↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/61

Episode 18「銀糸に残された記憶」

──オソノの工房──


机の上には、白銀のローブを仕立てた時に残った銀糸の布と、かつて使われた製図が広げられていた。


グラフはルーペを片手に、銀糸の織り目をひとつずつ確認していく。


工房の中には静かな緊張感が漂っていた。


やがて、グラフが思わず声を漏らす。


「……すごい。まるで地図のような……」


オソノが横から布を覗き込む。


「地図じゃないね。何か古い文字のように見える」


「文字?」


「刺繍じゃない。織りそのものに意味があるんだろうね。きっと誰かが意図して残したものだよ」


セラが身を乗り出す。


「何のために……?」


「白銀のローブは、依頼された製図通りに仕立てただけだよ。けれど、こうして見ると妙だね。まるで何かを伝えようとしているみたいだ」


銀糸の紋様は複雑に絡み合い、一見すると装飾にしか見えない。


だが、そこには確かに何か意味が隠されているように見えた。


しばらくして、リトが布の端を持ち上げた。


「これ……」


そこには見覚えのある紋様があった。


「どうした?」


「この紋様……見たことある」


リトは首から下げていた小さな巾着袋を開き、中から古いハンカチを取り出した。


母の形見だった。


少し色褪せているが、端には丁寧な刺繍が施されている。


それを広げた瞬間、セラが息を呑んだ。


「それ……!」


ハンカチの刺繍と、布に織り込まれた紋様。


二つは確かに酷似していた。


「母さんが残してくれたものなんだ」


リトは不思議そうに見つめる。


「なんで母さんのハンカチと同じ紋様が……」


オソノは布とハンカチを並べた。


しばらく眺めたあと、ふと呟く。


「……いや、違うね」


「え?」


「この二つ、重ねてみな」


言われるまま重ねる。


すると紋様の一部がぴたりと重なった。


オソノは指先で輪郭をなぞる。


「見えないかい?」


「何が?」


「……こっちは太陽。それに、こっちは月に見えるね」


リトとセラは、重なった二つの紋様をじっと見つめた。


太陽。


月。


なぜそんな紋様が残されているのか。


その意味までは、まだ分からない。


だが、その言葉を聞いた瞬間だった。


セラの脳裏に、幼い頃の記憶がよみがえる。


祖母の膝の上。


暖炉の火。


優しく語りかける声。


――光と闇が重なりし時。


――言霊にて綴られし願いが、時を超えて世界に縫い付けられる。


――それは誰がための祈りなのか。


「……っ!」


セラは立ち上がった。


「思い出した……!」


リトとオソノが振り返る。


「お祖母様……伝承の続きを話してくれてた……!」


「ホントか?!」


「うん。光と闇が重なりし時……どういう意味なんだろう」


記憶はまだ断片的だった。


忘れていたはずの言葉が、少しずつ輪郭を取り戻していく。


セラは胸元の願石へ目を落とした。


「あの時の私は、ただ怖かった」


俯きながら続ける。


「力が出てほしいって、そればかり考えてた」


泉の前で感じた焦り。


国を救わなければならないという重圧。


失敗への恐怖。


「でも今なら分かる気がする」


セラは顔を上げる。


「伝承には、まだ続きがある」


オソノは小さく頷いた。


「どうやら、本当にそうみたいだね」


窓から差し込む夕日が、銀糸の布を淡く照らしていた。


失われたはずの伝承は、少しずつ再び姿を現し始めていた。


──ナパラ・夕暮れ──


工場の仕事を終えたバンリは、一人で帰り道を歩いていた。


空は赤く染まり、遠くで子供たちの笑い声が聞こえる。


いつもと変わらない景色だった。


それなのに、どこか落ち着かなかった。


ふと足を止める。


「あいつら、今頃どうしてるんだろうな……」


リト。


セラ。


グラフ。


今ごろオソノの工房で何かを掴もうとしているかもしれない。


バンリは小さく息を吐いた。


「……まぁ、俺には関係ないか」


そう呟いて歩き出す。


だが、その足取りはどこか重かった。


夕焼けの中、バンリの影だけが長く伸びていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。