Episode 25「セディルの脅威」
──リトたちがフィルノアの遺跡を見つける、数日前──
バンリは、いつもと変わらない日々を送っていた。
朝から工房に入り、布を裁ち、ミシンを踏む。
リトのいない工房は少し静かだったが、それにも慣れ始めていた。
その日も作業をしていると、工房の奥が妙に騒がしいことに気づいた。
タゴスが慌ただしく行ったり来たりしている。
いつもドシッと構えていて、滅多なことでは走らない男だ。
そのタゴスが走っている。
「……何かあったのか?」
次の瞬間、タゴスが大声を上げた。
「おい! バンリ!」
「なんだよ」
「あのお嬢ちゃんたち、今どこにいるか分かるか?」
「セラたち?」
「そうだ」
バンリは首を振った。
「今どこにいるかは分からない。オソノって人のところへ行くって言ってたけど」
「そうか……」
タゴスは少し考え込んだあと、バンリを見る。
「こっちも、どうやらヤバいことになりそうだ」
「何があった?」
「リズマールが動いてるって話が入った」
バンリの表情が変わった。
「タリアだけじゃねぇ。どうやらセディルは、ナパラにも手を伸ばすつもりらしい」
「……ナパラに?」
「ああ」
タゴスは工房の奥から古い鞄を引っ張り出した。
「俺はリズマールに行く」
「何しに?」
「会わなきゃならねぇ奴がいる」
「誰?」
「昔の仲間だ」
タゴスはバンリを指さした。
「お前も来い」
「俺が?」
「最近リズマールまで行ったのはお前だ。街の様子や検問がどうなってるか知ってるだろ」
「……まあ」
「昔とは変わってるかもしれねぇ。お前の目で見たことを教えろ」
「は? 今から!?」
「明日の明け方だ。俺ん家に来い」
「いや、行くって言ってねぇだろ!」
「母ちゃんに話してこい。俺もアンナとミーナに話さなきゃならねぇ。工場のこともある」
タゴスは鞄を担いだ。
「ちょ、待てよ!」
タゴスはもう工房の奥へ走っていた。
バンリはその背中を見送り、小さく息を吐いた。
「……なんなんだよ、急に」




