閑話18-16 シャルルくん、上級学校の夏休みの計画を立てる
副題の「18-16」は、この閑話が第十八章 終了後で「15」の閑話の後、という意味です。
ご注意ください。
「あばよ、シャルル! 夏休みだからってサボらねえで剣技を鍛えとけよ!」
「魔法なしでも勝てるように努力するよ。またね、ダヴィド」
「ジェラルドはちったあ鍛えとけ! 勉強ばっかできてもしゃあねえだろ!」
「……鍛えたところでダヴィドと勝負できるとは思わないんだが」
王都・リヴィエールにある上級学校。
校門の内側は生徒たちで賑わっていた。
春からはじまった一学期が終わって、さきほど終業式が終わったところである。
貴族の子弟たちは帰宅のための馬車を待ち、王都在住の平民たちは徒歩で自宅へ帰っていく。
ちなみに王都以外が出身の平民たちは、このまま寮で生活することも許されている。
貴族の援助で学費はまかなわれているが、交通費は自腹。
平民でも商家や豪農の子供は遠く離れた家に帰る者もいるが、寮に残る者も多い。
この世界における街から街への移動は、本来気楽なものではないのだ。
「シャルル様、お待たせいたしました」
「ドニ! 迎えありがとう」
「ほう? シャルル、そいつがお前と訓練してた獣人か?」
「あれ? 帰ったんじゃなかったのダヴィド?」
「ああ、ちょっと気になってな。狼人族。コイツぁ珍しい」
校門の前に停まった紋章付きの一台の馬車。
バスチアン侯爵が遣わせたシャルルの迎えの馬車である。
護衛として迎えに来たドニが下りてシャルルに声をかけると、なぜか帰ったはずの獅子人族のダヴィドが目の前にいた。
馬車を待っていた内側とは違ってここは校門の外、身分の違いが存在する場所。
王都において獅子人族といえば、六宗家の一家の関係者だと知られている。
ドニはただ畏まって口をつぐんでいた。
二人が校門の外に出ていたため、友人だが平民のジェラルドも。
「おう、俺たちの家のモンは気にしねえから話してくれ。俺はダヴィドだ。どうだ? どっかで一戦してみねえか?」
「ダヴィド様、寛大なお言葉と訓練のお誘い、身に余る光栄です。ですが私はこの通り身体が不自由でして、ご満足いただけないかと」
「……誰にやられた」
「住んでいた村を盗賊団に襲われまして……その後、バスチアン様に保護していただきました。以来、いざという時の肉壁としてシャルル様のおそばについております」
「チッ、クソが。シャルル、その盗賊団は潰したんだろうな?」
「うん、全滅させたよ。残念ながらボクがやったわけじゃないけどね」
「じゃあいい。おう、足は動くんだろ? シャルルが俺の速度についてこれるぐれえだからな。自分で満足できる戦いができるようになったらいつでも声かけてくれや」
「ありがとうございますダヴィド様」
「ダヴィド、ボクからも感謝を」
「ああ? いいんだよ、俺のためだからな。狼人族を相手にできる機会なんてそうねえんだ。それにその装備、蹴り技と拳なんだろ? 俺が教えられることもあるだろうよ」
「ふふ、優しいんだね」
「ああ? 『獅子は百獣の王たれ』ってな。戦ったことねえ獣人族には勝っとかねえと。んじゃ今度こそ行くわ。またな」
照れくさそうに鼻をかき、ダヴィドはスタスタと去っていった。
貴族のくせに徒歩である。
襲撃者は歓迎、負けて殺されようが捕らえられようがソイツが悪い、好きにしろ、な家系なので。
武闘派である。というかちょっとイッている。建国時よりいまも続いているのが不思議なほどに。
「またね、ダヴィド! ジェラルドも!」
さっと手を振って馬車に乗り込むシャルル。
挨拶されたジェラルドはただ礼を返すのみ。
『この門をくぐる者、一切の身分を捨てよ』
逆に言えば、上級学校の門の外では身分差が存在するので。
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「ただいま帰りました、お祖父さま」
「よく帰ってきた、シャルルよ。……ふむ。三日会わなければ刮目して見よ、か。いい顔つきになっておるのう」
「ありがとうございます」
「成績も届いておるぞ。一学期末の試験では、クラスの平均近くまで成績が上がったそうではないか」
「まだまだです。筆記系の科目も戦闘系も、上には上がいますから」
「うむ、じゃが一年ちょっとでこの成績じゃ。その努力は素直に誇るがよい」
「ありがとうございますお祖父さま」
王都・リヴィエールの貴族街。
シャルルは祖父であるバスチアン・ドゥ・ゴルティエ侯爵と言葉を交わしていた。
この場にいるのは護衛役のドニと執事のフェルナン。
そして。
「やっぱり先生がいいからね! まあボクが教えるのは王都にいる時だけだけど!」
場違いに明るい声。
だが、注意する者はいない。
「ハルさん。はい、おかげで魔法の授業は座学も実技も上々でした」
王都を拠点に活躍する1級冒険者でエルフのハルである。
侯爵であるバスチアンも注意しないのは、それだけの実力と知識を持っているから、だけではない。
「そうですな、家庭教師を引き受けていただいて感謝します」
「いいのいいの、報酬はちゃんともらってるし! ほら、ボクだってエルフの里にいる時はテッサと『炎神姫』にいろいろ教わってきたからね! これも何かの縁ってヤツだよ」
ゴルティエ侯爵家の初代はテッサの嫁で、その子供が二代目。
長命種のエルフ・ハルは、初代とその夫で初代国王の父・テッサと直接親交があったのだ。
ユージとアリスの縁で知り合ったとはいえ、バスチアンが特別扱いするには充分な理由である。
「さて、じゃああの話をしてもいいかな?」
「ハル殿。ええ、お願いします。ドニとフェルナンは問題ないですからな」
「お祖父さま?」
「シャルルくん宛てにアリスちゃんから手紙を預かってるよ! いやあ、最近のアリスちゃんはホント強くなっててねえ」
「アリス! そうか、ハルさんは冬の間に開拓地に……」
「そういうこと! まあ手紙はゆっくり読んでもらうとして……ユージさんから依頼を受けててね。シャルルくんの魔眼の力を借りたいんだって。どう? 夏休みの間に開拓地に行ってみない? アリスちゃんも楽しみにしてるよ!」
「え? いやでもそれは、関係がバレたらマズいはずで……」
「ふふ、そこは心配ないよ! バスチアン様もその手なら大丈夫だろうって! エルフの秘密の一端だから、行くのはバスチアン様とシャルルくんだけ。もし誰かにその秘密を話したら……まあ知っちゃった人はもちろん、このお家は潰れてもらうかなあ」
「えっ?」
ハル、にこやかに物騒な発言である。
祖先であるテッサとその嫁にお世話になった、ユージやアリスとの仲もあって秘密の一つは明かすようだが、触れ回って欲しくないらしい。
船のことが知られれば、上流か下流か、エルフの里の位置も推測できてしまうので。
「シャルル、自分で決めるがよい。儂が外に漏らすことはない。これでも貴族じゃ、誰にも言えない秘密の一つや二つ抱えておるでな。いまさら増えたところで問題ないわい」
「旦那さま、桁が一つ少ないかと」
「ははっ、そうじゃのうフェルナン。まあそいうことじゃ。どうするシャルル? しかと守れるか?」
「はい! お祖父さま、ハルさん、お願いします!」
「よし! じゃあバスチアン様、お話ししていた通りに! 準備もあるからね、ボクはこれで失礼するよ!」
「承知しました。ではシャルル、儂らも準備しようかのう。勉学をおろそかにするわけにもいかんじゃろうしな」
「はい!」
少年らしく目を輝かせるシャルルを温かく見つめるバスチアン。
執事とドニも微笑んでいる。
学校でのことは知らないが、この館にいた頃のシャルルはどこか気を張りつめた様子だったので。
上級学校に通う貴族の子弟は、夏休みを利用して領地に帰る者も多い。
元々バスチアンもシャルルもその予定であり、旅の準備は進めていた。
わずかに荷物を入れ替えながら、シャルルはワクワクした様子で準備を進めるのだった。年相応の子供らしく。
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草原の中の道を五台の馬車が行く。
商人が使う馬車とは違う豪奢な造り。
中には貴族が乗っているのだろう。
王都から領地へと向かうのか、あるいは領地内の街から街へと向かうのか。
見ただけではその目的はわからない。
いずれにせよ、行き違う馬車も農民もただ停まって道を譲るのみ。
この国において、貴族がそれほど無茶を言うことはない。
それでも平民の心情は、できることなら関わりたくない、というのが一番であった。
「ふむ、そろそろか」
「お祖父さま、準備はできました」
「うむ。では次の広場で馬車を止めて、休憩としようかのう」
「そのように伝えます」
五台の馬車の最後尾。
ひときわ大きく頑丈な馬車に乗っていたのは、侯爵であるバスチアンとその孫のシャルル。
護衛役兼執事のフェルナン、護衛のドニの四人であった。
王都からさらに南にある、バスチアン・ドゥ・ゴルティエ侯爵の領地に向かうために。
ちなみに通常、貴族が乗る馬車は中央に配置されることが多い。
にもかかわらず、バスチアンは先頭か最後尾を自らの位置に定めていた。
そもそも貴族が中央の馬車に乗るのは、襲撃があった際に安全を確保するため。当然の配置である。
だが、バスチアンは『赤熱卿』と呼ばれる火魔法の使い手。
襲撃を受けた際は、範囲魔法で前方、あるいは後方を火の海にする。
護衛兵はその後、生き残りからバスチアンを守る手筈となっていた。
フレンドリーファイアを避けるために、バスチアンはいつも先頭か最後尾の馬車に乗るのであった。
野外で簡単な昼食を終えて、馬車を動かす御者も使用人も全員が乗り込む。
護衛の兵は馬車の近くと後方の守りに最小限の人数をさいて、前方に障害がないか先回りして散っている。
出発前、恒例の配置である。
「ではフェルナン、ドニ、あとは任せた」
「はっ。まあバスチアン様が『お忍び』と称して行方不明になるのは今にはじまったことではありませんから」
「ふふ、日頃の行いの賜物じゃな。屋敷に到着してから行方不明になったと思わせられればそれでよい」
「お任せください」
「シャルル様、お気をつけて」
「ありがとうドニ。じゃあ行ってくるよ」
最後尾、四人が乗る馬車。
執事が座席を操作すると、木の板が外れてぽっかりと地面が見える。
もしもの時のための緊急脱出路である。
先にバスチアン、続いてシャルル。
数少ない後方の護衛の目を盗み、馬車の下から草むらへ飛び込む。
うまく気づかれずに抜け出したようで、馬車の列はゆっくりと進んでいった。
「うむ、今回もうまくいったようじゃな」
「お祖父さま、今回も?」
「はは、なんでもないわい。さあ行こうか。合流予定地まで半日、日が暮れる前にたどり着かなくては」
「はいお祖父さま!」
「くふふ、孫と二人でお忍びの旅というのもオツなものじゃな。しかも目的地には孫娘が待っておるなんて!」
身を隠していた草むらから立ち上がる二人。
見れば休憩の時に着ていた服とは変わっている。
シャルルは革鎧に円盾、片手剣を佩いてマントをまとった冒険者風。
バスチアンはすっぽりと全身を覆うマントに木の杖を持った旅人風。
一見して貴族とはわからない風体である。
立ち上がった二人は、ゆっくりと歩き出すのだった。
1級冒険者でエルフのハルとの待ち合わせ場所に向けて。
どういうルートを取るのか、『その後は任せて、誰にも見られず開拓地に行くから!』と言い張った『不可視』のハルと合流するために。
上級学校の夏休み。
シャルルの夏の思い出は、秘密の道行きに心躍らせるものになるようだ。
ということで、本編と繋がります。
前二話の学園編は必要だったかって?
……ほ、ほら、毎日更新の息抜きにね?
じゃないと別の物語書きたくなっちゃうからね?
明日から次章スタート!
次話、明日18時投稿予定です!





