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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第二十章 プロローグ

ちょっと短めです


「ユージ兄、楽しかったね! アリス、リーゼちゃんからお手紙もらっちゃった! アリスもお手紙渡したんだよ!」


「そっか、よかったなあアリス」


「アリスちゃん、ユージさん、また遊びに来てね!」


「あれ? イザベルさんはホウジョウ村に寄っていかないんですか?」


「今回は止めておくわ! リーゼが『アリスちゃんには負けられない、魔法がんばらなきゃ!』って燃えてたもの」


「そうですか……二人とも何と戦う気なんだろ……イザベルさん、じゃあまた!」


「リーゼちゃんのお祖母ちゃん! またね!」


「ええ、またリーゼの手紙を持って遊びに来るわね! コタローもまたね!」


 ホウジョウ村開拓地に繋がる水路。

 ユージ、アリス、コタローが船を降りて、ここまで操縦してきたエルフのイザベルと別れる。

 二人と一匹は、エルフの里に遊びに行っていたようだ。

 ケビンを連れていかなかったあたり、取引ではなく本当に遊びに行っただけなのだろう。


 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 盛り上がる周囲をよそに、ユージは暢気なものであった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おっ、ユージさん。お帰り!」


「ブレーズさん。ホウジョウ村、問題ありませんでしたか? ハルさんたちはまだ来てませんよね?」


「ああ、こっちは問題ない。ハルさんはまだだが、ケビンさんが来てるぞ。いまは缶詰生産工場と針子の作業所をまわってるはずだ」


「そうですか、ありがとうございます。あ、これブレーズさんとセリーヌさんにお土産です!」


「お、ありがとよ!」


 ホウジョウ村開拓地に帰ってきたユージは、まず留守を守っていた副村長のブレーズに声をかける。

 元3級冒険者で『深緑の風』のパーティリーダーだったブレーズ。

 同じパーティの弓士・セリーヌと結婚して所帯を持ったブレーズは、すっかり開拓地暮らしが板についていた。

 ユージが気軽に開拓地から離れられるのも、リーダーシップを発揮してまとめられるブレーズの存在があってこそである。


 そんなブレーズにユージなりに感謝しているのか、お土産を用意していたようだ。

 エルフが造ったペア用のブレスレットである。

 二人はほいほい受け渡しているが、相当な値打ちものである。

 革製の編み込みブレスレットだったため、わかりやすい金属製と違って気づかなかったのだろう。


「じゃあ針子の工房をまわってみますね!」


「ああ。ユージさん、また夕方にエルフの里の話を聞かせてくれよ!」


「了解です! ……娯楽、何か考えたほうがいいかなあ」


「どうしたのユージ兄?」


「うん? ほら、みんなどこか行くと話を聞きたがるからさ。娯楽がなくてヒマなのかなって」


「ええー? ユージ兄、村ではみんなそうだったよ?」


 キョトンと首を傾げるアリス。

 この世界では、ユージが元いた世界ほど気軽に移動できるわけではない。

 移動手段は徒歩、あるいは馬車で道中には危険がつきもの。

 通勤・通学で毎日移動する現代人とはワケが違う。

 誰かが遠出したと聞けば、一同集まってその話を聞きたがるのは当然だった。


 ユージの足下では、コタローがワフワフッと首を振る。ゆーじ、ありすがせいかいよ、たびのはなしはたのしいもの、とでも言いたげに。


 この世界に来てから6年目だが、ユージはいまだ元の世界の価値観が残っているようだ。

 ライフラインが生きていて、ネットが通じる家で生活している分、余計にかもしれない。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ケビンさんもこっちは問題ないって言ってたし……じゃあネットに画像と動画をアップしようかな」


「ユージ兄! アリス、先にお風呂はいっちゃうね!」


「りょーかい!」


 ケビンと立ち話を済ませて自宅へと帰ってきたユージ。

 パソコンを立ち上げて、撮影データをアップするつもりのようだ。

 大声を出して階下から呼びかけてきたアリスに、ユージも大声で答える。

 もはやベテラン夫婦のやり取りである。

 おっさんと少女なのに。


「さてっと。お、メールも来てるな。掲示板は……え? スレ進むの速くない?」


 データ取り込みをはじめたユージは、作業の合間にメールソフトと掲示板を立ち上げる。

 ユージ、画像処理にはすっかり慣れたようだ。

 待ち時間が発生するポイントを把握し、合間にいろいろ進めておこうという魂胆であった。

 が、固まるユージ。

 イスに座ったユージのヒザに前脚をかけていたコタローが、どうしたの? とばかりにユージを見つめる。


「ああ、すまんコタロー、ちょっとビックリしちゃってね。メールは……サクラ、郡司先生、サクラ、クールなニート……なんだろ?」


 ユージが不在にしていたのは、四日間。

 とうぜん、出かける前にユージの妹のサクラにも掲示板にも不在にすると告げている。

 それにも関わらず届いていたメールの数にユージは驚いていたようだ。


「ああ、三回目の放送があったのか。アメリカも日本も大変だなあ」


 暢気か。

 ユージのヒザの上に乗ったコタローは、ジトッとした目でユージを見つめている。なにのんびりしてるの、ゆーじのことでしょ、と言わんばかりに。


 ユージが異世界に行った話は、ドキュメント番組としてアメリカでシリーズ放送されている。

 センセーションな内容でアメリカでは議論を巻き起こし、動画配信サービスでは視聴数一位を獲得した。

 その第三回が放送されたようだ。

 サクラや郡司、コテハンからのメールには放送されたこと、その後の日米の反応が書かれていた。


「大騒ぎだなあ……まあ俺はネットとメールでしか知りようがないんだけど」


 ユージが元いた世界の情報を知れるのはネットやメールだけである。テレビは繋がらない。

 どれだけ活字が躍ろうと数字を見せられようと、そこに実感は沸かない。

 何しろ違う世界の話なので。文字通り。


「これでシャルルくんが来て、魔眼で見てもらったらまた大騒ぎになるかもなあ」


 ユージの独り言に、そうね、とばかりにワンッ! と鳴くコタロー。

 王都を拠点にしている1級冒険者でエルフのハル。

 ユージはハルに、アリスの兄で『魔素を見られる』という魔眼を持つシャルルを開拓地に連れてきてもらえないか依頼していた。

 行けるだろう、ただ夏になると思うと請け負ったハル。


 エルフの里から帰ってきたユージは、この後はホウジョウ村でハルとシャルルを待つつもりだった。

 開拓に励み、秋から始まる文官としての予習を行いつつ。



 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 ユージが村長を務めるホウジョウ村の開拓は順調に進んでいる。

 元の世界の騒動とは裏腹に、ユージの生活は平和で安定したものだ。


 6年目のこの夏、開拓地に珍しい来客を迎える予定となっている。

 アリスの兄のシャルル、祖父のバスチアン、王都で『異世界に行く方法』を調べているという研究者。

 6年目の夏は、また騒がしいものになりそうだった。

 まあ日本とアメリカの騒動と比べたら大人しいものだろうが。



プロローグなのでちょっと短めです。

ひさしぶりの主人公!

……主人公?


次話、明日18時投稿予定です!

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