Episode 13「再会と逃走」
──王宮・牢獄前──
朝靄の中、セディルとセラを乗せた先頭の馬車が、ゆっくりと動き出す。
その後方では、護衛に囲まれながら、リトが別の馬車へ乗せられようとしていた。
その時、そばにいた看守が小声で囁く。
「……今だ。走れ、少年」
「……え?」
リトが戸惑った、その瞬間。
角の影から、バンリが飛び出してくる。
「リト!!走れ!」
「バンリ……っ!」
反射的に、リトは駆け出した。
リトを逃がした看守は、追おうとする兵士たちの視線を逸らすように身を翻し、わざと足をもつれさせる。
「逃げたぞ!捕まえろ!」
リトとバンリは迷うことなく、裏路地へと駆け込んだ。
貧民街へ続く道は細く入り組み、街を知り尽くした者でなければ、すぐに迷ってしまう。
交差点へ差しかかるたび、ヴァル布連の仲間たちが姿を現した。
積まれた木箱を倒し、荷馬車を路地へ滑り込ませ、追ってくる兵士たちの進路を次々と塞いでいく。
別の角から、グラフが走って合流した。
「こっちだ!もう少しで地下の拠点に着く!」
三人はそのまま、貧民街の奥へと駆け抜けた。
──貧民街・地下室──
荒い息を吐きながら、三人は地下室へ飛び込む。
グラフが扉を閉めると、バンリが壁に手をつきながら息を整えた。
「……はぁ、はぁ……間に合ったな」
リトはグラフとバンリを交互に見る。
「なんで……どうして助けに?」
グラフが答える。
「イーランの件はすまなかった。あいつが情報を売ったせいで、君たちは捕まったんだ。バンリが戻ってきて、そこで初めて分かった」
「そうだったんだ……」
リトはバンリを見る。
「でも、なんでバンリは釈放されたんだ?」
バンリは一瞬、言葉を詰まらせる。
「それは……伝承のことを話したんだ」
「……え?」
「俺だけ釈放してもらうために、取引した」
リトの表情が変わる。
「お前!?そんなことを……」
「仕方なかったんだよ!あのままじゃ、俺たち二人ともどうなるか分からなかっただろ!」
リトは拳を握りしめる。
「じゃあ……セディルたちは、その話を知って……」
「なぁ、もういいだろ?」
バンリが遮るように言う。
「俺たちはもう関係ない。グラフさんたちがナパラまで送ってくれる」
「ナパラまで戻れば、リズマールだってそう簡単には手を出せない。親方に話して、また普通の日常に戻ろう」
「そんな……セラはそれで大丈夫なのか?」
「それはもう、俺たちには手が負えない話だ」
バンリはリトをまっすぐ見る。
「お前だって、もう牢獄には入りたくないだろ?」
リトは何も答えなかった。
グラフが諭すように話す。
「バンリの言う通りだ。今の君たちが追いかけても、セラフィーヌを助けられる保証はない。それどころか、また捕まる可能性の方が高い」
リトは俯いたまま、しばらく黙っていた。
「……分かった」
──タリアへ向かう馬車の中──
走り出した馬車の横へ、側近が馬を寄せる。
「セディル様。後方の馬車に乗せる予定だった少年が、逃亡した模様です」
セディルはわずかに目を細める。
だが、すぐに興味を失ったように背もたれへ身を預けた。
「……捨てておけ。どうせ取るに足らない小石だ」
そして、窓の外へ視線を向ける。
「それよりも、タリアへ急げ」
向かいに座るセラは、何も言わなかった。
ただ窓の外を見つめながら、胸の奥に広がる不安を押し込めるように、静かに唇を噛んでいた。




