Episode 56「新月の夜」
日が傾き始めていた。
泉のそばでは、グラフが焚き火の準備をしている。
リトは集めてきた枝を置きながら、森の奥へ目を向けた。
オソノも先ほどから、何度も森の奥へ目を向けていた。
「……まだ来ないねぇ」
リトが振り返る。
「息子さんたち?」
「ああ。今日だって分かってるはずなんだけどね」
グラフが言う。
「もう少し待ちましょう」
オソノは小さく息を吐いた。
「ったく……」
──
やがて、森に夜が訪れた。
焚き火の明かりだけが、四人の顔を照らしている。
空に月の姿はない。
新月の夜。
泉は昼間と変わらず、静かなままだった。
オソノがまた森の奥へ目を向ける。
「……遅いねぇ」
その時だった。
グラフが立ち上がった。
「……待て」
全員の視線がグラフへ向く。
遠くから、低い音が聞こえてくる。
――ドドッ……ドドッ……。
オソノが顔を上げた。
「来たかい?」
だが、グラフの表情は険しい。
「……いや」
音は次第に大きくなっていく。
馬の蹄の音。
一頭ではない。
セラの表情が強張った。
やがて、暗い森の奥にいくつもの松明の光が浮かび上がる。
リトが咄嗟にセラの前へ出た。
蹄の音が止まる。
静寂。
木々の間から、一騎の馬がゆっくりと進み出た。
セラが息を呑む。
「……セディル」
その後ろには、武装したセディル配下の兵たちが並んでいた。
セディルは馬の上から四人を見下ろす。
その口元がゆっくりと歪む。
「やっと見つけたぞ……セラフィーヌ」




