Episode 29「売られた情報」
男は、何食わぬ顔で残っていた酒を飲み干した。
イーランだった。
バンリとタゴスが店を出るのを見届けると、イーランも席を立つ。
「……セラ王女、ねぇ」
口元に笑みを浮かべ、そのまま店を後にした。
──
城門には、警護中の兵士が立っていた。
イーランが近づくと、一人の門兵が手で制した。
「止まれ。何の用だ」
「ちょっとした情報を持ってきた」
「情報?」
イーランは声を落とす。
「セラ王女のことだ」
門兵の表情が変わった。
「何を知っている?」
イーランがニヤリと笑う。
「その前に……情報料、くれるんだろ?」
「内容による」
「行方が分からなくなってた王女様が、ナパラにいるかもしれねぇ」
門兵が眉をひそめる。
「確かなのか?」
「そこまでは知らねぇよ」
イーランは肩をすくめた。
「前に王女様と一緒に旅してたガキを知ってるか?」
「ああ。前に騒動を起こしたやつだろ?」
「そいつの仲間が、王女様のことを話してた。まだ一緒に動いてるらしい」
門兵は黙ってイーランを見る。
「そいつらはナパラの人間だ。王女様もあの辺にいる可能性は高いんじゃねぇか?」
「……それだけか?」
「それだけでも十分だろ?」
イーランが笑う。
「セディル殿下なら、確かめたくなるんじゃないか?」
──
翌朝。
セディルのもとへ、一人の兵士が駆け込んできた。
「セディル殿下、ご報告が」
「なんだ」
「セラ王女について、不確かな情報が入りました」
セディルが顔を上げる。
「……セラフィーヌ?」
「ナパラにいる可能性があるとのことです」
セディルの目つきが変わる。
「ナパラ……」
兵士が頷く。
「ただし、まだ確認は取れておりません」
セディルはしばらく黙ったまま考えていた。
やがて、ゆっくりと立ち上がる。
「構わん」
「は?」
「確かめればいい」
セディルは窓の外へ視線を向けた。
「予定通り、ナパラへの遠征を進めろ」
「はっ!」
兵士が部屋を出ていく。
セディルは一人、薄く笑った。
「ナパラか……今度こそ逃がさんぞ、セラフィーヌ」




