Episode 15「王女の涙」
──タリア公国・離宮 応接室──
セラは白銀のローブを纏わされ、鏡の前に立っていた。
無言のまま、継母が睨むようにセラを見ている。
「……まさか、あなたがまたここに帰ってくるとはね」
セラは何も答えない。
「……」
「何のためにリズマールへ行ったのか、あなた自身が分かってるわよね?」
そこへ現れたセディルが、言葉を継ぐ。
「黄金色の水面というのはどこにある?タリアのどこかにあるんじゃないのか?」
継母が答える。
「ええ。タリアには、王家に代々伝わる泉があります。正式な名は“願いの泉”」
「願いの泉……?」
セラが驚いたように継母を見る。
「白銀のローブを纏い、願石を持つタリアの王女がその泉に立てば、願石に託した願いが叶う――そう伝えられているわ」
セディルの目が鋭くなる。
「場所はどこだ?」
「正確な場所までは分かりません。ただ、フィルノアの森の奥にあると伝えられています」
セディルは兵士に向き直る。
「森を捜せ。泉らしきものを見つけたら、すぐに知らせろ」
そして窓の外へ目を向ける。
「今日はもう遅い。しばらくここで休ませてもらうとしよう」
──数日後・タリア公国──
「遅い!まだ見つからないのか!?」
苛立つセディルのもとへ、一人の兵士が駆け込んでくる。
「セディル様!フィルノアの森の奥で、それらしき泉が見つかりました!」
セディルが立ち上がる。
「よし。すぐに案内しろ」
継母はセラへ視線を向ける。
「セラが“本物の王女”ならば、力を示せるはずよ」
「……そんな!」
──フィルノアの森・願いの泉──
森の奥にひっそりと佇む泉。
太陽に照らされた水面が、黄金色に輝いていた。
セラは白銀のローブを纏ったまま泉の前に立ち、願石を両手で掲げる。
「……セディル・リズマールに、国を導く力を与えてください」
そう口にしたあと、セラは願石を強く握る。
「……どうか、タリアを……みんなを守って」
それは、誰にも聞こえないほど小さな声だった。
……しかし、何も起きない。
セディルが冷めた目で泉を見る。
「……やはり、ただの茶番か」
継母が動揺した声を上げる。
「なぜ……!どうして、何も起きないの……!」
「もういい。タリアは我がリズマールの支配下に置く。兵を呼べ」
「ま、待ってください!この子は――」
継母がセラへ向き直り、声を荒げる。
「なぜよ、セラ!あなたが力を出せば、この国も、王も、弟も守れたのに!!」
セラも堪えていた感情をぶつける。
「そんなこと言われても、私だって分からない!そんな力があるなんて思えないもの!」
セラの目に涙が滲む。
「私は……何のために生まれてきたの?」
その言葉を残し、セラはその場から駆け出した。
──タリア城・謁見の間──
夜。
ようやく姿を見せたタリア王。
戦争を望まないその姿は、老いと後悔に満ちていた。
(娘よ……お前に、自由を与えられなかった)
(リズマールの脅しに屈して、辛い思いをお前に強いてしまった――)
セディルの軍が街を包囲する中、王は何も告げず、ただ目を閉じていた。
──タリア王城・裏庭──
月の光が、静かに裏庭を照らしている。
セラはひとり、フードを被り、そっと馬に跨がった。
「……もう無理。ここには、もういたくない」
一陣の風とともに、セラは夜の闇へと駆け出した。
──数日後・ナパラ貧民街──
夜。
扉をノックする音が響く。
リトが扉を開けると、そこにはフードを被ったセラが立っていた。
「え?!セラ?!」
長い道のりを一人で走ってきたのだろう。
セラの髪は乱れ、顔には疲れが滲んでいた。
「もう、帰る場所がないの……」
そう言うと、張りつめていたものが切れたように涙を溢れさせ、リトの胸に顔を埋めた。




