Episode 23「残された想い」
リトは、石柱に現れた鍵穴を見つめた。
手には、母からもらった古い鍵がある。
「……これ、本当に入るのかな」
「入れてみりゃ分かるだろ」
リトは鍵を差し込み、ゆっくりと回した。
――カチリ。
次の瞬間、地の底から低い音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
石柱の後ろに隠れていた石床がゆっくりとずれ、その上に絡みついていた木の根が土をこぼしながら引かれていく。
やがて、その下から地下へ続く石の階段が現れた。
リトは暗闇を覗き込む。
「……すげぇ」
オソノは荷物から松明を取り出し、火を灯した。
「行くよ」
「え、もう?」
「何のためにここまで来たんだい」
オソノは迷うことなく階段を下りていく。
リトたちも、その後を追った。
──
階段の先には、古い工房が広がっていた。
何台もの織機が並び、棚には朽ちかけた糸巻きや道具が残され、壁には色褪せた織物がいくつも掛けられている。
グラフは松明を掲げたまま、言葉を失ったように辺りを見渡した。
「……すごいな」
ゆっくりと一台の織機へ近づく。
「これが、本当にフィルノアの織師たちが使っていた工房だとしたら……」
オソノも織機へ目を向ける。
「とんでもないものを見つけちまったね」
グラフは織機の細部を確かめるように見つめていた。
リトとセラも、壁に残された織物へ目を向ける。
オソノはそのうちの一枚に近づいた。
織物には、銀糸による複雑な紋様が残されている。
「やっぱり、ただの模様じゃないね」
リトが覗き込む。
「これ、何か分かりそうなの?」
「いや、まだちゃんと調べないと分からないよ。ただの模様じゃないとは思うけどね」
セラも織物を見つめる。
「じゃあ、調べれば何か分かるかもしれないんですね」
グラフが周囲を見渡した。
「これだけ残っているんだ。手掛かりも、どこかにあるかもしれない」
リトは手の中の鍵へ視線を落とした。
――これは、お母さんの大切なものだから。リトが持ってて。
幼い頃に聞いた母の言葉が、頭の中に蘇る。
この鍵がなければ、ここへ入ることはできなかった。
母は、この場所を知っていたのだろうか。
それとも――。
その時、工房の奥からグラフの声がした。
「おい、こっちを見ろ」
三人が声の方へ向かう。
工房の一番奥。
巨大な織物が、壁一面を覆っていた。
暗い空の下、白銀の衣を纏った女性が立っている。
その足元には、黄金色に輝く水面。
そして、暗い空には無数の小さな光が舞っていた。
セラは何かを思い出したような目で、その織物を見つめる。
やがて、小さく呟いた。
「……この人……」




