Episode 52「お祖母様の願い」
タリアを出てから、二日が過ぎていた。
リトたちはフィルノアの森を進み、日が暮れる前に野営できる場所を見つけた。
グラフが火を起こし、オソノは荷物から食料を取り出している。
リトは疲れたように地面へ座り込んだ。
「はぁ……結構進んだな」
「何言ってんだい。まだ着いてないよ」
「分かってるって……」
そんな二人の声を聞きながら、セラは少し離れた場所で夜空を見上げていた。
木々の隙間から、星が見える。
願いの泉が近づいている。
そう思った時、ふと昔のことを思い出した。
──
「お祖母様!」
幼いセラが長い廊下を走っていた。
その先に、一人の老婦人が立っている。
「セラ。廊下を走ってはいけませんよ」
「だって、お祖母様を探してたんだもん!」
「まあ。何かあったの?」
セラは嬉しそうに一冊の本を差し出した。
「これ!」
古びた絵本だった。
表紙には、白銀の衣を纏った女性と、輝く泉が描かれている。
「またこのお話?」
「うん!」
お祖母様は笑いながら椅子に腰を下ろした。
セラはその隣へ座る。
「ねえ、お祖母様」
「なあに?」
「この泉、本当にあるの?」
「あるわよ」
「本当に願いが叶う?」
お祖母様は少し考えた。
「どうかしら」
「えー!」
セラが頬を膨らませる。
「あるって言ったのに!」
「泉があることと、願いが叶うことは別でしょう?」
「ずるい!」
お祖母様が笑った。
「じゃあ、セラは何をお願いするの?」
「えっとね……」
セラは真剣な顔で考える。
「毎日お菓子を食べても怒られませんように!」
お祖母様が吹き出した。
「それは難しいお願いね」
「どうして?」
「お母様に叱られてしまうもの」
「じゃあ……」
セラはさらに考える。
「お祖母様と、ずっと一緒にいられますように!」
お祖母様は少し微笑んだ。
「……それは、いつか叶わなくなるお願いね」
「どうして?」
「セラ。お祖母様が何歳だと思ってるの?」
「えっと……百歳?」
「まあ!そんなにお婆ちゃんに見える?」
「じゃあ、五十歳!」
「ふふっ。それなら許してあげる」
セラも笑った。
「じゃあ、お祖母様は?」
「え?」
「何をお願いするの?」
お祖母様は少し考えてから、セラの頭を優しく撫でた。
「そうねぇ……セラがいつまでも元気でいてくれることかしら」
「それだけ?」
「それだけで十分よ」
セラは少し考えて、首を振った。
「私はやっぱり、いっぱいお菓子が食べたい!」
「あらあら。この子は食いしん坊さんね」
お祖母様が笑う。
セラもつられて笑った。
──
「セラ?」
リトの声で、セラは我に返った。
「どうした?」
「ううん」
セラはもう一度、夜空を見上げた。
「お祖母様のこと、思い出してただけ」
リトはそれ以上聞かなかった。
焚き火の向こうで、オソノが声を上げる。
「二人とも!冷める前に食べな!」
「今行く!」
リトが立ち上がる。
セラもその後に続いた。
願いの泉は、もう遠くなかった。




