10-3話 依頼でも学業でもなく、ただの友達との旅行
拝啓、プラン様、サリス様、エージュ様。
お手紙ではありますが、こうして連絡出来る事の喜びを伝える為、敢えてこう書かせていただきます。
お久しぶりですと。
今回は公爵家嫡男マルクドゥール・ロスカルとしてではなく以前共に冒険に出たマルクとしてお手紙を出していますので私とお三方の爵位、称号、家名等省略させていただきます事をお許し下さい。
皆様との臨時パーティーを解散し早くも三か月が経ちました。
そちらはどうお過ごしでしょうか?
こちらは未熟な身である為色々と問題が多く起きていますが何とか頑張って日々領民の迷惑にならぬ様気を付けて生活しております。
さて、本題の前に謝罪を。
私のわがままで皆様は未熟者以前の話で問題児以外の何者でもない私とパーティーを組まされ、その上で私の傍若無人な対応により命の危機に陥れた事、今でも忘れた事はございません。
責任を取る、と心から言う事の出来ない立場である事も踏まえ、真に申し訳なく思っております。
そして、厚かましい事にその様な失態を演じたにも関わらず、私は皆様とのあの日々がとても素晴らしく、かけがえのないものであったと今でも思っております。
あの日、あの時、私は責任を取る事に対して思い違いをしている事を知り、今の私となる事が出来ました。
それは一重に皆様のおかげです。
本当に、感謝してもしきれません。
そして当然ですが、そんな皆様を私は心より敬意を持ち、また恥ずかしい事に友と思っている為、この三か月少々寂しい気持ちになりました。
ですので、もしよろしければこの寂しがりな私の為に、ご友人方を連れてこちらに遊びに来てはいただけないでしょうか?
私の功績でない為あまり驕る事は出来ませんが、我がロスカル公爵領は先人の叡智と領民の弛まぬ努力により王都に負けぬ程発展しており、また食、娯楽共に高い水準を維持しておりますので、きっと楽しいと思います。
皆様がこちらに来る事には丁度戦車競走が年に一度の大パターンレースを開く頃ですので、是非ご覧になっていきませんか?
学園の課題やその間の修学についてご不安でしたら安心下さい。
その全ての責任をこちらが負う事を、ロスカル公爵家嫡男として約束します。
なので大切なのは皆様が来たいかどうかという気持ちだけです。
もちろん、お三方が精いっぱい楽しめる様努力をさせていただきます。
是非、私にお礼とお詫びをする機会を、そして愛すべき領を自慢する機会を。
そんな機会を下さる事を心より望んでおります。
追伸、本来なら領を上げて盛大にもてなし祝いたいのですが、色々と事情があり小さく迎える事しか出来ません。
ですので、申し訳ありませんがご友人の方はプラン様、サリス様、エージュ様を除いて二、三人以内になる様お願い致します。
マルクドゥール・ロスカル。
そんな手紙をプランは読み、その丁寧な文体にやはりマルク君は凄いなーと関心した。
「ところでエージュー。戦車競走ってなーにー?」
プランがそう尋ねるとエージュは少し困った顔を浮かべた。
「えと、戦車……戦闘用馬車を用いたレースですけど……私よりもハワードさんの方がお詳しいかと」
「え? そうなの?」
そう言葉にし、二人はサリスの方を見た。
「ん? ああ。ハワード領にも戦車競走あるからな」
「へー! んじゃ教えて教えて!」
キラキラした目を向けるプランを見てサリスはにかっと笑い頷いた。
「おう! と言っても、お前の好きそうなタイプの娯楽じゃねーぞ。割と過激で低俗だし」
「私が嫌いそうな感じなの?」
「戦車使って決められたコースを並走するレースなんだがな……結構危ないんだよ。接触ありだから。馬も人も普通に死ぬ」
「こわっ! まじで危ない奴じゃん」
「おう。だから盛り上がるんだ。殺し合いを見るよりは物騒じゃないが……まあ危ない事に変わりはないわな」
「ふーん。サリスは好きなの?」
その言葉にサリスは気まずそうに頬を掻いた。
「ああ……ま、な。嫌いじゃない」
「どこが好きなの?」
「要するに、レースという名前の戦車同士の戦いなんだよこれ。実際どっちかがゴールするよりもどっちかが走れなくなって勝敗つく方が多いし。何でもありで走りながら、お互いの実力と策略を大舞台でぶつけ合う。その上賭けまでありだから相当盛り上がるし……嫌な言い方だが領が潤うんだ」
「なるほどねぇ。エージュのとこにはないの?」
その言葉にエージュはこくりと頷いた。
「はい。戦車競走は軍事というよりも娯楽色が強いので、カジノとかそっち方面なんですよね。ですので、我が領ではありません。もちろん低俗だからないという訳ではなく、我が領は娯楽的な趣向にはあまり予算を回さない方針ですの」
「なるほど。……ふんふん。……サリス。マルク君とこのだからさこれ、相当派手だよねたぶん」
「ああ。だろうな」
「興味あるんだよね?」
「もちろん。うちみたいな程度の低いのでも相当盛り上がるんだ。公爵家のレースともなると……きっとすげぇだろうな」
「エージュは?」
その言葉にエージュは少し恥ずかしそうに俯いた。
「私も割と。確かに危険で低俗ですが……馬と人が力を合わせ、命を賭けて本気で戦う舞台です。それに戦車競走自体見た事ありませんので気には……」
「ほんほん。……というかさ、レース関係なく、これ断る選択肢ないよね?」
プランの言葉に、二人は頷いた。
「ある訳ねーだろ。ダチで、仲間がくっそ贅沢な歓迎してくれるんだぜ?」
「公爵様嫡男正式なご招待を無碍にするなんて出来ませんわね」
二人共隠す必要すらない程わかりやすく楽しみな表情を浮かべている。
そして当然、プランも同じ表情をしていた。
「んじゃ行こっか。三人までなら誰か呼んで良いらしいし誰か暇な人呼んで。にしても……何か書き方変だよな。二、三人にしてじゃなくて悪いけど二、三人で勘弁してってニュアンスだよねこれ」
「そりゃ、プランだからだろ」
「はい。プランさんですから」
「なしてー」
プランは不満そうにそんな抗議の声をあげるが、隣の部屋にはルージュが居座り、傍にはミグが抱き着いているこの現状では恐ろしい程に説得力がなかった。
手紙を返してから数日後、学園正門前で待つプラン達の元に迎えの馬車が到着した。
馬二頭編成で五人以上乗れる大きさの馬車、公爵家と言う名前に傷が付かない程度には豪勢で、かといって金きら金という程でもない。
質実剛健かつ絢爛豪華で機能性に優れる。
そんなあらゆる場所の良いトコ取りだからこそ、その馬車が非常に高価なものであると見る者皆が理解出来た。
その馬車から一人の少年が姿を見せる。
それを見て、プランはにっこりと微笑み話しかけた。
「久しぶりマルク君! 元気にしてた!?」
その言葉に少年、マルクドゥール・ロスカルは穏やかな笑みを浮かべた。
「うむ! 僕は元気だ。そちらも……皆壮健そうであるな」
プラン、サリス、エージュの三人の様子を見てマルクはそう呟き満足そうに頷いた。
「おう。そっちは……何か背伸びたんじゃねーか?」
そうサリスが言うとマルクは少し照れた顔を浮かべた。
「うむ。多少ではあるがな」
「三か月で八センチと六ミリは多少ではないと思いますよぼっちゃま」
そう言葉にし、馬車の中からメイド服の女性が姿を見せる。
少々きつそうな顔のスレンダーな美人。
その美人はマルクにそう言った後、三人に向かってぺこりと頭を下げた。
「お久しぶりです」
それだけ言葉にし、キュリオはいつもの指定席であるマルクの斜め後ろに陣取った。
「久しぶりキュリオ! んでガンネは?」
いつも三人でいる残り一人が見つからずそうプランは尋ねた。
「ガンネは別の仕事を任せておる。まあ領にはいるから会う機会はあるであろう」
「そかー。……うわ本当だマルク君めっちゃ伸びてる。私完全に身長抜かれてるじゃん」
そう言ってプランはマルクの傍により自分の頭に手を当ててマルクと自分の背を比べた。
「ちょ。プラン。ちか……」
頬を染めマルクがそう言葉にする背後で、キュリオは鬼の様な形相を浮かべていた。
「うーん。男の子の成長って早いねぇ」
「うむ。そうであると嬉しい。さて、僕の招待を受けてくれてありがとう。皆が楽しく思い我が領を愛してくれる様尽力を尽くさせてもらう」
「おいおい。そうじゃねーだろ」
そうサリスに言われマルクは首を傾げた。
「ふむ? 僕は何か間違えたか?」
「おう。楽しくじゃなくて、一緒に楽しむって約束だぞ。お前と狩りをする事を俺はずっと楽しみにしていたんだから」
「サリス……。うむ。僕も楽しみだ」
「おう。競争しよーぜ。んでとれた獲物をプランに調理してもらって皆で外で食おう」
「ふむ。それはとても魅力的だが……迷惑ではないかね?」
そう言ってマルクはちらっとプランの方を見る。
その不安げなマルクを見て、プランは満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫。私誰かに料理を食べて貰うの好きだから」
そう言って満面の笑みを浮かべるプランを見て、キュリオは悔しそうにプランを指差した。
「では私達は料理で勝負を致しましょう。決して他意はありません。ええありませんとも」
その様子を見てプランはぽかーんとした後、そして微笑みキュリオの手を握った。
「うん! 勝負しよう! そしてお互いの料理を食べあおー!」
そう言葉にし、繋いだ手をぶんぶんと振るプランにキュリオは困った表情を浮かべる。
だが、その顔は決して嫌そうではなかった。
「それで、そちらはあと一人連れがいると聞いたが、まだ来ておらぬのか?」
そうマルクが尋ねるとプラン、サリス、エージュの三人は顔を見合わせ首を横に振った。
「わかんにゃい。待ち合わせとかには早く来るタイプのはずだけど……」
そうプランが言った瞬間、その人物は馬車の影から姿を見せた。
「いたぞ。ただ……友人同士の話に混じって迷惑かけたくなかったからな」
そうクコは言葉にし、マルクに向かって深く頭を下げた。
「久しぶりですマルクドゥール様。私の名前は――」
「マルクで良い」
「……ではマルク様と――」
「いや。呼び捨てで良い。そして、出来ればこちらも呼び捨てで呼ばせて欲しいクコ殿」
そう、少年は酷く真剣な様子で言葉にした。
「ああ。わかったマルク。俺の方もクコと呼んでくれ」
「うむ。出来るならクコとも友となりたい。幸いな事に……我が領はそれなりに遠いからな。語り合う時間はたっぷりとある」
そう言ってマルクはクコににかっとした少年らしい笑顔を浮かべる。
昔出会ったばかりの頃延々とこっちと仲良くなりに突進してきたプランの様な雰囲気を醸し出しながら。
「……お手柔らかに」
クコは困惑した顔でそう答え、マルクと握手を交わした。
ありがとうございました。




