Episode 14「日常と余白」
──ナパラ・縫製工場の裏路地──
乾いた風が吹き抜ける、朝焼けの通り。
久しぶりに帰ってきた町の匂いが、懐かしさよりも重く感じる。
バンリが辺りを見回す。
「着いたぞ。なんだか……何も変わってないな」
「……うん」
二人の後ろで、グラフが縫製工場を見上げる。
「行こうか」
三人はそのまま工場へと向かった。
──タゴスの縫製工場──
タゴスが布を縫っている。
そこに、リトとバンリ、そしてグラフが姿を現す。
二人に気づいたタゴスが、作業の手を止めて顔を上げる。
「……おぅ!生きて帰ったか」
バンリが少し笑う。
「ただいま、親方」
リトも小さく頷く。
その後ろに立つグラフが、タゴスを見つめる。
「……タゴス」
タゴスもグラフに視線を向ける。
「久しぶりだな、グラフ」
「ああ。久しぶりだ」
しばらく二人は黙って顔を見合わせる。
やがてタゴスが、リトとバンリに目をやった。
「世話になったな」
「無事に送り届けられてよかったよ」
グラフは二人に小さな袋を差し出す。
「とりあえず、ここまでが私の役目だ。中には謝礼が入っている。それと、何かあったらタゴスから私に連絡をくれ」
「……助かったよ」
グラフは帽子を軽く持ち上げ、微笑む。
「じゃあ、私はこれで」
タゴスが短く頷く。
「ああ。またな」
グラフはその場を後にした。
タゴスは改めて二人を見る。
「……で、どうだった?」
バンリが苦笑する。
「ちょっと面倒なことになってた」
「そうか。詳しい話は後でいい。顔を上げろ。今日からまた忙しくなるぞ」
タゴスは何事もなかったように作業へ戻る。
「仕事は忘れてないよな?お前ら今日は四着な!」
バンリが肩をすくめて笑う。
「はは……分かったよ」
リトは無言で頷き、作業台に向かった。
──数日後・ナパラの朝──
ミシンの音が響くなか、リトは作業の手を止め、ぼんやりと窓の外を見上げる。
その様子に気づいたバンリが声をかける。
「どうした?」
「……なんでもない。ただ……」
「まだ気にしてんのか?」
リトは少し間を置いて答える。
「俺は……誰かを守れるくらい、強くなれるのかなって思ってさ。今回、自分が何もできなかったのが……なんか悔しくて」
「……俺は、戻ってきたことを後悔はしてない。俺たちには、自分たちでブランドを立ち上げるって目標があるじゃないか!」
「そうだけど……まだ気持ちが、あそこから進んでないんだと思う」
「セラのことは忘れろ。セディルが王になろうが、俺たちの生活には関係ない。俺たちは俺たちで、自分たちの未来を切り開いていくしかないんだ」




