Episode 31「失われた言葉」
──フィルノアの遺跡・地下工房──
リトたちは、工房に残された織物を一枚ずつ調べていた。
壁に掛けられた布。
棚に積まれた銀糸。
古びた織機。
どれも長い年月を経て傷んではいるが、かつて使われていた形を残している。
だが、銀糸で織り込まれた紋様が何を意味するのかは、まだ分からないままだった。
「これだけあるのに、何も分からないなんてな……」
リトがため息をつく。
オソノは一枚の布を広げながら首を振った。
「焦るんじゃないよ。これだけ残してあるんだ。どこかに手掛かりくらいあるさ」
グラフも棚の中を調べていた。
その時だった。
「……これは?」
一番奥の棚から、小さく畳まれた布を取り出す。
他の織物とは違い、いくつもの小さな絵が並んでいた。
太陽。
月。
水。
木。
そして人。
それぞれの絵の横には、銀糸で短い紋様が織り込まれている。
セラが近づく。
「絵と紋様が一緒に……」
オソノが布を覗き込んだ。
「なるほどね」
「何か分かった?」
「これ、文字を覚えるための布じゃないかね」
リトが目を丸くする。
「文字を?」
「ああ。子どもか、見習いの織師に教えるためのものかもしれない」
グラフが太陽の絵を指差した。
その横には、一つの短い紋様がある。
さらに月。
水。
木。
それぞれの絵に、違う紋様が添えられていた。
「この絵が意味を表しているなら……」
グラフは近くにあった別の織物を持ってくる。
銀糸で長い紋様が織り込まれた布だった。
「同じ形を探せるかもしれない」
四人は布を並べた。
しばらくして、セラが声を上げる。
「あった」
一つの紋様を指差す。
見本布の「月」の横にある紋様。
それと全く同じものが、別の織物の中にも使われていた。
リトが身を乗り出す。
「本当だ」
オソノの口元がわずかに緩む。
「一つ分かれば、そこから辿っていけるかもしれないね」
グラフが頷いた。
「時間はかかるが、これなら少しずつ読み解けるかもしれない」
リトは壁一面に残された織物を見回した。
今まで意味の分からなかった銀糸の紋様。
それが初めて、言葉として形を持ち始めていた。
セラは見本布と巨大な伝承の織物を交互に見つめる。
「ここに残された言葉が読めれば……」
「伝承の続きも分かるかもしれないね」
オソノが答える。
リトは小さく頷いた。
失われたフィルノアの言葉。
その扉が、ようやく少しだけ開き始めていた。




