閑話18-15 シャルルくん、上級学校の運動祭に参加する
副題の「18-15」は、この閑話が第十八章 十五話終了ごろという意味です。
ご注意ください。
上級学校の朝は遅い。
起床、身支度、朝食。
講義がはじまるのは9時からである。
もちろん発案者は稀人のテッサである。朝が弱かったのか。
学校としての朝は遅いが、生徒はその限りではない。
例えば貴族になる、実力を付けるべく努力を惜しまないような人間は。
「シャルル、今朝も訓練してたのか?」
「ああうん、落ち着かなくてね」
「領地で療養してたって言ってたが、大丈夫なのか?」
「もう大丈夫だよ。だから今までの分も努力しないとね」
「まあ無理すんなよ。チュウカンテストじゃビリから抜けたんだろ?」
「ありがとう、ジェラルドのおかげだよ。ジェラルドこそ、朝早くから勉強して」
「俺は平民だからな。ここまで来たら卒業していいとこに就職したいだろ」
王都・リヴィエールにある貴族の子弟や優秀な平民が通う上級学校。
その男子寮の一室で、二人の少年が言葉を交わしていた。
一人は赤毛の少年。
ユージが旅の途中で助け出したアリスの兄・シャルルである。
祖父のバスチアン侯爵に保護された少年は、貴族となるべくこの学校に通っていた。
もう一人はブルネットの髪色の少年。
体格は二人とも似ている。
9才〜12才が通う共通の学校で優秀な成績をおさめ、この上級学校に入学を認められた平民の少年である。
シャルルは朝早くから中庭で訓練を、ジェラルドは部屋で勉強をしていたようだ。
同室となった二人は、朝早くに起きることが日課になっていた。
たがいに努力家であるらしい。
「シャルル、そろそろ支度したほうがいいぞ。今日はいつもと違って……」
「そっか、運動祭だから」
この国で唯一の上級学校には、恒例の行事がいくつか存在する。
元の世界の6月に行われる『運動祭』。
秋、11月に行われる『文化祭』。
冬には積雪量が少ない王都周辺での『遠足』。
三年次には『修学旅行』も存在する。
とうぜんテッサの発案である。
というかそもそも『春に学校がはじまる』ことを決めたのもテッサである。
まあ長い冬を越えた春は種まきの季節であり、『一年の始まり』とするのにこちらでも違和感がなかったようだが。
「ジェラルドは何に出るんだっけ?」
「俺は短距離りれえだけだな。あとは全員参加の棒倒し。シャルルは?」
「ボクは模擬戦・個人の部だけ。まあ棒倒しも出るけど……」
「模擬戦の団体の部は出ないのか? 魔法、すごいって聞いたぞ?」
「はは、そこまでじゃないよ。それにほら、ボクが得意なのは火の魔法で、団体戦は魔法の直接攻撃が禁止だから」
「……ああ、それじゃ使いづらいか」
ユージが元いた世界の学校行事にも存在していた『運動祭』、あるいは『体育祭』。
名前は一緒でも、上級学校の『運動祭』の種目は異なっていた。
開催される種目は四つだけ。
クラス30数名のうちの10人でバトンを繋ぐ400m×10のリレー。
武器防具を身につけて行う模擬戦・個人の部。
5対5で行う模擬戦・団体の部。
学年別に分かれて行う棒倒し。
この四つの種目で競い合い、優勝クラスを決める祭りとなっている。
リレーと模擬戦はクラス内で参加者を決めるスタイルであるようだ。
人によっては、参加するのは棒倒しだけである。
上級学校の設立当初から行われていた『運動祭』。
春にやるのは、一年生を歓迎しつつ、一年同士の親睦を深めるためらしい。
ちなみに設立当初はもっと種目数も多かった。
この世界に暮らす人々にとっては初見の種目の数々である。
淘汰された結果、いまではこの四つの種目となっていた。
何しろ投擲競技は広い校庭の壁を越え、跳躍競技は特定種族の獣人の独擅場で、大玉転がしは投擲競技になっていたので。
「よし、じゃあそろそろ行こうか。ダヴィドが張り切ってるんだろうなあ」
「薄暗いうちから校庭に向かってるのが見えたよ」
シャルルは侯爵家の血を引いているが、貴族として勉強をはじめたのはおよそ一年前から。
当たり前だが、ほかの貴族の子弟は物心ついた時から貴族としての教育がはじまっている。
遅れを取り戻し、追い抜いて貴族としての実力を付ける。
まずはそこから。
シャルルの道は、まだはじまったばかりである。
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「ああくそ、抜かれちまった」
「いやいや速かったよジェラルド! 貴族相手にがんばったじゃないか!」
一種目めの短距離リレー。
シャルルのクラスは、3学年9クラスのうちの6位で終了していた。
「はは、まあ俺たちというより……すごすぎだろダヴィド。あれが『獣神』の血か」
「あれはちょっとヤバいね。近接最強の一族だって自称するだけのことはあるよ。位階が高いはずの貴族たちもごぼう抜きしてたし」
この世界では、生き物やモンスターを殺すと位階が上がって身体能力が上がる。
成長は阻害せず老いだけが遅くなることもあって、貴族の子弟は幼い頃からパワーレベリングされることが多い。
信頼できる冒険者を雇えない貧乏貴族でさえ、家族で連れ立って森に向かって幼い我が子にトドメをささせるのだ。
平民もやることはあるが、高位貴族とはかけられる金が違う。
当然、短距離走も貴族のほうが有利であった。
というか、ユージがこの短距離走を見たら、口を開けっ放しだったことだろう。
30人ほどのクラスから選ばれた10人は、平民でさえウサイン・ボル○以上だったので。
陸上でおなじみのキャスターが見たら喉を嗄らしたに違いない。騒がしい。
シャルル、ジェラルドと同じクラスの獅子人族・ダヴィドにいたっては、ストライドもピッチも異常であった。
まるで獲物を見つけた肉食獣のように。
というか四足で走っていたため、そのまんまライオンだったが。少なくとも地球のライオンよりはるかに瞬発力も持久力もあるようだ。
「次は個人戦か。じゃあ行ってくるよ」
「おう、がんばれよシャルル」
握った拳をぶつけ合うシャルルとジェラルド。
同室の二人は、ずいぶん仲良くなったようだ。
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模擬戦・個人の部は各クラス10人、合計90人のトーナメント制。
校庭の中央に設置された三つの土の舞台で試合が進む。
『運動祭』は全学年共通のクラス対抗戦のため、勝ち残った生徒の所属するクラスにポイントが入る仕組みとなっていた。
ちなみに舞台は土魔法を得意とする教師たちが創ったもので、準々決勝からは舞台の数が減らされる。
魔法があるからできる簡単設置・撤去であった。
円盾と刃を潰した片手剣を手に舞台に上がるシャルル。
反対側から上がってきた相手を見据える。
「前の試合、見てたぜ。魔法なしじゃキツイんじゃねーの?」
「まあね。でもそれが決まりだから」
「チッ、つまんねーの。それなら訓練の時のほうがマシじゃねーか」
「そうかもね、ダヴィド。でも……」
シャルルの対戦相手は、獅子人族のダヴィド。
トーナメントの因果で、勝ち残れば時おりこうして同じクラス同士の対決も起こる。
「ボクは諦めないよ。そう教わってきたから」
模擬戦・個人の部では魔法の使用が禁じられている。
それでもシャルルは、気後れすることなくダヴィドを見つめていた。
瞳に炎を宿して。
「くくっ、上等だ。じゃあ俺も本気でやってやんよ!」
ダヴィドが手にしていた剣を捨て、無手で構える。
上級学校、戦闘の講義にはない戦い方。
無手の体術がダヴィドの本来の戦い方であるらしい。
さすが『獣神』である。プロレスでも骨法でもない。断じて違う。
審判役の講師が合図を鳴らす、と同時にダヴィドの姿が消える。
シャルルが反応できたのは、この一年、狼人族のドニと訓練を繰り返してきたからだろう。
円盾を左にかざして頭部を守る。
強い衝撃。
身体ごと持っていかれたシャルルが、たたらを踏んで体勢を立て直す。
二足歩行するライオンは、うれしそうに笑っていた。
「へっへー、やっぱおまえはおもしろいな! 獣人と訓練してたことがあるな?」
「まあね。心も身体も強い……ボクの恩人だよ」
「うし、じゃあソイツより強いって見せてやらなきゃな!」
ダヴィドがふたたび加速する。
今度は一撃で終わらず、拳で、掌打で、足で、何度も。
シャルルはただ凌ぐだけで精一杯だった。
いや。
試合を見ていた観客席はどよめいている。
あれを防ぐのか、『獣神』と『炎神姫』の一族だそうだ、魔法ありなら……などと。
ついでに上級生の顔が引きつっている。
どうやら一才、二才歳上の彼らにとっても、ダヴィドのスピードは異常なものであるようだ。
息をもつかせぬ連撃に、ついにシャルルの膝が落ちる。
クリーンヒットはない。
円盾と剣で防いでいたが、衝撃が身体に届いていたのだ。
積み重なったダメージと疲労の結果である。
「どうよシャルル、負けを認めるか?」
「まだだ。まだ立てる」
「くく、いい根性してんな。じゃあとっておきを見せてやるよ!」
三度、ダヴィドが走り出す。
正面から走り寄る獅子人族に向けて、シャルルは半身に構えて円盾をかざす。
防いで、右手の剣で一矢。
バレバレではあるが、体力が残っていないシャルルはこれしかできなかったのだろう。
走ってきたダヴィドがシャルルに背を向ける。
シャルルが戸惑ったのは一瞬。
その一瞬の後には、頭上から蹴りが降ってきた。
円盾ごとシャルルを地面に叩き付ける蹴りが。
『獣神の浴びせ蹴り』である。骨法直伝ではない。たぶん。
連撃の中で掌打も放っていたが、きっと獣神サンダーなんちゃらとは関係ないだろう。
あるいはまたテッサが『獣神』の先祖に余計なことを教えていたかもしれない。
速度と体重を乗せた蹴りを受けて、シャルルは舞台の上に倒れ臥していた。
「勝者、一年B組・ダヴィド!」
審判がダヴィドの勝利を、シャルルの敗北をコールする。
天を見上げたまま、シャルルは唇を噛み締めていた。
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「ああ、棒倒しはキツかった……魔法禁止は当然として、位階が上がりまくってるヤツを参加禁止にしてほしいよなあ」
「ほら、勝ったからいいじゃないか」
「まあなあ。ダヴィド、異常だろアイツ。なんで模擬戦・団体の部は出なかったんだ?」
「さあ、なんでだろう。ボクと違って魔法は関係ないだろうし……5人組だと合わせられないとか?」
「はは、ありそうだな。歩兵が二人、騎馬隊役の遊撃、魔法兵、弓兵。アイツがやるなら遊撃だろうけど……突出しそうだ」
「でも一人で片付けちゃいそうだけどね。ボクも……もっと強くならないと。どんな相手でも殺せるように。どんな状況でも殺れるように」
「シャルル?」
「あ、うん、なんでもないよ。さあ帰ろうか」
シャルルの物騒な言葉はジェラルドには聞こえなかったようだ。
上級学校、春の行事『運動祭』は終わった。
自分はまだまだ弱いとシャルルに気づかせつつ。
とはいえ、模擬戦・個人の部の優勝はダヴィドだった。
シャルルは魔法なしであれだけの時間を耐えたのだ。
魔法ありで魔眼を秘匿しなければ、勝負はどうなったかわからない。少なくとも、何度も魔法を使えるだけの時間は稼げていたので。
『炎熱卿』バスチアン、辺境の領主で騎士のファビアン、狼人族で護衛となったドニとの訓練の賜物である。
一年ちょっと前まで、訓練らしい訓練をしてこなかった村人としてはかなりの進歩だろう。
少年は、一歩一歩前に進んでいるようだ。
二度と自分のような者は出さない。たとえ貴族であっても、罪を犯した者は許さない。
その決意を持って、修羅の道を行くために。
上級学校、春の行事『運動祭』は終わった。
期末テストを終えれば、間もなく夏休みである。
次話、明日18時投稿予定です!
唐突にはじまった学園編はいったん終わりで、
明日が元々予定していたシャルルくんの閑話です。
登場人物はもっといろいろ設定してたんだけどなあ……
気が向いたらまたやるかもしれません!
上級学校には女の子もいるんですよ?





