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10-4話 ロスカル公爵領首都、レイザー


 馬車の中では皆雑談に毛が生えた程度の話しかしなかった。

 お互いにいない間何があったのか、どういった事情を抱えているのか、今何に困っていて何をしたいのか。

 そんな建設的な話をする空気にはならなかった。

 お互いの事を想い助けあう為そういった話をする事はとても大切な事だろう。

 だがこの場ではそれは適した会話ではなく、無粋とさえ言える。


 久方ぶりの邂逅に言の葉を交わす事、命の危機も命を背負う事もない、何を話しても問題の起きないそんな不必要な無駄話こそ、謀略と策略蔓延る世界に生きるマルクにとって最も求めていた事であり、プラン達はそんなマルクに完璧なまでに無駄な話を提供した。


 そんな楽しく話すだけの幸せな馬車旅にて二週間程の時間を過ごした頃、マルクは馬車の中から外を見た。

「……そろそろ終わりか」

 その言葉の意味をプランが尋ねる前に、さっきまで寝ていたサリスがぴくっと体を揺らし慌てて外を見つめた。

「誰かに見られてる。……敵意はねぇが……どこかわからんな。だが……間違いなくどこからか俺らを見てやがるぞ」

 そう言ってサリスが険しい顔をすると、マルクは申し訳なさそうに微笑んだ。

「……何と言うか、見抜いたサリスを褒めるべきか、見つかった者に注意をすべきか……。すまんな、うちの者だ」

 その言葉を聞き、サリスは眉を顰め後頭部を掻いた。

「そか。……なかなかに大した護衛を雇ってるじゃねーか」

「護衛というか、門番だな。領と領の境の番人であり、同時に諜報の一員でもある」

「……番人、つーことは……」

 サリスの呟きにマルクは頷き、この場にいる全員に微笑みかけた。

「少し遅れたが、ようこそロスカル公爵領へ。嫡男として、友として、皆を歓迎しよう」

 そう言葉にし、マルクは外の方に手を向ける。

 そこには十人程の少数の軍人が、この馬車に対して剣を捧げていた。


「……すまぬな僕直属の者しか呼べず。本来なら領を挙げて軍を揃えての歓迎をしたいところであったのだが込み入った……、いや、僕の極めて個人的な事情だ。許して欲しい」

 そう言ってぺこりと頭を下げるマルクにプランは苦笑いを浮かべた。

「いやいやいやいや。サリスとかエージュならともかく、私やクコ君みたいな一般人にそういう仰々しいのは恐れ多いよ」

 その言葉にサリスとマルクは首を傾げ、エージュは苦笑いを浮かべる。

 そしてクコは……。

「いや、お前と一緒にするな。俺は正真正銘の一般人だから」

 そう、ばっさりと切り捨てた。

「何で!? 私超庶民派の一般人だよ! 貧乏暮らしも慣れてるよ!」

「お前が庶民というのは何か……無理がある……」

「どの辺が? 私苗字すらないんだよ」

 そうプランが言葉にすると、クコはサリスの方を見た。


「プランお前、名前隠したとは言えアップルツリーで聖女様やったじゃん」

「ぶっちゃけアレだけで領地貰える位コネは手に入ったと思うぞ。というかシュウさん辺りに相談したら即日領主になれたというか押し付けられたぞ」

 更に追従するクコの言葉にプランは目を細め冷や汗をかいた。

「うぐぅ」

 そう言ってごまかそうとするプラン。

 そんなプランを見た後、クコはエージュの方を見た。

「プランさん……。枢機卿だけでなくアルストロメリア王妃とご友人という立場で一般人は無理があるかと……」

「は? プランお主メリア様と親しいのか!?」

 マルクは驚きそう尋ね、プランはおずおずと頷いた。

「う、うん。ちょっと事情があってお友達になったよ。あ、でも極偶にお茶会を楽しく位でそこまで親しくないから」

 その言葉に、マルクは溜息を吐いて顔に手を当てた。

「それは十二分に親しすぎるだろう。そも、堂々とメリア様と友だと言える自体特例過ぎる。僕には考える事すら及ばん。王家の親戚筋である我が領ですら、メリア様と親しいとはっきり言える者は一人もおらんぞ」

「そ、そうかな」

「うむ。……この二週間でこれだけ話したのに、まだそんなとんでもない話題が残っておったのだな……尊敬を通り越して……少し引く」

 そうマルクが言うと、その横にいるキュリオもこくこくと頷いた。


「えぇー。私普通なのに」

「お主が普通なら全人類が普通となるわ。……もうないよな?」

 そう言ってマルクがクコの方を見つめた。

「うん。ないよ。……ないよね?」

 その言葉にクコは珍しく満面の笑みを浮かべたまま、言葉を紡いだ。

「今色んな領がお前の事スカウトしようと探ってるぞ。実際学園にも数人来てる」

「何で!? ねぇ何で!?」

「何でもなにもマフィット辺境伯剣技トーナメントで活躍したからだろ」

「私賞的な物何も貰ってないしそんなに勝ってないよ!?」

「あの大会な、参加してるのお前と最後お前が戦ったハルトって奴以外全員どこかで名前が通った有名な剣士だったからな?」

「……ふぇ?」

「予選でがっつりと人を減らした選ばれし者しか出れないトーナメントに全く無名の少女が現れ、そこそこ勝って負けたとは言え最後にとんでもない剣技を、試合を披露した。しかも調べたら剣鬼ティロスの推薦だ。ま、話題にならない訳ないわな」

「えぇ……」

「ちなみに二つ名こそ認定されなかったが、次代のソードダンサーとか剣舞姫とか銀鬼とかいうあだ名が付けられてたぞ」

 プランは馬車の中でそっと頭を抱え、蹲り小さくなった。


「うむ。お主は一般人では決してない。何故か爵位を持っていないだけで、完全にこっち側の、公爵とか伯爵とかに位置する何かだ」

 そのマルクの言葉に、その場の全員が頷いた。

「解せぬ……」

「いや、解せよ」

 サリスの突っ込みを、プランは耳を塞ぎいやいやと聞かないフリをした。




 しばらく馬車が進み、大きな街……というよりも超巨大でまるで国その物の様な都市が見えた辺りでマルクは声を荒げた。

「これが我が領の主都、大都市レイザーである! ……とは言え、王都にいるお主らから見れば別段大したものではないかも知れぬがな」

 そうマルクは言葉にした。

 そう、レイザーは王都と比較するならその大きさも、発展具合も、内包する建造物の幅広も、あらゆる部分で勝っている部分が見当たらない。

 完全に王都の劣化である。

 だが逆に言えば、国内最大都市である王都と比較する事が出来る程には発展しているという事である。

 その上で、戦車競走等王都に負けておらずレイザーならではの目玉の娯楽すらある。

 それだけでレイザーがどれだけ凄まじい発展と遂げた都市であるか皆が理解出来た。


「うーん。流石公爵家。ぱねぇな」

 サリスがぽつりと呟くと、マルクはむふーと鼻高々に胸を張った。

 その横で、キュリオがその姿に萌え悶えていた。


「おっと。坊ちゃま。あの事の説明をしておかないといけないのではないでしょうか。特にサリス様やプラン様には……」

 そうキュリオが言うとマルクは我に返り、悲しそうな顔を浮かべた。

「私は皆に迷惑をかけた。それ故恥知らずかもしれぬが、皆を心からの友と思っておる。もちろん、クコもだ。そして、皆も私を友と思ってくれたら嬉しいと。だからレイザーに入る前に言っておきたい事がある。事情は後に説明するが、僕の立場というのは非常に微妙で、繊細な位置にある。だから……」

 そうマルクが言うと、プランはそっとマルクの手を取った。

「何か、手伝う事ある?」

 まっすぐ見つめてくるプランの瞳は、まるで心の奥を見通してしまいそうで恐ろしい。

 だが、それより恐ろしい事がある。

 全てを見抜かれても、内心を読まれてもプランになら良いかなと思ってしまう事である。

 為政者であり鉄の心を持たねばならぬのに、気づけば心のロックが無意識に解かれる。

 それこそが、最も恐ろしい事だとマルクは思っていた。


「……いや。逆だ」

 プランから目を逸らし、手を放して首を振りながらマルクはそう呟いた。

「逆?」

「ああ。レイザーでは私にとって不都合な事があり、もし私を友と思ってくれているなら理不尽と思う様な事があるだろう。だけど、それでも何もしないでおいて欲しい。そっと見守って欲しいんだ」

「……私あんまり頭良くないから良くわからないけど……マルク君が良くない目に遭ってるけど手を出さない方が都合が良い、と言う事で良いかな?」

「ああ。その通りだ」

「ん。わかった。出来るだけそうするね」

 そう言ってプランが微笑むと、マルクも微笑み返し頷いた。


「では、正門でなく申し訳ないが……我が街にようこそ、代表の一人として心より歓迎しよう」

 巨大な正門の傍にある馬車一台入るのがギリギリ位の小さな門が開くと、マルクはそう言葉にし両手を広げてみせた。




「んで、これからどうするんだマルク。ああ、この街では様とか何かそれっぽい呼び方した方が良いか?」

 馬車から降りた後、サリスはそう言葉にした。

 とても敬意を示せる様には思えないそんな不遜な態度。

 それに対しマルクは微笑み首を横に振った。

「いや。正直に言えば、サリスはそのままで良い。というよりもそのままの方が僕に都合が良い」

「……お偉いさんの考えはわからんが、まこのままの方が俺も楽だし考えるのは俺以外の奴の仕事だ」

 そう言ってサリスはゲラゲラと笑ってみせた。


「うむ。こちらはそれで良いのだが……そなたは何も知らぬ事を不安に思わぬのか?」

 マルクの言葉にサリスは首を傾げた。

「ん? 不安って?」

「皆が何をしているのか、何をしたいのか。それがわからぬまま動くというのは暗闇の中を進む様なものだ。怖くない訳がない。それなのに、考えないと言い切れるだけの勇気を、どうしてサリスは持てるのだ?」

「あん? そりゃ……マルク、あんた思い違いをしてるわ」

「思い違い?」

「考える事が得意なクコがいて、最善を求めるエージュがいて、発想がぱないプランがいる。こいつらが俺に役割を命じ、俺はただそれだけを一直線にやり遂げる。そこに不安などある訳がない。道の先に光を示してくれてるのに走らない程俺は愚鈍じゃないからな。だから逆だ。考えない事こそが俺にとっては最も不安じゃない行動なんだ」

「……他人の命令に、不安はないのか?」

「他人じゃない。ダチだ。ダチの命令に不安などある訳がないし、失敗して死んでも後悔もない。それがダチだろ?」

 そう言ってサリスは力強く笑って見せた。


「……お主にとっての友とは、重たいのだな」

「おう。俺のダチは重たいぞ。しっかり背負えマルク」

 そう言ってサリスはマルクの頭をワシワシと撫でまわす。

 その後、マルクはそっと自分の背中を、触った。


「それでマルク。その何もしない方が良いって言うのは一体――」

 そうクコが言葉にした瞬間、正門に位置する超巨大な門が軋む様な音を鳴らせ、開く。

 それと同時に万に近い大歓声が轟きクコの声はかき消された。

「な、何が起きたんだ?」

 そうクコが呟くと、マルクは正門の方角を見つめ呟いた。

「来たか」

「あん? 何が来たって?」

 サリスの問いにマルクは馬に乗った集団を指差した。

 馬に乗った十四、五人と、それを護衛するように取り囲む歩兵や騎兵、騎士、馬車の集団。

 まるでキャラバンの様な集団だった。


「国家認定書を持った冒険者達と、我が領の軍人達だ。つまりあの馬に乗っている者達はお主らの冒険者としての先輩だな」

「そういう奴ら呼んだって事は何かトラブルでもあったのか?」

「いや。僕がプラン達を呼んだのと同じで、遊びに誘っただけさ」

「ほーん。じゃあどうしてあっちはあんなに仰々しく迎えてんだ? 有名だからか?」

「有名なのは事実だがそれが理由じゃない。派手な理由はあっちは弟が呼んだんだ」

「何で弟が呼んだらあんな派手な――」

 そうサリスが言葉にした瞬間、数十人の騎乗集団は何故かマルクの前に移動し、そして馬から降りもせず無礼にも頭上から話しかけだした。

「おやマルク様。こんな場所においでですか。すいません。そんな小さな門から来られるのでいらっしゃった事すら気づきませんでした」

 騎馬集団の先頭にいる人物はその言葉の節々に嫌味が見える様な言い方でそう言葉にした。


 先頭で馬に乗っている彼は、誰が見ても美形と呼んで良い程に整った顔立ちをしていた。

 どこか大人しげで、それでいて非の付け所がない調和。

 見事としか言えない容姿に加えて一目でお偉いさんだとわかる様な絢爛な服装。

 そんな完璧な彼だが、その彼をこの場にいる大勢の女性は彼を恋愛対象として見ないだろう。

 理由は単純であり、明らかに恋愛対象として見るには幼すぎるからだ。

 十代前半どころか、下手すればギリギリ一桁ではないだろうか。

 それ位その少年は幼かった。


 そしてその上で……その少年の容姿はマルクに非常に似ている。

 それはつまり……。


「……紹介する。彼が余の弟、シルディーク・ロスカルだ」

 そうマルクに言われ、少年はマルクの後ろにいるプラン達にそっと頭を下げた。

「ご紹介に上がりました。ロスカル公爵家時期当主、シルディーク。ロスカルです。長いのでシルド、または次期公爵とお呼びください。

 そう言って顔を上げたシルドの顔は、ニヤニヤとした品のない笑みを浮かべた。


ありがとうございました。


マルク君の髪の色……決めてなかったっけ……

どうだっけ……


矛盾が出たら申し訳なかったという事で……

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