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Episode 1「少女を乗せた馬車」

ナパラ王国、貧民街。

朝一番の空気はまだ冷たく、石畳を踏みしめる足音がカン、カン、と響いていた。


「ふぁぁ……バンリ、朝早すぎ……」


「お前が『朝早く行って親方に褒められたい』って言ったんだろ。寝坊すんなよ」


リトは毎朝の勉強に少し躓きながらも、勉強も仕事も覚えることの楽しさを感じていた。


二人が縫製工場で働き始めて、まもなく一年。

作業は掃除、布の仕分け、針の準備、糸巻き、仕立ての手伝いなどの雑用も多かったが、最近ではボタンの縫い付けやミシンを使った縫製も任されるようになっていた。


工場の余り布を使い、自分たちの服をリメイクしては、「いつか自分たちのブランドを持ちたい」と夢を語り合っていた。


「なぁ、この糸、昨日より細くない?」


「気づくの遅いな。二日前からだぞ」


「なっ……!お前、もっと早く言えよー!」


そんな軽口を叩きながらも、二人の手は休むことなく針と糸を動かしていく。

毎日が少しずつ、“ただの生活”から“何かを目指す日々”へと変わり始めていた。


──


昼休み。

外の通りを、場違いなほどきらびやかな馬車が音を立てて通り過ぎていく。

王族の紋章、手入れされた馬、物々しい警護の姿。


リトは窓越しにそれを眺めた。

そのとき、馬車の窓から金色の髪の少女と目が合った。

一瞬だけ、だが確かに、まっすぐに見つめられた。


「今の……誰だ?」


「知らないほうがいい。王族だ。関わったら面倒なことになる」


「……でも、なんか変だったんだよな」


──


夕暮れ。仕事を終えた二人は裏道を歩きながら帰路につく。


すると、林の奥からかすかな馬のいななきが聞こえた。


「……馬?」


こんな林の奥に馬がいるはずがない。

気になって、リトは音のする方へ走り出した。


「おい、待てよリト!……ほんとあいつは……」


──


木々の隙間から差し込む夕暮れの光の中。

横倒しになった白い馬車、その傍らに泥だらけの少女が倒れていた。

昼間の、あの馬車の子だった。


ドレスは破れ、素足は擦りむき、胸元で光るネックレスを強く握っている。


「……たすけて……」


その声に、リトは息を呑んだ。


「バンリ!!バンリぃ!!医者!誰か!!早くぅぅ!!」


その声は、貧民街の林の奥に響き渡っていた。


──


この瞬間から、彼らの人生が少しずつ動き出していく。

まだ誰も、この出会いが“願い”と“運命”へと繋がっていくことなど知らずに――。

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