Episode 32「フィルノアの記憶」
見本布を手掛かりに、四人は少しずつ文字を拾っていった。
太陽。
月。
水。
光。
一つずつ意味を当てはめながら、長い織物を読み解いていく。
時間はかかった。
それでも、最初はただの模様にしか見えなかった銀糸が、少しずつ言葉として姿を変え始めていた。
グラフが一枚の織物を指差す。
「ここ。同じ言葉が何度も出てくる」
セラが見本布と照らし合わせる。
「セリノ・リュン・ミラティア……」
リトが首を傾げる。
「どういう意味なんだ?」
オソノが別の布を並べる。
「全部は分からない。でも、この辺りは“争い”とか“戦い”に関係する言葉みたいだね」
さらに別の織物を調べる。
そこには、武器を持つ人々。
崩れた家。
逃げる者たち。
そして、傷ついた人々の姿が織り込まれていた。
セラの表情が曇る。
「フィルノアでも……戦争があったの?」
グラフが織物を見つめる。
「そう考えるのが自然だろうな」
オソノが続ける。
「織師たちは、これを後に残そうとしたんだろうね」
リトが銀糸を見つめた。
「忘れないために?」
「ああ。同じことを繰り返さないためかもしれないね」
さらに奥の布を調べていたセラが、別の言葉を見つける。
「これ……さっきとは違う」
その先には、人々が武器を置き、手を取り合う姿が織り込まれていた。
月の紋章。
銀糸。
そして、その上に続く文字。
セラがゆっくりと読み上げる。
「ルミナ・フェリナ・アルネスタ……」
グラフが見本布と照らし合わせる。
オソノも別の織物を並べながら、意味を探っていく。
しばらくして、オソノが呟いた。
「こっちは……“願い”とか、“争いのない”って意味に近いのかもしれないね」
セラは織物から目を離せなかった。
争いに傷ついた人々。
その争いを終わらせたいと願った者たち。
セラは銀糸の文字を見つめる。
「もしかして……」
リトがセラを見る。
「どうした?」
「タリア王家の想いを、フィルノアの織師たちが銀糸に込めて残したのかもしれない」
グラフが織物へ目を向ける。
「争いを望まない、その想いを?」
セラは小さく頷いた。
リトは壁一面に残された織物を見回す。
「だから、こんなに言葉を残したのかな」
グラフが答える。
「失われても、いつか誰かに届くようにな」
セラはもう一度、銀糸の文字へ目を向ける。
「争いのない……そんな意味なのかな」
長い年月を越えて残されたフィルノアの記憶。
それは伝承ではなく、確かにこの場所に残された想いだった。




