Episode 37「動き出す遠征」
──リトたちがフィルノアの遺跡を調べ始める、数日前──
リズマールの街。
バンリとタゴスは、宿へ戻る途中だった。
「よう」
背後から声をかけられ、バンリが振り返る。
そこに立っていたのは、イーランだった。
「……お前」
イーランはニヤリと笑う。
「そんな顔すんなよ。お前のおかげで、いい情報が売れたよ」
「何の話だよ」
「王女様さ」
バンリの表情が変わる。
「セラ?」
「ああ」
イーランは肩をすくめた。
「お前ら、ずいぶん詳しそうに話してたじゃねぇか」
タゴスの目が鋭くなる。
「……あの時、聞いてやがったのか」
「たまたま聞こえただけさ」
バンリが一歩詰め寄る。
「何をした」
「大したことじゃねぇよ」
イーランは悪びれる様子もない。
「お前らが王女様のことを知ってる。しかも、お前らはナパラの人間だ」
口元を歪める。
「だったら、王女様もナパラにいるんじゃねぇかってな」
バンリの顔色が変わった。
「それを……売ったのか?」
「情報は金になるからな」
バンリがイーランの胸ぐらを掴む。
「ふざけんな!」
「おいおい。俺は見たなんて言ってねぇぞ」
イーランはバンリの手を振り払う。
「いるかもしれないって話をしただけだ。信じるかどうかは向こうの勝手だろ?」
「向こうって……」
イーランは答えず、笑った。
その顔を見て、バンリには十分だった。
「……セディル」
イーランはそのまま背を向ける。
「まあ、せいぜい気をつけるんだな」
人混みの中へ消えていくイーランを、バンリは睨みつけた。
「くそ……」
タゴスが低い声で言う。
「こっちはガルドに任せる。俺たちはナパラへ戻るぞ」
バンリが振り返る。
「ナパラに?」
「ああ。軍が動き出してるなら、のんびりしてられねぇ」
バンリは強く頷いた。
「急ごう」
──
ナパラへ続く街道。
リズマール軍の隊列が、土煙を上げながら進んでいた。
その先頭で馬を進めるセディルは、遠くナパラの方角を見据えている。
セラフィーヌがいるという確証はない。
だが、ナパラへ向かう理由が一つ増えただけでも十分だった。
もともとナパラには、降伏を求める書状を送っている。
そこにセラフィーヌまでいるのなら、なおさら都合がいい。
セディルの口元に笑みが浮かぶ。
「待っていろ……セラフィーヌ」
軍勢は止まらない。
ナパラへ向けて、リズマール軍は進み続けていた。




