ダークヒーロー(?)名村くんのモノローグは続く
俺の行き着け酒場、ロックバー"アウトロー"。
それは自称ワケあり野郎どもの吹き溜まり。
宝くじや株で儲けて自由気ままに暮らしているヤツ、
パチプロ、暗殺者、探偵、スパイ、有名作家や裏方ミュージシャンだの
ゴーストライターだの主張は多々色々だが、おそらくここにたむろしてる自称ワケあり謎めいた社会人は皆、
無職だ。おそらくバイトもしていない。なにせ深夜とはいえ
携帯で仕事の会話をしてるのを一度も目撃したことがないし、
身体の細部を確認するまでもなく目標の定まっていない一挙手一投足だけで正体バレバレだ。
悪でも善でもないにじみ出る不安定さ、まるで地に足が着いてないようだ。
ようするに見て接した感じ得体が知れない人物、謎めいた人間、
「こいつ悪なのか善なのかわかんねーな」ってヤツはだいたいニートと考えて間違いない。
だって俺の仕事は悪か善かを見極めるのが専門ですから。
ここにいるつらに悪の匂いは微塵も感じない。
かといって善でもあらず。
だがこんなとこで酒飲んでるっつーことは
どこぞの御曹司やら七光りで暇を持て余している次男あたりなのだろう。
マスターも昼は戦隊ヒーローの司令官をやってるとのことだが
しかしこちらはあながちガチだったりする。
ここは楽しいし安心できる。なぜならみんな誰もが繋がらない固まらない。結束しないし、できない。
いつだってばらばら。ここは貸切パーティも承ってるが、んなもんもちろん見たことない。
基本的に誰もがマスターと会話してる。
マスターはロボットみたいに当たり障りの無い応答やギャグで
嘘つき野郎やダメ人間を癒し続けている。
客たちもすべてを見透かされてるのがわかっているが
マスターと同じくあくまで気づかないフリをしつづけている。
ここに居るやつらは皆、演じている。
ここにルールがあるのならおそらくそれだろう。
"自分に架空設定をつくり演じつづけなければならない。そして他人の演技の茶を汚してもならない。"
本来酒場というものは、日ごろのストレスを酔いで開放し
本音と愚痴をぶつけ合う場所、もしくは一方的に店員にそれをぶつける場所である。
しかしここはある意味、謎の孤独人を演じ続けなければならないように
本音も愚痴も禁句ということになる。
酒場は異性やパートナーとの出会いの場所にもなるものだが、この環境ではもちろんその役割も成立しない。
ここにはほぼ男の客しか来ないが、風俗での女がどうだっただの、馬鹿ぼっちゃんならではの定番の
異性交遊の話題などは耳にするが
ゲイやホモの気質の者はまるでいない。どうやら同性愛者はよくどんな業界でも優秀な人間や管理職の立場が多いと思うのだが
こういう男ばかりの場所にもかかわらずいないというのは、やはりこの手の中二病に
ホモやゲイはいないということのなのだろうか。
まあ彼らは、出会いや対人交友に人一倍執着がある傾向が感じられるし
こんな独りよがりで自己満足する環境には満足できんだろう。
というか、これは実際ストレス解消というよりか、
むしろここに通いつづけることで
偽り続けるというストレスを溜め込んでいくことになるのではないかと思う。
なにせ自称謎の男を装いつづけられるが
実際は店員にも正体を見透かされ、そしてそれを気づかされ、
それでもなおここでは演じつづけることが要求される。
最初は楽園かと感じるだろうが、誰もが長くは居座れない。
自らここと中二病を卒業し、普通のバーへ通えるようにたいと思うようになる。
摩擦は無いほうがたしかに気楽だ。
しかし人間は摩擦の世界で摩擦を繰り返しながら生きる摩擦そのもの。
周囲・・というか世界という母体そのものから
いやがおうでも摩擦を強要されるだろうし、
摩擦がない世界で耐えることができないし、
いずれ本能的に摩擦の道へ自ら飛び込んでいくのである。
人が孤独に耐えられないというのは、
そういった万物が摩擦で構築しては崩壊を繰り返しているという自然法則の影響なのであろう。
そういう意味でここは健全かつリラックスできる場所だ。
なにせ悪がたむろしなければ停滞もしない。
ようするにここの常連の入れ替わりサイクルははんぱなく早い。
常連というより、3年やそこいらで卒業していくまで学生が通いつめる学校内か近隣の食堂みたいである。
そういえば俺も一年間専門学校に通ってたとき一ヶ月に一度卒業式があって
なんか妙なテンションで過ごした一年だった(笑)
つーか不思議なことに一ヵ月後に卒業式があるというサイクルを意識して過ごすと
一年経過して振り返ったとき、一年がめちゃめちゃ長く感じた。
様々な人間と出会っては別れを繰りかえすという体験がミソなのだろうか。
ほんとにあれは一年だったのかと思うくらい様々な出来事がフラッシュバックする。
ていうかぶっちゃけ海外留学という時点で長く感じるのは当然か。
で、悪というのは孤独家ではない。
悪の同意語が破壊や暴力であり、いじめなどを象徴するように
群れを成し率先して自分以外の誰かと交わろうとすることを望む生き物だ。
ここには悪が生息できる環境がない。
俺は正義の味方だが、わざわざ悪を捜し求めて退治するのが仕事ではない。
悪や争いを根絶撲滅しようという目標もないし出来るとも思っておりません。
ただ自分自身が正義の味方という存在であればいいというのが我が使命である。
だから純粋に酒を飲んでリラックスしたいと思うとこういう無難な場所へ足を運ぶのである。
じゃあ家で飲めよって話ですが、酒は家で飲むもんじゃない。
理由はない。
ただ幼いころから親たちを見てて
酒を家でテレビを見ながら飲んでるビジュアルが美しいものではなかったので
なんだかああはなりたくないというものがあった。
バーで飲むってロックだし、ここロックバーだからね。
このカウンターという逃げ場のない感じもいい。
バーの椅子は背もたれもなく立って飲んでる状態に近く、
個人的に座って飲んでも酔いが早まり酒が美味く感じない自分としては
やはりバーは酒を飲むのに最高の環境である。
ちなみにここは禁煙ではないがタバコを吸ってるヤツが皆無だ。
どうやらナルシストは禁煙というか吸わないヤツが多いようだ。
煙たくない酒場とか珍しいし
酒とバーが好きなのに吸わない俺としてはまさに理想的な環境である。
カフェとかだと新聞読んだりパソコン開いて仕事してるフリしたり
喫茶店ではテレビ観たりとか、あまり家でお茶してるときと変わらない。
そういうのは悪くは無いが
ロックじゃないし。
ましてや酒なんてもってのほかなのである。
ロックじゃない。
それは正義の味方という立場の俺には大問題の事項である。
正義の味方は美しくロックでなくてはならないから、
俺はバーで酒をたしなむ。
そしてもちろんこうやってバーボンをロックで飲む俺、最高にロケンロー。
ちなみに正義の味方だから帰りは歩きですよ。
家に近い店なんでね。




