Episode 44「焼けた工房」
──リトたちがタリアへ戻る、数日前──
ナパラへ続く道を、タゴスとバンリは馬を走らせていた。
遠くの空に、黒い煙が見える。
バンリが顔を上げた。
「……あれ、ナパラの方じゃないか?」
タゴスの表情が険しくなる。
二人はさらに馬を急がせた。
──
ナパラへ入ると、街の一部には戦いの跡が残っていた。
壊れた家。
崩れた露店。
道には焼け焦げた木材が散らばっている。
リズマール軍の姿も、遠くに見えた。
「くそ……」
タゴスは奥歯を噛みしめた。
二人はそのまま工房へ向かった。
やがて見慣れた建物が見えてくる。
二人は工房の前で馬を降りた。
だが、バンリはその場で立ち尽くした。
「……親方」
工房の一部が黒く焼けていた。
壁は崩れ、窓は割れ、焦げた布が風に揺れている。
タゴスは何も言わず、立ち尽くした。
その横で、バンリの顔色が変わる。
「母さん……!」
工房がこんな状態なら、自分の家だって無事とは限らない。
「親方、ごめん!」
そう言い残すと、バンリは飛び出すように走っていった。
タゴスは止めなかった。
自分も同じだった。
頭に浮かんでいるのは、二人の顔だけだった。
「アンナ……ミーナ……」
焼けた工房を離れ、避難している人々を探す。
何人もの知り合いに声をかけていると、一人の男が言った。
「アンナさんたちなら、裏山の避難洞へ行ったはずだ!」
タゴスはすぐに裏山へ向かった。
そこには、昔から有事の際に使われてきた避難洞がある。
中には多くの住民が身を寄せ合っていた。
タゴスが目を凝らした、その時だった。
「父ちゃん!」
聞き慣れた声が響く。
小さな身体が人混みを抜け、胸へ飛び込んできた。
「父ちゃん……!父ちゃん!」
ミーナだった。
泣きじゃくりながら、タゴスの服を強く掴んでいる。
「ミーナ……」
タゴスは娘を強く抱きしめた。
その向こうからアンナが駆け寄ってくる。
「タゴス……!」
アンナも二人を抱きしめる。
タゴスはしばらく何も言えなかった。
二人の温もりを確かめるように、強く抱きしめる。
「……良かった」
それだけが、ようやく声になった。
少し離れたところから、声がした。
「タゴスさん……」
振り向くと、バンリの母親が立っていた。
「バンリは……?」
タゴスが立ち上がる。
「一緒に戻ってきた。工房を見たあと、自分の家へ走っていったよ」
母親の表情が曇る。
タゴスはそんな彼女を見て言った。
「心配すんな。俺が探して連れてくる」
アンナが不安そうにタゴスを見る。
「あなた……」
タゴスは振り返った。
「大丈夫だ。バンリを連れてくるだけだから」
ミーナがタゴスの服の裾を掴む。
「父ちゃん、戻ってくる?」
「ああ。すぐ戻る」
タゴスはミーナの頭を軽く撫でると、避難洞を後にした。




