Episode 24「伝承の織物」
セラは巨大な織物から目を離せずにいた。
白銀の衣を纏った女性。
その足元には、黄金色に輝く水面。
暗い空には、無数の小さな光が舞っている。
「この人……」
セラはゆっくりと織物へ近づいた。
「絵本に描かれていた人と同じ……」
リトがセラを見る。
「絵本?」
セラは頷く。
「小さい頃、お祖母様が何度も見せてくれたの」
幼い頃の記憶が、少しずつ蘇る。
白銀の衣を纏う女性。
黄金色に輝く水面。
そして、無数の小さな光。
絵本の中では意味も分からず眺めていた景色が、今、目の前の織物に残されている。
「お祖母様が、絵本を読みながらよく話してくれた言葉があるの」
セラはしばらく目を閉じる。
そして、ゆっくりと口にした。
「白銀のローブを纏いし者、黄金色に輝く水面の前で――願石に託したその“想い”は、叶えられるだろう」
リトが織物へ目を向ける。
セラは続けた。
「光と闇が重なりし時。言霊にて綴られし願いが、時を超えて世界に縫い付けられる。それは誰がための祈りなのか」
工房に静けさが広がった。
グラフが巨大な織物を見上げる。
「……この絵と、その言葉が繋がっているのは間違いなさそうだな」
オソノは織物の端へ近づいた。
銀糸で細かな紋様が織り込まれている。
「ここにも同じようなものがあるね」
リトが覗き込む。
「さっきのと同じ?」
「ああ。よく似てる」
オソノは銀糸を目で追う。
「ただ、何を意味してるのかは、まだ分からないね」
セラも織物へ近づく。
黄金色の水面。
無数の光。
白銀の衣を纏う女性。
「これが願いの泉なら……あの時とは何かが違う」
リトが首を傾げる。
「違う?」
「あの時、泉はこんなふうに光ってなかった」
グラフが織物を見上げる。
「なら、私たちはまだ条件を全部知らないということか」
オソノが頷く。
「そういうことだろうね」
そして、工房いっぱいに残された織物へ目を向ける。
「ここに残されたものの意味が分かれば、その答えも見えてくるかもしれないね」
リトは周囲を見回した。
壁一面の織物。
銀糸で織り込まれた、意味の分からない紋様。
「でも、どうやって調べるんだ?」
誰も答えられなかった。
セラはもう一度、巨大な織物を見上げる。
祖母が残した言葉。
絵本に描かれていた景色。
そして、フィルノアの織師たちが残したもの。
答えは確かに、この場所にある。
だが、それを読み解く方法だけが、まだ見つかっていなかった。




