Episode 2「目覚めた少女」
林の奥で倒れていた少女を、リトとバンリは急いで自分たちの住む貧民街の一角に連れて帰った。
「バンリ、水! それと、毛布も!」
「わかってる。お前はこの子の様子を見てろ」
リトの部屋は、古い屋根裏部屋のような場所だった。
小さな窓から月明かりが差し込み、少女の頬をやさしく照らしている。
汚れた毛布にくるまれた少女の顔色は、少しだけ落ち着いていた。
リトは心配そうに彼女のそばに座り、じっと様子を見守っていた。
その表情には、不安と戸惑いが混ざっている。
壁にもたれ、腕を組んでいたバンリが、ため息混じりにつぶやく。
「……お前な。王族を拾ってくるとか、ほんと正気かよ」
「でも、あのまま放っておけなかったんだよ。あんな林の中で、一人で……」
反論しかけたその時――
かすかに、毛布の中から声がした。
「……ここは……?」
二人は、同時に少女へと視線を向ける。
ゆっくりと目を開けた少女は、しばらく天井をぼんやりと見つめていた。
やがて胸元のネックレスに手を当て、安心したように息をつく。
「あなたが……助けてくれたの?」
「う、うん。林で倒れてて、その……」
「俺は止めたんだけどな。王族に手を出したら、ただじゃ済まないって」
「……もう、いいってば……!」
やりとりを聞いていた少女は、申し訳なさそうに目を伏せる。
「ご迷惑をおかけして、ごめんなさい……あなたたちは……?」
「俺はリト。こっちはバンリ」
少女は少しだけ迷ってから、自分の名前を名乗った。
「……私はセラ。セラフィーヌ」
その名を聞いた瞬間、バンリの眉がわずかに動いた。
(セラフィーヌ――。あれって、確かタリア公国の……)
少女は視線を落とし、しばらく黙っていたが、ぽつりとつぶやいた。
「……わたし、帝国に行かなきゃ。リズマール帝国に……わたしが、行かないと……。みんなが……」
その言葉の最後は、夢の中へ溶けるように、ふっと消えていった。
まぶたを閉じたセラは、再び眠りに落ちる。
部屋の中には、静寂が戻った。
リトはまだ信じられないような顔で、眠るセラを見つめていた。
バンリは難しい顔をして、リトに話しかける。
「……マジで王族だな。あのネックレスの紋章はタリア公国のだ。間違いない」
「……でも、この後どうしよう?……リズマール帝国に行くって、なんでだろうな?」
バンリは、リトに向き直った。
「今なら引き返せる。巻き込まれる前に、誰かに預けた方がいい」
「でも……今は少しでも回復してもらわないと。明日、親方に相談すれば何か分かるかもしれないし……放っておけないよ」
雲の切れ間から、月明かりが貧民街の屋根を照らしていた。
屋根裏部屋には、少女の静かな寝息と、リトが毛布をかけ直す小さな音だけが響いている。




