそうなったのか説明しましょか?」

 プランの言葉にエージュが頷くと、プランは三人を連れて食材置き場に移動した。


「と言う訳で、これらが三人の獲ってきてくれた食材でーす。ありがとねー美味しく調理するからねー」

 そう言ってプランは三つの食材の山を見せた。


 その中で、最も目立つのは間違いなくサリスの用意した食材だろう。

 何と言ってもワニと熊がそのままの形で山に混じっているのだから、その見た目のインパクトはすさまじい事になっていた。

 人より巨大なワニと熊、そして数匹の野鳥と蛇。

 そんな普通の女の子が見ると泣きそうな絵柄がサリスの成果だった。


「……うむ。予想以上というか……というよりもどうやって運んだのかとても気になるな」

 明らかにサリスの体積の何倍もある成果にマルクはそう呟いた。

「根性だな。んでお前のは……何か肉屋みたいになってるな」

 そう言ってサリスはマルクの成果に目を向ける。

 そこには解体かれた同一の肉の部位が葉っぱの上に丁寧に並べられていた。

 合わせて五十羽分以上はありそうである。

「美味い部分だけを鮮度良く。高級食材だけを持ち帰り残りは獣と大地に返した。全部は僕では持ち帰れないからな。それでも十分な量だしかなり美味い。だからサリスに負けたとは思っておらんぞ」

「奇遇だな。俺もお前にゃ負けたとは思ってないわ。んで……その俺らに勝ったエージュは……」

 そう言って火花を散らせあった後、二人はエージュの成果に目を向ける。

 それは、一目で二人が自分達の負けを受け入れるには十分だった。

「ああ。こりゃ勝てないわ……」

 そうサリスは呟いた。


 大量の野菜と果物に加え、その上に並べ慣れた大量の魚。

 野菜は葉物を中心に五種類位あり、果物は十種類以上。

 魚も大小様々だが最低でも三十センチ、大きな物ならメートル近くある。 

 それは量こそサリスに及ばないもの、それでも人一人で持ち帰るにはあり得ない量である。

 また品質も恐ろしい程に良い。

 特に果物なんてどこで見つけたのかわからない程豊かに実っていた。


「……魚は……冷凍しておるのか」

 マルクの呟きにエージュは頷いた。

「はい。釣ったその傍から魔法で凍らせていきました」

「……やけに大きな魚が多いが……餌は何を?」

「最初は用意したパンや果物を使っていたのですが、途中から蜥蜴を立たせて竜に寄せた様な獣に襲われまして。それをバラして餌に」

「……ラプターか。なるほど。……侮っていたつもりはないが……うむ、そなたの事をまだまだ過小評価していたらしい。悔しいもんだ。次は負けないぞエージュ」

 そう言って、マルクは本当に悔しそうにしながら微笑んだ。


「俺の方はともかく、エージュは良くこれだけ運べたな。どうやったんだ?」

 単純な疑問としてサリスはそう尋ねた。

「エージュはこれで持ってきてたよ」

 そう言って、プランは奥から荷車の様なものを動かし三人の前に用意する。

 持ち手のある、青い大きな荷車。

 その荷車は大多数の部位が氷で形成されていた。


「池か大きな水たまりがないと無理ですが、そういった物を材料として荷車を作れる様にしているんです。車輪の部分だけはさすがに作れませんが。ですのでこうやって車輪と構築する時に使うロープだけは持ち歩く様に」

 そう言ってエージュは小さな車輪を幾つかサリスに見せる。

 それを見てサリスは苦笑いを浮かべた。

「まいったまいった。そんな切り札があったのかよ。真面目にえっちらおっちら運んでいたのが馬鹿みたいだぜ。いやー負けた負けた。超悔しい!」

 そう言ってサリスはごろんと地面に寝転がる。

 ただしその表情は一点の曇りもない程に笑顔だった。


「まさか私がお二人に勝てるとは……いえ、良く良く考えるなら負けるはずあり得ませんのよね」

 そんなエージュの言葉にサリスはにやっと笑った。

「お? お前にしちゃ珍しく挑発的な言葉じゃねーか」

「いえ。私自身のスペックはお二人よりかなり低いです。お二人を十割として……私は精々六割位でしょうかね」

「んな事はないと思うけどなぁ」

「まあ、そう仮定してくださいまし。そして……」

 そう言いながらエージュは青白く光る妖精を呼び出した。

「私と同じ位の能力を持った仲間がここにいます。六割が二人で十二割。ほら、お二人に負ける訳がないでしょう?」

 そう言ってエージュはにっこりと微笑み、妖精を撫でた。


 魔法を使用するだけじゃなく、今回は妖精にも分担して仕事を任せ、妖精はその期待に対し十分な成果を見せた。

 だからこそ、遥か上にいる二人にエージュは勝つ事が出来た。


 地を這う自分でも、友達がいれば以外と頑張れる。

 地道な事を、出来る事を相違工夫でコツコツ重ねたら、十分に追いつける。

 そう思えた事が、今回エージュにとって確かな財産で最も大きな報酬だった。


「あーそか。そういった便利な小技、ヴェインの奴から習ったのか」

 サリスがそう言葉にすると、エージュは苦々し気に頷いた。

「はい。業腹ですが……不服そのものですが……あの方から教わった事は本当にありがたくて……素晴らしくて……納得出来ませんが、本当に頼りになっております」

 そんなエージュの様子にサリスは苦笑いを浮かべた。


「普段人の悪口を言わないお主にそんな風に言われるとは……そんな酷い奴だったかヴェインハットとやらは?」

 そうマルクは尋ねた。

「馬鹿」

 サリスはそう一言に締めくくり。

「女性を見かけると誰にでも声をかけるふしだらな人」

 そうエージュは溜息を吐いて答え。

「私にだけナンパしない失礼な人」

 そうプランはふてくされた様な顔で呟いた。


「……ああうん。プランは……その……ほら、頑張れ」

 そんな慰めにもならない慰めをマルクは呟く事しか出来ず、再度プランは不貞腐れた。

 プランに振られたマルスが何か言える訳ないという事を忘れて――。




 功労者である三人をテーブルに座らせ、メモを取る用意をするキュリオを傍に付けながら、プランは何から作ろうか考えだした。

 考えて考えて、そしてとても大切な事に気が付いた。

 まず、サリスの用意した成果を解体する事から始めなければならないのだと。

 プランはワニを解体した事がない。

 やってみれば出来ない事はないのだろうが……この人よりも大きなワニを上手に解体出来る気はしなかった。

「おーいみんなー」

 座って待っててと言った手前言い辛いのだが、プランは三人に声をかけた。

「んー? どしたー?」

 サリスがそう尋ねるとプランはワニを指差した。

「あれ解体してくれないかなー? その間にこっちは何か作るからさ」

「あいよ。悪いが二人共手伝ってくれないか?」

 そう言われ、二人は頷きテーブルを立った。


 サリスは大きな刃物を手に、マルクは小さく鋭い刃物を、エージュはナイフを手に妖精を呼び、三人はワニの方に移動する。

 その途中、プランはすれ違ったエージュから何やら甘い香りがしたのに気が付き、ふふっと小さく笑った。


「……ん? プランさん。どうかしましたか?」

 エージュにそう言われ、プランは笑いながら首を振った。

「ううん。エージュがつまみ食いなんて珍しいなーって」

「つまみ食い……ですか?」

 首を傾げるエージュにプランは頷いた。

「うん。だって、何か超甘い匂いするもん。我慢出来ず果物食べたんだね。ああ悪いって言ってるんじゃないよ。珍しいなって思っただけだから」

 そう言われ、エージュは妖精との約束で貰った物を思い出した。

 氷の器に輝く果物のミックスジュース。

 わざわざ妖精が自分の為だけに作ってくれた、特別な物。

 それは人生で、一番と言える位のジュースだった。


「――はい。素敵な味でしたよ」

「わかるわかるー。つまみ食いが一番美味しいよねー」

 そう言って微笑むプランを見ながら、くすくすと微笑みエージュは妖精を見た。

「ええ。秘密の味って美味しいですよね」

 二人だけの秘密。

 妖精と、自分だけの内緒の味。

 そんな素敵でメルヘンな事に自分達がなるなんて思っていなかったエージュはそう呟いた。


 それに合わせ、妖精はとんとエージュの頬にぶつかりキスらしき行動をとる。

 その妖精からもジュースと同じ匂いがして、エージュは楽しくて笑いが止まらなくなった。

 

ありがとうございました。

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