Episode 36「残された光」
リトが落ち着くまで、三人は何も言わなかった。
やがてリトは涙を拭い、母のハンカチを丁寧に畳む。
「……もう大丈夫」
セラが心配そうに見る。
「本当に?」
「うん」
リトはハンカチを首から下げた巾着袋へ戻した。
オソノが頷く。
「だったら、もう少し調べるよ」
四人は再び、巨大な織物の前へ集まった。
オソノが黄金色の水面と、その周囲を舞う小さな光へ目を向ける。
「残ってるのは、この水面と光だね」
グラフも織物を見つめる。
「まだ意味が分からない」
セラは見本布を手に取り、周囲に残された織物を調べ始めた。
──
しばらくして。
「これ!」
セラが一枚の小さな布を見つけた。
そこには夜空と水辺。
そして、水面の近くに小さな光がいくつか織り込まれている。
リトが覗き込む。
「巨大な織物と似てる」
セラは横に並ぶ文字を、ゆっくり追っていく。
「ルナ……ノクティア……フェル……」
セラの指が止まる。
「フェルは……祈り」
さらに先へ進む。
「その次は、エルナ……人々」
リトが小さく笑う。
「だいぶ読めるようになってきたな」
セラも頷き、その先を指で辿った。
「ミレア……願い」
グラフが呟く。
「月。闇。祈り。人々。願い……」
まだ断片的ではある。
だが、言葉は少しずつ繋がり始めていた。
オソノが別の文字を指差す。
「こっちはどうだい?」
セラが目を凝らす。
「リュナ……」
見本布を確かめる。
「澄んだ……とか、清らかなって意味だと思う」
その近くには、水を表す紋様が織り込まれていた。
リトが言う。
「澄んだ水……?」
「たぶん」
グラフが頷く。
「この場所と関係があるのかもしれないな」
セラはさらに文字を追った。
「ネリア……」
「それは?」
「季節を表してるみたい」
オソノも覗き込む。
「暖かい季節、って意味に近そうだね」
セラはもう一度、小さな布へ目を落とした。
文字はいくつか読める。
けれど、小さな光が何を表しているのかだけは分からなかった。
──
気づけば、かなりの時間が経っていた。
オソノが周囲を見回す。
「今日はここまでにしようかね。外で寝るより、ここにいた方がましさ」
四人は入口近くの乾いた場所へ毛布を広げた。
小さな火を起こし、持ってきた干し肉とパンで簡単に腹を満たす。
食事を終えたあと、リトは昼間見つけた布を眺めていた。
「……火じゃないのかな」
グラフが顔を上げる。
「この光が?」
「うん。松明とか」
オソノが布を手に取り、首を振る。
「それなら、人や棒も一緒に織るはずさ」
グラフも頷いた。
「光だけが描かれているのは少し不自然だな」
セラが小さく呟く。
「じゃあ、火じゃない……?」
「たぶんね」
また一つ、可能性が消えた。
四人はしばらく布を見つめていた。
やがて一人ずつ毛布へ入っていく。
最後にリトは、首から下げた巾着袋へそっと手を添えた。
地下工房には、小さな火の明かりだけが残っていた。




