閑話 傭兵隊、双子の父親を狙う組織がいたので壊滅させた(後)
クルエラは、リベリオが狙われるようになってから、コテージに滞在していたアルテミス王国の王室騎兵のもとへ直接話を聞きに行った。
しばらくして話を終えると、クルエラはパリスと合流した。
パリスは尋ねた。
「総隊長、王室騎兵とは、どのような話を?」
「どのようなルートでここまで来たか、どのような対策をしていたか、といった内容だ」
クルエラは歩きながら答えた。
「はっきり言って、偽装はしていたようだが、外交官を執拗に狙うような連中なら、すぐにこの場所も特定されるだろう」
「……リベリオさんを避難させますか?」
しかし、クルエラは首を横に振った。
「逆だ。彼に囮になってもらう」
パリスの表情が変わる。
「もしかして……」
「そうだ。リベリオさんを襲う者たちを、この地で一網打尽にする。
そして、目的を聞き出す。場合によっては、その組織を潰す」
パリスは納得したように頷いた。
「そういうことですか。……やっぱり不穏な感じはしましたが」
クルエラは小さく笑った。
「レヴェの部隊を連れてきて正解だ。機動力は随一だからな」
敵の規模を考えながら、パリスは呟く。
「……長期戦ですかね」
「いや、そうでもない」
クルエラはそう答えると、楽しそうに口元を緩めた。
「早ければ、今日中に終わる」
☆ ☆
その日の夜。
ラインハルトのコテージは、昼間とは打って変わって、しんと静まり返っていた。
窓の外から聞こえるのは、湖の水音と木々が風に揺れる音だけだった。
その静寂の中に、かすかな物音が混じる。
リベリオはベッドで眠っていた。
そのすぐ近くでは、クルエラが椅子にもたれながら、窓の外をじっと見つめている。
やがて、クルエラの口元がわずかに上がった。
「……出たな」
クルエラは立ち上がることなく、窓の外を見たまま呟いた。
「パリス、外の状況は?」
部屋の隅にいたパリスが、静かに答える。
「ブラッド副隊長が対処しているので大丈夫です。
最終防衛ラインの鈴の音が聞こえるまで……寝ましょう」
「そうだな。私も眠い……」
クルエラは小さくあくびをすると、再び椅子へ深く腰を下ろした。
襲撃者が迫っているというのに、二人はまるで夜番の休憩でもしているようだった。
そして、リベリオは何も知らないまま、静かに眠り続けていた。
☆ ☆
その頃、森の中ではアテナ傭兵隊の隊員たちが、黒ずくめの男たちと交戦していた。
木々の間から次々と刺客が現れ、隊員たちは応戦する。
しかし、予想以上の人数に一瞬ひるんだ隊員へ、男の一人が襲いかかった。
その瞬間、横からレヴェが素早く踏み込み、刀を振るった。
男は地面へ倒れ込んだ。
「部隊長、ありがとうございます……」
「人数が多いな」
レヴェは周囲を見回すと、落ち着いた声で指示を出した。
「お前はコテージのほうにいる班と合流しろ」
「は、はい!」
隊員は頷いたが、すぐに振り返る。
「レヴェ部隊長は、どちらへ?」
「……戦うだけだ」
レヴェは刀を構え直した。
「オレは、それしかできないからな」
隊員が思わず呟いた。
「かっこいい……」
レヴェは一瞬だけ隊員を見ると、静かに言った。
「死ぬなよ」
「……部隊長」
隊員は感動したように目を輝かせた。
そこへブラッドがやって来た。
「見てましたよ、部隊長。ナチュラルにかっこいいこと言いますね」
「……本当のことだが」
ブラッドは苦笑をした。
「アナタらしいですね」
「それより、リベリオさんを狙っていた組織がいたのか?」
「ええ。少し脅したら、すぐに吐きましたよ」
「吐いたのか……」
「どうやら、リベリオさんは俺たちが思う以上に利用価値がある人間だったようです」
ブラッドは淡々と説明する。
「殺すつもりはなく、犯罪に利用したかったそうです」
「それなら、なおさらしっかりと叩き潰さないといけないな」
レヴェは刀を握り直した。
「ええ。俺たちで犯罪組織を潰してしまいましょう」
「そうだな、ブラッド」
二人は頷き合う。
そして再び、森の奥から男たちが姿を現した。
「来ましたね」
「ああ」
レヴェは刀を構え、ブラッドも身構える。
今夜の仕事は、まだ終わりそうになかった。
☆ ☆
翌朝。
ラインハルトのコテージには、朝の穏やかな空気が戻っていた。
リベリオが部屋から出ると、クルエラが待っていた。
「おはようございます、リベリオさん」
「おはようございます……」
リベリオは挨拶を返すと、クルエラの顔を見て首を傾げた。
「総隊長、ずいぶんとご機嫌ですね」
「ええ」
クルエラは嬉しそうに笑い、近くに控えていたレヴェへ視線を移した。
「先ほど、レヴェから報告がありまして。貴方を狙う者を、すべて捕縛しました。
このあと、その身柄を王室騎兵に引き渡そうと思います」
「僕、ここで総隊長さんとお話しして、ぐっすり寝ただけで解決?」
リベリオは少し驚いたように尋ねる。
「ええ。私の部下は優秀なので」
クルエラは当然のことのように答えた。
リベリオはレヴェへ近づいてお礼を言った。
「レヴェさん、ありがとうございます」
「いえ、オレは任務なので当然のことをしたまでです」
「総隊長さんから聞きましたよ。レヴェさんは東国の文化に興味があるそうですね」
「はい」
「それなら、今度マルバンの港町で東国の品々が売られる市があります。貴方が持っている刀とよく似たものも出るそうですよ」
「本当ですか?」
「ええ、興味があるようでしたら行ってみるといいですよ」
「カインのお父さん、本当にありがとうございます。行きます」
「いえいえ」
レヴェは嬉しそうに頬をわずかに緩めて、その場を離れていった。
クルエラは、レヴェにまで心を開かせるとは大した方だと思いながらも、とあることを提案した。
「王都にお戻りの際も、同行いたしましょうか?」
「いえ、結構ですよ」
リベリオは首を横に振る。
「貴方は仕事に手を抜くタイプではありません。それに……」
リベリオは少しだけ笑った。
「本当に僕を狙う者を、根絶やしにしたんですね」
「フフッ」
クルエラは満足そうに笑った。
「今度、どこかでお会いできる機会がありましたら、僕からお礼をさせてください」
「いいんですよ。私は傭兵なので」
クルエラはそう言って、リベリオへ手を差し出した。
「また、お会いしましょう。リベリオさん」
「ええ。またお会いしましょう、総隊長さん」
二人は固く握手を交わした。
こうして、リベリオを狙った襲撃は、本人がほとんど何も知らないまま終わった。




