59話 遺跡探索
本日の双子への依頼は、お墓参り代行だった。
依頼者の先祖が眠る墓は、王都から離れた西の土地にある。長年、手入れをする者がいなかったらしく、墓の周辺には雑草が生い茂っているとのことだった。
双子は墓掃除に必要な道具を一通り用意して、現地へ向かった。
丘の上にある墓地へ到着すると、さっそく作業を始める。
墓石を水で丁寧に洗い、こびりついた汚れをたわしで落とす。周囲に生えていた雑草もシャベルで抜き、最後にほうきで周辺を掃き清めた。
すっかり綺麗になった墓の前で、二人は両手を合わせる。
「……よし、今回の依頼は達成だな」
「ええ。それでは帰る準備をしますよ」
バルドルが使った道具をまとめ始める。
カインも手伝おうとしたが、その途中でふと足を止めた。
墓地のある丘の下、少し離れた木々の間に、何か違和感があった。
「……」
カインは目を細め、その場所をじっと見つめた。
「……どうした、カイン」
バルドルが振り返る。
「あれ、見てください」
カインが指を向けた先には、木々に隠れるようにして、地面が不自然に盛り上がっている場所があった。
自然にできたものにも見えるが、よく見ると土の一部が崩れ、奥に暗い空間が覗いていた。
「なんか……あるな」
「ええ。少し気になりますね」
カインは荷物をまとめ終えたバルドルに声をかけた。
「バルドル、ロープを使って下へ降りてください」
「……墓荒らしにならねぇよな」
「あそこは墓場の敷地ではありませんので大丈夫ですよ。多分」
「多分って言ったよな?」
バルドルは穴の先を覗き込む。
中は暗く、どこまで続いているのか分からない。
「……まあ、俺たちしかいねぇからいくか」
バルドルはため息をつきながらロープを手に取った。
「気をつけてくださいね」
「それ、もっと早く言えよ」
こうして、墓参り代行を終えた双子は、帰るはずだった場所で見つけた謎の穴へと足を踏み入れることになった。
☆ ☆
バルドルとカインは、薄暗い穴の中を進んでいった。
足元はところどころ凹凸があり、歩くたびに靴音が洞窟の中へ響いていく。
しばらく進むと、二人は突然、広い空間へと出た。
「……ここは広いな」
バルドルが周囲を見回す。
天井も高く、壁には見慣れない文字がいくつも刻まれていた。
バルドルは壁に近づき、刻まれた文字を眺める。
「……これ、読めるか?」
文字は規則正しく並んでいるものの、バルドルには何が書かれているのかさっぱり分からない。
カインは壁に近づき、刻まれた文字をしばらく眺めた。
「……バルドル、あちらに立ってください」
「ああ、わかった」
言われた通り、バルドルが壁の前に立った。
すると、バルドルの影が壁に刻まれた一部分と重なった。
「影でシルエットを浮かび上がらせないと扉が開かない仕組みですね。凝ってますね」
カインが壁の奥にある扉を指差した。
先ほどまで何の変化もなかった扉の一部が、ゆっくりと動き始めていた。
「……いきなり矢とか降ってこねぇよな」
バルドルが周囲を警戒する。
「さあ?」
「怖い……」
「大丈夫ですよ。迂闊にベタベタ触らなければいいことです。ですから、慎重に行動を」
「……お前が言うと、なんか信用できねぇんだよな」
バルドルはそう言いながらも、開き始めた扉を警戒しながら眺めていた。
さらに奥へ進んでいくと、次第に道幅が狭くなっていった。
二人が並んで歩くことも難しくなり、一人ずつ進まなければならないほどだった。
しばらく進んだところで、カインが足を止める。
目の前には、大きな穴が口を開けていた。
向こう岸までは五メートルほど。飛び越えるには距離がありすぎる。
「バルドル、あの距離はさすがに……」
カインが穴の向こうを見ながら呟く。
しかし、バルドルは周囲を見回していた。
すると、大きな穴の上には、一本の太い枝が伸びていた。
枝はちょうど穴の中央付近にあり、ロープを引っかけるには十分な長さがある。
「……」
バルドルは枝を見上げた。
――あそこにロープをくくりつければ行ける。
バルドルは持っていたロープを取り出すと、先端に重りをつけた。
そして、枝へ向かって勢いよく投げる。
重りのついたロープは枝の周りを一周し、そのまま絡みついた。
バルドルはロープを何度かクイクイと引っ張り、しっかり固定されていることを確認する。
「よし」
そして、勢いをつけてロープにぶら下がった。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バルドルは大きな穴の上を一気に渡っていく。
向こう岸へ到達すると、そのまま綺麗に着地した。
カインはその様子を眺めながら、楽しげに笑った。
「危ないことをやりますね」
「こういうサバイバル知識も学んで損はねぇんだよな」
「そうですか。まあ、無茶はしないでくださいね」
カインはそう言って、バルドルが渡ってきた穴を眺めた。
すると、壁の一部に小さなくぼみがあることに気づく。
「……おや?」
カインが近づいて調べてみると、壁の一部が動いた。
その奥には、人一人が通れそうな細い通路が続いている。
「ここに通り道が隠れていましたね」
「……」
バルドルはしばらくその通路を見つめた。
「……チッ、もっと目立つところに置けよ!」
「そういうものではないと思いますよ」
カインは笑いながら、隠し通路へと入っていった。
隠し通路を進んだ先には、先ほどまでよりも小さな部屋があった。
部屋の中央には台座があり、その上に小さな器のようなものが置かれている。
薄暗い室内の中でも、それだけは妙に存在感を放っていた。
バルドルが近づき、首を傾げる。
「なんだこれ」
カインも台座へ近づき、器をじっくりと眺める。
「あれじゃないですか。聖杯とか」
「聖杯??」
「本物とは思えませんけど、記念です。持ち帰りましょう」
あまりにもあっさりと言うカインに、バルドルは思わず器とカインを交互に見る。
「俺たち墓荒らしにならねぇか!?」
「知らない場所で、たまたま入った穴の中に国の宝っぽいものを見つけただけです。
このまま国に報告しなければ問題になりますが、私が報告するので大丈夫です」
「……そうかよ」
バルドルは納得したようなしないような顔をしながら、台座の前に立った。
カインは器を指差す。
「バルドル、持ち上げたときにすぐに避けてください」
「は?」
バルドルが器を持ち上げた瞬間――。
カチッ。
小さな音が部屋に響いた。
次の瞬間、壁の四方から一斉に矢が飛び出した。
「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!!」
バルドルは咄嗟に身を翻し、飛んできた矢を次々と避ける。
矢は壁に突き刺さり、部屋の中に乾いた音が響いた。
やがて矢が止まると、バルドルは肩で息をしながらカインを睨みつけた。
「……なんなんだよ、これ!」
「弓の先端がこの器の方へすべて向いていました。まあ、避けられたので良かったです」
「俺じゃなかったら、ここで死ぬぞ……」
「ですから、すぐに避けてくださいと言ったじゃないですか」
「そういう問題じゃねぇぇぇ!」
遺跡の静かな空間に、バルドルの叫び声が響き渡った。
☆ ☆
後日、グランフェルト邸の居間。
バルドルはソファに座り、遠い目をしていた。
「……もう危ないところ行きたくない」
あの遺跡で飛んできた大量の矢を思い出したのか、バルドルは深いため息をつく。
そんなバルドルとは対照的に、カインは楽しそうな顔をしていた。
「楽しかったじゃないですか。一緒に探索しましょうよ」
「お前がちゃんとトラップ教えてくれなきゃいけねぇから!!」
「ちゃんと教えましたよ」
「持ち上げる直前に言っただろうが!」
バルドルが声を荒らげる。
カインはそんなバルドルを見ながら、ふと思い出したように口を開いた。
「そうそう。見つけた聖杯は、今度、美術館で展示されるそうです」
「………え」
バルドルの動きが止まった。
「どうやら、かなり価値のあるものだったようです。良かったですね」
「……俺、あれ持って帰ろうとしてたんだよな」
「ええ」
バルドルはしばらく黙ったあと、頭を抱えた。
「……やっぱり、もう遺跡はいい」
「また行きましょうよ。このまま国宝を見つけましょう」
「絶対に嫌だ!!」
グランフェルト邸に、バルドルの叫び声が響いた。




