↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/63

Episode 5「あたたかい匂い」

親方の家。


重い扉がギィと音を立てて閉まると、そこに静けさが戻った。


セラは部屋の隅で、身を小さくして立っている。

リトとバンリは、並んで立ったまま言葉を探していた。


しばらくの沈黙のあと、タゴスが低い声で口を開く。


「……で? お前たち、この子をどうするつもりだ?」


空気が張りつめる。


バンリが口を開く。


「とりあえず……リズマールに行かせるしかないよな……」


リトはセラを見る。


「セラはどうしたいの? 行かなきゃいけないって言ってたよね?」


視線の先のセラは、何かを言いたげに見えるが、言葉にはしなかった。

代わりに、そっと目を伏せる。


「……ふん」


タゴスが何かを言いかけたそのとき、奥の扉がカタンと開いた。


「なーに難しい顔してるの。まずはご飯にしなさい! お腹すかしてる顔してるよ、全員!」


場の空気が一気に和らぐ。


ふわっと広がる温かい匂いと共に、湯気の立つ大皿が運ばれてくる。


アンナは大皿を食卓に置きながら、二人を見る。


「さ、ご飯よご飯。リトもバンリも、久しぶりだねぇ?

バンリはまた大きくなったんじゃない?」


リトは食卓に目を輝かせる。


「あっ、お久しぶりです! うわあ、美味しそう!」


「……少し伸びたかも。アンナさんの料理、相変わらずうまそうだな」


奥の部屋から、小さな足音が駆けてきた。


「リトーっ!!」


まだ五歳のミーナが笑顔でリトに抱きついた。

小さな腕がしっかりとリトの腰に回る。


「うわっ、ミーナ。元気だったか?」


「うんっ! また来てくれたの? 今日は遊べる?」


リトは少し戸惑いながらも、ミーナの頭を優しく撫でた。


その様子を見ていたセラが、ほんの少しだけ微笑む。


──


食卓には、熱々の野菜スープと分厚いパン。


素朴だが、心があたたまる料理。


セラは、料理の香りと味に幼い日の記憶を呼び起こされていた。


薄明かりのなか、母の声。

あたたかな手。

優しい笑顔――。


そんな思い出にふれて、小さな声でつぶやいた。


「……おいしい」


ミーナやリトは楽しそうに会話を続けていたが、タゴスは静かにセラの様子を見つめていた。


しばらくして、タゴスは何も知らないような顔で、ぽつりとつぶやく。


「……あんた、名前は?」


「……セラ、です」


「そうか。……今夜はここにいな。あとは、明日考えようや」


──


その夜。


セラは布団の中で目を閉じながら、小さくつぶやいた。


「……こんな、笑い声のある場所……懐かしいな」


窓の外には、星が静かにまたたいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。