Episode 19「母の残したもの」
──オソノの工房・夜──
リトの頭から、ハンカチのことが離れなかった。
なぜ母のハンカチに、白銀のローブに使われた布とよく似た紋様が残されていたのか。
リトは久しぶりに巾着袋の中身を机の上へ広げていた。
古いボタン。
使い込まれた糸巻き。
そして小さな鍵。
「そういえば……」
リトは眉をひそめる。
子供の頃、母から言われた言葉を思い出していた。
――これは、お母さんの大切なものだから。リトが持ってて。
当時は意味が分からなかった。
だから今まで、ただのお守りだと思っていた。
しかし今は違う。
白銀のローブ。
母の形見。
そして、古い文字のような銀糸の織り。
それまで何の関係もないと思っていたものが、少しずつ繋がり始めていた。
その時、工房の奥から一人の男が顔を出した。
「母ちゃん、まだ起きて――って、このかわい子ちゃん誰?」
「どれどれ?」
その後ろから、もう一人が顔を覗かせる。
「……ホントだ」
さらに三人目まで姿を現し、セラは思わず目を丸くする。
「え……?」
オソノが呆れたように三人を睨む。
「まったく、バカ息子たちが。邪魔するなら向こう行きな」
「はいはい」
三人はまだセラを気にしながら、工房の奥へ引っ込んでいった。
リトは改めて、グラフたちに鍵を見せた。
「これ、母さんの形見なんだ」
オソノは鍵を見るなり表情を変える。
「その紋様……」
「知ってるの?」
オソノは慎重に鍵を受け取った。
持ち手には、見慣れない紋様が刻まれている。
オソノはその紋様をじっと見つめる。
「……昔、フィルノアの織師たちが使っていた印に似てるね」
「じゃあ、これ何の鍵なんだ?」
「そこまでは分からないよ。ただ、フィルノアの織師たちと何か関わりがあるのかもしれないね」
グラフが驚いたようにオソノを見る。
「……フィルノアの織師なんて、もう伝説みたいなものじゃ……」
「そう言われてるね。昔、フィルノアの森の奥には、織師たちの工房があったって話を聞いたことがある」
リトが鍵を見つめる。
「じゃあ、そこに行けば何か分かるかもしれないってこと?」
「分からないよ。でも、あの銀糸の文字について手掛かりが見つかる可能性はあるね」
セラが口を開く。
「私、そこに行きたい」
その目には、以前のような迷いはなかった。
「伝承の真実を確かめたい」
グラフは腕を組む。
「問題は場所だな」
オソノは小さく頷く。
「フィルノアの森の奥深くにあるって話だけさ。正確な場所までは分からないよ」
セラはその名を確かめるように呟く。
「フィルノア……」
かつて織師たちがいたとされる地。
伝承の手掛かりは、フィルノアの森の奥深くへと続いていた。
オソノが三人を見る。
「もう遅いよ。今日は泊まっていきな」




