Episode 43「見えない戦い」
──翌朝・タリアの街──
連絡員が人混みの中へ消えていく。
グラフは周囲に人がいないことを確かめると、先ほど受け取った報告書を開いた。
一枚目に目を通した瞬間、表情が険しくなる。
――セディル、ナパラ方面へ進軍。
「……やはりセディルはナパラへ向かったか」
次の紙を開く。
――北の街道、ヴァル布連の工作員が輸送隊を別路へ誘導。
――西の補給所、物資の搬入を停止。
――南部、橋を封鎖。
グラフは一枚ずつ読み進めていく。
どれも、リズマール軍の進軍を少しでも遅らせるための報告だった。
最後の一枚を読み終えると、小さく息を吐く。
「……みんな、動いてくれてるな」
グラフはナパラの方角へ目を向けた。
「ナパラには、タゴスたちも、その家族もいる……」
表情が曇る。
「何とか持ちこたえてくれ」
そして、低く呟いた。
「これだけ続けば、セディルもいずれ気づくだろうな」
グラフは報告書を折り畳み、懐へしまった。
──
リズマール軍の野営地。
「まだ補給物資は届かんのか!」
指揮官の怒声が響く。
「三日前に出た輸送隊も、到着しておりません!」
「南はどうした!」
「橋が封鎖され、通行できません!」
「西の補給所は!」
兵士が言葉に詰まる。
「それが……物資の搬入を停止したとの報告が」
「誰がそんな命令を出した!」
「分かりません!」
指揮官は机を強く叩いた。
食料。
武器。
馬の飼料。
届くはずの物資が、各地で止まっている。
「何が起きている……」
誰も答えられなかった。
それでも、リズマール軍はナパラへ向けて進み続けている。
だが、その歩みは確実に鈍り始めていた。




