閑話17-27 冬、開拓民たちは平和な時間を過ごす
副題の「17-27」は、この閑話が第十七章 終了後で「25」のキャンプオフの後、
さらに「26」のアメリカ組の後、という意味です。
ご注意ください。
「うわあ! うわあ! コタローもオオカミさんたちもはやーい!」
変態である。
いや、そんなわけはない。
犬とオオカミに『はやい』と言っているのだ。
当然、走る速度のことである。
「あはは、これはすごい! サイコーだよユージさん!」
「ハルさん、腕を出したらさむ……あれ? 寒くない?」
銀世界が一面に広がる森。
雪に覆われた道を、二台のソリが走る。
木工職人のトマスと開拓地に移住した鍛冶師が新たに造ったソリは、これまでのものと違っていた。
荷台が縦に長くなっていたのだ。
違いはそれだけではない。
「風が冷たかったから、魔法でちょっとね!」
「マジか、あいかわらずすごいなハルさん」
「オオカミさんたち、がんばれー!」
これまでより長くなった荷台に乗るのは、ユージとアリス、そして雪が積もってヒマになったからと遊びに来たエルフの1級冒険者・ハル。
縦に並んで三人が乗るソリの後ろには、もう一台のソリが連結されている。野営道具が積みこまれているようだが、空いたスペースも多い。
そして、一番の違いは荷台ではない。
「それにしても……犬ぞりってこんなスピードが出るんだっけ。やっぱりオオカミって言ってもモンスターだからかなあ」
去年との最大の違い。
引っ張る人が違うのだ。
人というかモンスターである。あと犬。
荷台が大きくなったソリ、連結された荷物用のソリ。
けっこうな重さだが、引っ張るモンスターにはあまり関係なかったようだ。あとコタローにも。
先頭を走るのはコタロー。
乗り手の指示に従う賢さが必要なリード役にはうってつけである。
従う賢さというか、コタローはだいたいユージの指示なしで行動しているようだが。
後に続くのは7匹の土狼たち。
コタローの指示に従ってソリを走らせていた。
何が嬉しいのか、一匹の犬と7匹のオオカミはノリノリである。
これまでと比べて引き手とソリが変わっただけではない。
ユージたちが暮らすホウジョウ村開拓地からプルミエの街までは、荷車が通れる道が開通していた。
つまり、森の中でスピードを出しても障害物がない道ができているのだ。
雪に覆われているが、その下には雪溜まりも大きな岩も切り株もないことがはっきりしている。
コタローたちがノリノリなのは、スピードを出してもいいからなのかもしれない。
「あはは、だからユージさんの近くはおもしろいんだ! 遊びに来てよかった!」
冬。
雪に降りこめられた森は、人の侵入を拒む。
ユージはソリを使っているが、通常、雪が積もったらこの世界の人々は自らの足で移動するしかないのだ。
ユージがこの世界に来てから冬は5回目だが、実際これまで一度も冬の開拓地に来客を迎えたことはなかった。これまでの4回は。
「ビックリしましたよホント。来るかもしれないって聞いてましたけど、雪が積もったから来ないのかなーと思ってたんで」
「ふふ、エルフには水路があるからね! みんなも遊びに来るんじゃない?」
この秋の終わりに、ホウジョウ村開拓地と西の川を結ぶ水路が完成した。
現役の1級冒険者でエルフのハルは、王都からその水路を使って開拓地まで移動してきたようだ。
なにしろハルは開拓地に別宅を持っているので。
「ねえねえ、アリス、ユキウサギ狩らなくていいのかなあ? 位階を上げたいの!」
「アリスちゃん、小さくて弱い生き物を殺しても位階は上がりにくいんだ。春以降かなあ、ボクがもっといい場所に案内するからね!」
「やったあ! アリス、たくさん殺って位階を上げて長生きするの! それでリーゼちゃんとたくさん遊ぶんだ!」
「あ、ハルさん、俺もお願いしますね!」
ハルの言葉に歓声を上げるアリス、ユージ。
聞こえていたのか、先頭を走るコタローもアオンッ! と大きく鳴いている。わたしもやるわよ、とでも言うかのように。
ソリはもう一台造られていた。
そのソリは元ボスの日光狼が率いる7匹の土狼に引かれて、開拓地の狩人班とユキウサギ狩りに出ている。
アリスはそれが気になっていたようだ。何しろ位階を上げて寿命を延ばさないといけないので。
雪が積もる森の中をソリが行く。
平和な日常である。
まあこの日、ユージが元いた世界ではドキュメント番組が放送され、大騒ぎになっているのだが。
ユージ、暢気か。
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「おお、早いじゃねえかユージさん」
「ちゃーっす!」
「あ、ゲガスさんたち。ええ、ハルさんとアリスの魔法で寒さ対策ができたんで、行きよりスピード出しちゃって」
「つっても今からじゃ開拓地までは行けねえだろうからな。まあのんびりしてってくれ」
ユージとアリス、ハルを乗せたソリは宿場予定地を通り過ぎて、プルミエの街まで行った。
ケビンから荷物を受け取って、いまはその帰り道である。
ユージたちは朝にプルミエの街を出発して、昼すぎには宿場予定地にたどり着いていた。
むしろ雪が積もる前より速い。
どうやらコタローとオオカミが引くソリは、荷車よりも速いらしい。
さすが、はしゃぎまくった獣たちである。
「ユージさん、こっちを使ってくれや」
「え? だってこれゲガスさんたちが暮らしてる建物で……」
「アリスちゃんが行きに土を凹ませてくれたろ? そっちを小屋掛けしたからよ。半地下の建物が二つ、俺たちはあっちに移る」
「アリスさん、あざーっす!」
行きにアリスが土魔法で地面に造った穴。
というか4メートル四方で深さ1メートルのそれは、もはや窪地と言える規模である。
ゲガスたちはそこに木材の柱と支柱を立て、元々テントにしていた布を何重にも巻き付けて建物、というかテントにしたようだ。
開拓初期にユージが造ったヤランガ、あるいはネイティブアメリカンのティピーのような造りである。
その仮設住居は、ユージがプルミエの街へ往復・滞在した三日の間にそれなりのものになっていた。
「おお、けっこう立派な。了解です、じゃあ俺たちは家を使わせてもらいます」
そう言い残し、ユージとアリス、ハルは宿場予定地に建てられた家に向かうのだった。
ちなみにコタローは足を拭って家の中、オオカミたちは野外である。
いちおう二台目のソリに野営道具が積んであるので、オオカミたち用にこの世界のテントが張られるようだ。
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「おかえりユージさん、アリスちゃん! ハルさんもな」
「ブレーズさん、ただいまです! ケビンさんからいろいろ荷物を預かってきましたよ」
「ありがとうユージさん! いやあ、雪が積もってても荷が届くのはありがてえな」
「みんなただいまー!」
「さすがに五日じゃ何も変わらないか! ユージさんもいなかったしね!」
ホウジョウ村開拓地からプルミエの街まで片道二日。
犬ぞり、いや、オオカミぞり。コタローが率いているのでやはり犬ぞりと呼ぶべきか。
その犬ぞりの開発により、冬でもプルミエの街まで片道二日で行けるようになった。
幾度ものテストを終えた後、ユージは冬の間も犬ぞりを使って街まで何度か往復していたようだ。
ちなみに連結した二台目のソリには必ず保存食とテント、防寒着や乾いた薪などの暖を取る用のアイテムを積んでいる。
天候を見てから出発しているとはいえ、そのあたりは掲示板の住人たちの指導もあったようだ。
「えっと、こっちが鍛冶師さんたちにですね。それからこっちが調理チーム、これが針子のみなさんにです。それと、試作缶詰の出来は上々、味もOKだからできる限り作ってほしいって」
「おう、まあ後でみんなを集めとくから、その辺はユージさんから直接伝えてやってくれ」
「あ、はい、わかりました」
「ねえねえユージ兄、お仕事終わり? アリス、ひさしぶりにお風呂入りたい!」
「そうだね、ちょっと休憩しようか。大丈夫ですかねブレーズさん?」
「ああ。ただもうそろそろ狩り組の犬ぞりが帰ってくるから、露天風呂なら人が入ってくるんじゃねえか?」
「そうですか……アリス、じゃあ今日はウチのお風呂でのんびりしようか」
「はーい!」
「ハルさんはどうします?」
「ボクは露天風呂に入って、その後ウチに帰るよ! せっかく建てたボクの家だからね!」
「はあ、わかりました。それでコタローはどうする? オオカミたちは?」
コタローとオオカミたちのハーネスを外しながら問いかけるユージ。
あいかわらずコタローが言葉を理解していることを疑いもしない。もうその段階はとうに過ぎたので。
ユージの問いかけにワンワンッ! と大きく吠えて、コタローは森に視線を向ける。
ちょっとみまわりしたいの、とでも言うかのように。
往復と滞在を合わせて五日間。
帰ってきたコタローは、周辺に異常がないか見まわるつもりのようだ。できる女である。
オオカミたちを従えて、コタローの縄張りはさらに広がっていた。できるボスである。
「よしこれでぜんぶ外れた。コタロー、気をつけてな!」
コタローと7匹の土狼のハーネスを外し終えたユージが、ポンとコタローのお尻を触る。セクハラである。いや違う、コタローは犬なのだ。セクハラではない。スキンシップである。
「じゃあアリス、ひさしぶりに家でのんびりしようか! ブレーズさん、話し合いの頃には出てきますから!」
「はいよ。冬の旅だったんだ、ゆっくり休んでくれや。じゃあアリスちゃん、また後でな!」
「はーい、じゃあねー!」
「ユージさんもアリスちゃんもまた後で! さーて、お風呂お風呂!」
ユージはアリスの手を引いてひさしぶりの我が家へ向かう。
明るく暖かい室内、清潔なお風呂、柔らかなベッド。
ユージは家ごとこの世界に来た恩恵を享受するつもりのようだ。
だが。
ユージは知らない。
いや、知っているのに想像できていない。
ネットを通じて繋がっている元の世界が大騒ぎになっていることを。
四日前にユージのドキュメント番組が放送され、有料動画配信サービスでも配信され、アメリカも日本も大騒ぎになっていることを。
放送当日に出かけてしばらく帰ってこないとか、なんなのお兄ちゃん! と、サクラがぷりぷり怒っていることを。
ユージは知らない。
暢気か。
まあポンコツなのは元からである。
ひさしぶりにパソコンを起動したユージは、この後滅茶苦茶怒られるのだった。
もしパソコンに張り付いていたとしても、ユージにできることは何もなかったのだが。
当事者だが、『別の世界の出来事』なので。





