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9-7話 反対だけどどこか似ている二人


 ――また随分と都合が良い話にしてるなぁ私。

 それを見て、自分の事ながらプランはそう考えずにはいられなかった。

 今見ているのは過去起きた実際の事……。

 だからこそ、プランはこれが夢の中なのだと理解した。


 貧乏で、大変で、そして今よりも破天荒で……それでいて暖かかった。

 領民皆が家族だった。

 配下全員が兄弟だった。

 メイド全員が姉妹だった。

 そして、本当のお父さんが生きていた。

 そんな楽しいだけだった昔の夢。

 ただし……それは実際起きた事を辿ってはいるが、相当自分の都合の良い形に美化されている。


 だからこそ、プランは若干脚色の入った過去の夢を見て自分の都合の良さに呆れずにいられなかった。




「はいドーン! ダイナミックお邪魔しまーす!」

 そう叫び、返事を待つ事すらせずハルトの部屋に突撃するプラン。

 そんな礼儀のれの字もない最悪な態度であっても、ハルトは特に慌てた様子もなくぶっきらぼうな態度でプランに対応する。

 悲しい事にこの程度彼にとってもいつもの日常でしかなかった。

「あん? 何か用か?」

「うん! 魚食べたい」

 その言葉にハルトは少しだけ考え込み、その意図が理解出来ず適当に答えた。

「食えば良いんじゃね」

「うん。でも釣らないとないよね?」

「釣れば良いだろ」

「うん! だから手伝って!」

「お前なぁ……。まあ馬鹿娘とは言え領主の娘様だし護衛位は必要か」

「うん! 必要必要!」

 そう言葉にし、十三歳のプランはえへへと笑って見せた。

 ちなみに、小さな頃から村に単独で出歩くプランに護衛などというものが付いた事はなく、必要だった事すらない。


 つまりこれは、ハルトに魚を釣らせる為の、ただの言い訳である。


 こんな会話ですら、多々脚色が混じっている事を考えプランが苦笑するような気持ちとなった。

 この時のハルトは肉の気分だった為とんでもなく面倒がってとにかくごねまくったのだが、それをプランが押し切ったいうのが正しい形であり、こんな綺麗な会話で方が付くなんて事は決してなかった。


「んで、何処でも良いけどあの湖には行かんぞ?」

 ハルトの言葉にプランは頷いた。

 プランの父である――男爵の領、プランの愛すべきこの――領には危険をそのまま形にした様な湖が存在する。

 そこなら間違いなく魚は釣れるだろうが……それ以上に危険な場所であり兵士や武官を複数人連れずに行って良い場所では決してない。


 だから忠告する様にハルトはそう言葉にする。

 捨て子であった自分を拾ってくれたこの領。

 そこの領主の娘を危険に晒す事をハルトが望む訳がなかった。

「大丈夫。流石に私もそこまで馬鹿じゃ……」

「いや、お前はそこまでの馬鹿だ。俺が保証してやる」

「……えー。というかハルトも馬鹿じゃん」

「その馬鹿な俺がお前も馬鹿だって保証してやるよ。たださあ……お前は馬鹿じゃ駄目だろ。領主の娘じゃねーか」

「それを言ったら私だって大丈夫だよ。お兄ちゃんぱないし」

「ああうん……。ミハイルはまじでぱないな。他に言い様がないわ」

 この領で誰が一番優秀か考えれば間違いなくプランの兄ミハイルとなる。

 まだ若い身でありながら既に文官筆頭を遥かに凌ぐ能力を持ち、内政だけでなく政治のバランス感覚や(はかりごと)というこの領の誰もが苦手である為政者の必要悪な部分すらこなす事が出来てしまう。

 その上で容姿端麗でどんな事でもそつなくこなすまで付いて来る。

 正しく完璧人間。

 ミハイルが領を継ぐと考えるなら未来に不安はないと館の全員が考える位にはその才能と人気は凄まじい。

 それがミハイルという存在であり、プランの自慢の優しい兄だった。

「んで、あの湖じゃないならどこに釣りに行くんだ? いう程選択肢ないけど」

「実は何も考えてないんだよねー。ぶっちゃけ魚釣る時って村の人かハルトと一緒だったし。どっか良い場所知らない?」

 その言葉にハルトは頬を掻いた。

「んー……そうだな……。ぶっちゃけ時期が悪いしなぁ……」

「そなの?」

「ああ。つかうち魚が獲れる様な立地じゃないし」

 例の湖を除けば小さな川しかないこの周辺地区で魚を釣る。

 それが困難だからこそ、普段村でも館でも食卓に魚が並ばない。

 そんな事ここに何年も暮らすプラン自身も良くわかっていた。

「わかっても、今日は魚の、気分です」

「そかい」

「……無理かな?」

 諦め混じりにプランはそう言葉にする。

 確かに今のプランの要求はただの我儘でしかない。

 歳が近く兄代わりも兼ねて良く遊んでいたハルトとヨルンの二人に対してプランは基本遠慮がなかった。

 それでも……出来もしない事を要求して困らせる程の我儘では決してなかった。


 だからこそ、ハルトは不敵に笑って見せる。

「ま、無理だろう。……俺以外にはな。さっさと行くぞ。ああ、先言っとくけどかなり歩くぞ? 馬じゃ通れん場所だし」

 そうハルトが答えると、プランはぱーっと満面の笑みを浮かべた。

「うん! そのつもりだったから既に動きやすい恰好だよ!」

 そう言葉にし、プランは自分の服装を見せた。

 洒落っ気ゼロ実用性重視のダサい厚着にもふもふのブーツ。

 そのままで登山にすら行けそうな恰好のプランにハルトは頷いた。

「時間も惜しいしすぐに行くぞ!」

「おー!」

 そう言葉にし、二人は館の中を走り、メイド達に叱られるのを逃げる様に外に飛び出していった。


 この時の事をプランは良く覚えている。

 夢を見る程に……。

 だからこそ、この後の悲しい結果もしっかりと記憶していた。

 一匹も釣れなかったという悲しい結果を……。


 時期の問題な上に足手まといのプラン。

 そして大して釣りが上手くないハルト。

 そんな訳で結局魚は釣れなかった。


 釣れなかったのだが……ハルトが館を出る前こっそりミハイルに手紙を出していた。

『プランが魚を食べたいと言ってるぞー』

 そんな殴り書きだけの手紙。


 だから、その日の夕飯は当然の様に魚料理だった。

 それは一匹も釣れなかったプランにとってとっても素敵な味であり、そしてとっても悔しい味でもあった。

 それを平然として食べるハルトを見るとプランは無性に腹が立って、そしていつか二人でリベンジを……今度こそ自分で釣り上げた魚を夕飯に並ばせると心に誓った。


 ……とは言え、ぶっちゃけた話ブラウン子爵領に行けばどんな下手くそでも入れ食いな程釣れるという事実に気づくまでの短い間だが……。


 そんな懐かしくもあり楽しくもあり、自分の都合の良い脳みそに悲しくなる様な夢は……唐突に、騒がしい声での目覚めによりかき消されぱっと泡の様に霧散した。

 少しだけ惜しい気持ち。

 そんな気持ちを持ってプランはそっと目を開ける。


「出店やるわよ!」

 開幕一番騒がしい声でそんな想定外の事を口にするリーゼ。


 それを聞いたプランは昔の自分が相当友人達に迷惑かけてたのだという事実に気が付いた。

 とは言え……その事に対して後悔も反省もしていない。

 遠慮すら必要のない彼らに対してそんな無粋な気持ち持つわけがなかった。





 プランは大きな欠伸を一つ吐き出し、体を伸ばす。 

 リーゼはそんなプランに対し期待を込めた瞳を向け黙ったまま見つめた。


 こしこし。

 目を軽くこすり、再度大きな欠伸。

 連日の疲労が抜けきれず少々の気だるさを感じながら一息吐いて頭を回転させる。

 確かに、今日は試合のない日である為たっぷりと時間はある。

 だが、その一日を休養に当てるでもなく、情報収集や鍛錬をするでもなく、無為に過ごすのははっきり言って愚策である。

 祭りを楽しむ何てトーナメントが終わってからでも十分だろう。

 そこまで考え、プランはベッドをから降りて床に足を付け、リーゼの方に顔を向けた。


「三分待って。朝の準備済ますから」

 疲れ? 明日の事?

 そんなもん遊ぶ事に対して何の障害にもならない。

 何か楽しそうな空気を感じたプランはリーゼにそう答え、リーゼは予想通りという表情となり、二人仲良く笑った。


「はい準備終わり! それでさっそく何がどういう事なのか事情をおせーて」

 お祭りの途中で買ったお洒落な赤い服を身に纏い、僅か二分後プランはリーゼにそう言葉を投げつけた。

「あいあい。と言っても大した事情はないわよ。今日出る予定の出店に欠員が出てね。空欄になるの困るから誰か助けてくれって声があったの。つーわけで何かしましょ。何するかは任せるから」

 そうリーゼが言うとプランは少し考え込み、そして尋ねた。

「んで。リーゼはその依頼で幾ら貰ったの?」

「……何で受けたとかじゃなくてそう尋ねる辺り私の信用の低さがわかるわー」

「違うの?」

「ううん違わない」

 あっけらかんと言い放つリーゼにプランは苦笑いを浮かべた。

「お金持ちじゃなかったの?」

「ええそうよ。こんな風にケチ臭く稼いでいるからね」

「怪盗の時に稼ぐんじゃないの?」

「そんな事してたら私の人気は地の底に落ちてるわ。むしろ怪盗の時は惜し気なく配る方よ。だからお金は沢山いるのよねー。ま、あんたのお陰で大分稼げてるけど」

「そか」

「そうよ。まあ今回もそれなりに分け前出すから一緒にやりましょー」


 媚を売る様な態度のリーゼにプランは首を横に振る。

「別に分け前要らないよ?」

 その言葉にリーゼは顔を顰めた。

「あんた冒険者でしょ? 貰える時にもらっておかないとこの先生きていけないわよ」

「大丈夫。生活に困る程じゃないし。それより、分け前代わりにリーゼにお願いがあるんだけど」

「……何?」

「お金の事は全部そっちに投げるからさ、一緒に出店楽しも? せっかくのお祭りだもん。楽しい事を沢山しないと!」

 ふんすと胸を張るプランにリーゼは無言で立ち尽くし、そして……わざとらしく盛大に溜息を吐いた。

「はぁー……。あんたわかってる? 私は金の為に依頼を受けたのよ? それを楽しめって……」

「うん。そだね。でも、お金がかかっているから楽しんだらいけないって事はないでしょ?」

 その言葉にリーゼはプランをジト目で見つめ。その後プランに紙とペンを渡した。

「ほれ。今から三十分以内に出したい料理とか考えといて。あくまであんたが出来る範囲でよ? ちなみに出店のスペースは狭いから精々二品程度。簡単な物でも五品程度しか出せないからね」

「ああうん。それは良いけど……リーゼは?」

「あんたと私幸い体型も顔も似てるんだからお揃い恰好で仕事しましょ。今から何か可愛いと言われる様な衣装持って来るわ。客に媚売る様な感じの思いっきりふりっふりな奴を」

 そう言葉にしてからリーゼはそそくさと部屋を出ていった。


「……一緒に楽しんでくれる……と思って良いよね」

 にへらと笑いながらプランはそう呟き、二人で用意したら何が楽しいだろうと考えながらご機嫌な様子でペンをくるくると回した。


ありがとうございました。



2020/03/01

更新遅くてごめんこれでも時間ギリギリで頑張ってるの。

もう少し待ってね。

落ち着いたらもっと速度上げるから。


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