↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/67

Episode 3「親方の忠告」

翌朝、貧民街の空はまだ薄曇りだった。


リトは早くから目を覚まし、そっと毛布の中のセラの額に手をあてる。


熱はなく、呼吸も穏やかだった。


「……落ち着いてるみたい。よかった……」


まだ眠るセラを残し、リトはバンリとともに縫製工場へと向かった。


──


工房の奥では、親方のタゴスがいつものように作業台に向かっていた。


白髪まじりの無精ひげに、しわだらけのごつい手。


その指先は今日も迷いなく針に糸を通している。


バンリが口を開いた。


「親方、話がある」


その声に針が止まる。


「……その顔。いつもより余計なもん抱えてやがるな」


バンリは肩をすくめ、隣のリトを目で促した。


「……親方。実は昨日、林で女の子を見つけて……今、俺の部屋で休ませてて……」


その瞬間、タゴスの手がぴたりと止まる。


「首に、タリア公国の紋章のネックレスをつけてた。名前はセラ……セラフィーヌって」


しばらくの沈黙。


タゴスは低く鼻を鳴らし、しわだらけの指で煙草を取り出す。


「バカだなぁ、お前ら……。そいつが何者か、分かってんのか?」


「……わからない。でも、助けたくて……」


「昨日の夜な、裏の革屋から聞いた。街道の外れで“王族の馬車が野盗に襲われた”って話だ」


その言葉に、リトとバンリは思わず息を呑んだ。


「馬は逃げて、馬車も街道から姿を消したって話だ。その子が生き残りだとすりゃ、追っ手が出てるだろうよ」


煙草に火をつけ、くゆらせるタゴス。


その目は煙の向こうから鋭く二人をにらんでいた。


「いいか。これは、お前らが関わっていい話じゃねぇ」


「でも、あの子は“リズマール帝国に行かなきゃ”って……!」


「帝国だぁ? 余計にダメだ。リズマールが絡んでるなら、そいつは相当厄介な事情を抱えてるかもしれないな。お前らみたいな小僧が、守りきれる相手じゃねぇんだよ」


言葉を失うリト。


やがて、タゴスはくるりと背を向け、作業台に向き直り、もう一度針を持つ。


「……今日のノルマ、四着。文句言う暇があるなら、手ぇ動かせ」


その背中は、いつもより少しだけ険しかった。


──


夕暮れ。


石畳の路地を歩く帰り道、二人はしばらく無言だった。


「……やっぱり、無理なのかな。親方があそこまで強く止めるなんて……」


「俺たちじゃどうにもできないってことだろ」


風が吹き抜ける石畳の路地。


その向こうに、今日も変わらない貧民街の夕日が沈んでいった。


けれど、リトの胸にはまだ小さな火種が残っていた。


それは、ゆっくりと息を吹き返そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。