↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/63

Episode 53「第二皇子」

願いの泉へ向かう街道を、セディル率いる精鋭部隊が駆けていた。


馬を走らせながら、セディルは前だけを見ている。


願いの泉。


そこへ辿り着けば、すべてが変わる。


誰にも奪われない力。


誰にも命令されない力。


誰も、自分の上には立てない力。


その時、遠い記憶が蘇る。


──


幼いセディルは、庭で剣を握っていた。


周囲には、何本もの木剣が転がっている。


「もう一度!」


相手をしていた兵士が苦笑する。


「今日はこのくらいにしておきましょう、殿下」


「まだできる!」


額の汗を拭い、セディルは再び剣を構えた。


その様子を、少し離れた場所から少年が見ていた。


「セディル」


兄のレオルだった。


「兄上」


レオルは小さく咳をすると、近くの椅子へ腰を下ろした。


「相変わらず元気だね」


「兄上もやればいい」


「僕は見ているだけで十分だよ」


「また身体が悪いのですか?」


「少しね」


セディルは木剣を握ったまま、兄を見つめた。


──


その日の夜。


皇帝の前に、セディルは立っていた。


「父上」


「何だ」


「なぜ兄上なのですか?」


皇帝が書類から目を上げる。


「何の話だ」


「次の皇帝です」


部屋が静かになる。


「兄上は剣も振れない。馬にも長く乗れない」


皇帝は黙っている。


「俺の方が強い」


「……それで?」


「俺なら、この国をもっと強くできます」


皇帝はしばらくセディルを見つめた。


「……お前には、レオルの強さが分からんか」


「兄上の……強さ?」


「強さとは、剣のみにあらず」


セディルは眉をひそめる。


「兄上は何もできないじゃないですか」


皇帝が鼻で笑った。


「こわっぱに何ができる」


セディルの顔から表情が消える。


「笑わせるな」


皇帝は再び書類へ目を落とした。


「下がれ」


セディルは拳を握りしめる。


「……はい」


──


部屋を出たセディルは、一人で長い廊下を歩いていた。


握りしめた拳が震えている。


「……いつか」


セディルは足を止めた。


振り返り、閉ざされた皇帝の部屋を睨む。


「兄上も……父上も……」


その先の言葉を飲み込み、再び歩き出した。


──


馬の蹄が地面を蹴る。


「もっと速く走れ!」


兵士たちが後を追う。


馬に括りつけられた鞄が大きく揺れる。


セディルは前を見据えたまま、願いの泉へ向かって馬を走らせ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。