Episode 49「出発の朝」
タリアへ戻ってから、数日が過ぎていた。
その間、リトたちは王宮でフィルノアの遺跡や、そこで見つけた織物について何度も話し合った。
地下工房に残されていた織物、布に残されていた言葉、願いの泉と新月の可能性。
グラフとオソノは覚えていることを整理し、セラも読み解いた言葉を書き留めていった。
その合間には、穏やかな時間もあった。
夜になると、セラは弟の部屋を訪れ、本を読んであげた。
久しぶりに、姉弟だけで過ごす時間だった。
──
そして、願いの泉へ向かう朝。
出発の準備を終えたリトは、セラの姿が見えないことに気づいた。
王宮の中を探していると、中庭に一人で立つセラを見つける。
「セラ」
セラが振り返った。
「リト」
リトは隣まで歩いていく。
二人で中庭を眺めていると、セラが口を開いた。
「ねえ、リト」
「ん?」
「バンリは、どうしてるかな」
突然名前を出され、リトは目を瞬いた。
「バンリ?」
「うん。あれからずっと会ってないでしょう?」
リトは少し考える。
「……まあ、あいつなら大丈夫だろ」
「心配じゃないの?」
「全然」
即答だった。
セラが思わず笑う。
「親友なのに?」
「親友だからだよ」
リトは空を見上げた。
「あいつは、俺なんかよりずっと頭いいしさ。今頃、親方にどやされながらちゃんと仕事してるよ」
セラも空を見上げる。
「……そうかもね」
「それより、今はセラだろ」
「私?」
「ああ」
リトはセラを見る。
「ここまで来たんだから、最後まで行こう」
セラは少しだけ目を見開いた。
そして、柔らかく笑う。
「ありがとう」
遠くからオソノの声が響く。
「何してんだい!置いてくよ!」
リトが振り返る。
「ほら、行こうぜ」
「うん!」
二人は並んで走り出した。
向かう先は、願いの泉だった。




