閑話 傭兵隊、双子の父親を狙う組織がいたので壊滅させた(前)
アテナ傭兵隊本部。
パリスはクルエラの執務室に入り、一通の手紙を持ってきた。
「クルエラ総隊長、アルテミス王国の王室騎兵からお手紙が届きました」
「王室騎兵? ……中身を見せろ」
パリスから手紙を受け取ると、クルエラは封を切った。
手紙を取り出して、書かれた内容に目を通していった。
やがて、クルエラの口元に笑みを浮かべた。
「パリス、これはやるしかないぞ」
いつになく楽しそうなクルエラに、パリスは首を傾げた。
「え、なんですか、なんですか?」
「外交官の護衛だ。しかも大物だ」
「私でも知っている方でしょうか?」
「ああ、リベリオ・グランフェルトだ」
パリスは思わず声を上げた。
「え!?」
グランフェルトという名前だけで、パリスはハンディマンの双子の顔を思い出した。
「有能な外交官と聞いていたが、護衛対象になるほどとは。実に愉快だ」
「これ、どこがやります」
「そうだな。こういうのは第二部隊だろう」
「承知しました。すぐに返事を書いて、派遣します」
パリスが手紙を受け取ろうと手を伸ばした。
しかし、その前にクルエラが口を開いた。
「私も行く」
あまりにも当然のように言われて、パリスは一瞬、聞き間違いかと思った。
「は!? 総隊長案件ではありませんよ」
「双子の父親がどんな人物か知りたくないか」
「そりゃ知りたいですし、双子さんにはお世話になっているので、お守りしたいです」
「外交官を狙う奴らか。命知らずな奴らだな。それとも、個人的な恨みか。こういうのは直接、本人にうかがうべきだ」
クルエラは楽しそうに言いながらも、すでに同行するつもりでいた。
パリスは小さく息を吐いた。
「そうなりますと、総隊長代行は……」
「パリスも同行しろ。総隊長代行はダリオに任せる」
パリスは諦めたように返事をした。
「わ、分かりました。私からダリオ部隊長へお伝えしておきます……」
クルエラはそんなパリスを見て、楽しそうに笑った。
「ふふっ」
☆ ☆
リベリオはその頃、アルテミス王国の休養地であるラインハルトを訪れていた。
クルエラたちはラインハルトに到着した。さっそく、リベリオがいるコテージを訪ねて、挨拶した。
「初めまして、リベリオさん。私がクルエラ・マゼラーティと申します。こちらは副官のパリスです。後ろにいるのはレヴェとブラッドです」
クルエラが名乗ると、アテナの幹部も控えめにお辞儀をした。
リベリオは穏やかな笑みを浮かべて頭を下げた。
「こちらこそ、初めまして。今回は護衛の依頼を受けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ。ところで、いくつかうかがいたいのですが」
クルエラは早速、本題へ入った。
「少し長くなるかもしれませんので、こちらへお座りください」
リベリオはクルエラをソファーに座るように促した。
クルエラは失礼しますと言ってソファーへ座った。
「狙われる理由に心当たりは?」
「正直……僕が命を狙われる可能性も、さらわれる可能性も、どっちもあるんですよ」
「外交官だから大変ですね」
「あはは、やたら僕を誘惑してくる見知らぬ女性や、国の馬車だと装って僕を誘拐するやつもいて、業務に支障が出ているんですよ」
あまりにも淡々と語るリベリオに、パリスは思わず目を瞬かせた。
外交官という仕事は、どうやら想像以上に危険らしい。
「それで、この土地に?」
「はい、ここは休養地としてもいいところです。今の時期なら人が少なくて、護衛しやすいでしょう」
「なるほど……」
クルエラは頷くと、リベリオをじっと見つめた。
「やはり息子さんは、貴方に似ていますね」
「おや、僕の息子をご存じで?」
「はい、とても仲睦まじく交流させていただいております」
リベリオは嬉しそうに笑った。
「本当ですか! 嬉しいな。総隊長さんで息子の話ができるなんて」
パリスは二人の会話を聞きながら、嫌な予感がした。
「(……この流れ、まずくないか)」
「カインとバルドル、どちらに会われましたか?」
「ええ、とても元気な方々でしたよ。ご自宅にも行かせていただきました」
「それは凄いですね! いきなり僕が訪れたら、カインなんて『帰ってください』って言うんですよ。あなたは相当信頼されてますね」
「フフッ、そうでしょうか」
パリスは思わずクルエラを見た。
「(嘘だ。絶対されてない……)」
「パリス、お前も会話に混ざれ」
突然話を振られ、パリスは慌てて頷いた。
「は、はい……」
「私の副官は、バルドルさんととても仲がいいんですよ」
リベリオはまた嬉しそうに笑った。
「そうですか。嬉しいです」
「バルドルさんは、初めて会ったときから妙に親近感がありました。きっと、リベリオさん譲りなんだと思いますよ」
リベリオは少し照れたように笑った。
「本当ですか、ありがとうございます。
僕はむしろ、警戒心が強いので無口なほうなのです。そう言っていただけると嬉しいですよ」
パリスが思わず突っ込んだ。
「どこが無口ですか。めちゃくちゃベラベラ喋ってますよ」
リベリオは不思議そうに首を傾げた。
「そうですか?」
「そうですよ」
そんな二人を見て、クルエラは楽しそうに笑っていた。
「リベリオさん」
「はい?」
「犯人をどうしますか。処したいですか? それとも、もう狙われたくなくなりたいですか?」
クルエラの問いに、リベリオは少し考えた。
「狙われなければいいですよ。仕事がしたいので」
あっさりとした答えだった。
クルエラはその言葉を聞いて、口元に笑みを浮かべた。
☆ ☆
レヴェは、先ほどからじっと窓から外の景色を眺めていた。
湖畔の奥には、滝が流れていた。水が岩肌を伝って落ちていく音が、ここまでかすかに聞こえていた。
レヴェにとってはかなり気に入る場所だった。
「レヴェ部隊長、そんなに滝が気になりますか」
ブラッドが声をかけると、レヴェは窓の外を眺めたまま答えた。
「以前、カインにこの土地のことを教えてもらったんだ。確かに綺麗な場所だ……。素晴らしい」
普段より明らかに機嫌のいい上司を見て、ブラッドは小さく呟いた。
「いつになく元気だ……」
レヴェはそんなことなど気にせず、振り返る。
「ブラッド、滝の近くでテントを張って、一緒に水の音を楽しもう」
「オレまで巻き込まないでください」
「安心しろ。寝袋はあるぞ」
ブラッドが即座に突っ込む。
「そこじゃありませんから!!」
しかし、レヴェは気にする様子もなく、さらに続けた。
「お前が好きなジャガイモも持ってきた。あとでふかして食べよう」
ブラッドは少しだけ考えたあと、あっさり折れた。
「はい……食べます」
リベリオは、少し離れた場所にいるレヴェとブラッドへ視線を向けた。
「幹部の方も、人が良さそうですね。それにお強い」
「ええ、若いですが、護衛として申し分のない強い男ですよ」
「それは頼もしいですね。それにお二人が装備している刀、あれは東国のものですね。素敵なものをお持ちだ」
リベリオは二人の腰にある刀に気づき、興味深そうに眺めた。
「レヴェ部隊長が東国文化に興味があって、私が二人に贈った品ものです。毎日あのように装備してくれているのは嬉しいことです」
「見る目がありますね、総隊長さん」
クルエラは軽く手を振って笑った。
「いえいえ」
パリスはリベリオへ質問した。
「リベリオさん、双子さんにはこのことを伝えていますか?」
リベリオは首を振った。
「言ってません。多分伝えたら、「許さん」「絶対に捕まえてやる」と心配をかけてしまうので黙っています。
……それに、二人が対処していい相手とは思えません」
「組織的な誘拐だと、リベリオさんはお考えですね」
クルエラがそう尋ねると、リベリオは淡々と言った。
「私を殺したければいくらでもチャンスはありました。だから、私を上手く利用したい連中だと思います」
「リベリオさん、早期解決のために狙う理由を、本人たちに聞いてみてもいいですか?」
リベリオはクルエラの言葉を聞き、何かを察したように頷いた。
「……なるほど。そういうことですか」
「フフッ」
パリスはイマイチ理解していなかった。
「(………何を言ってるんだ)」
クルエラは、ものは試しと尋ねてみた。
「ところで、リベリオさんのご趣味はなんですか? 足ですか?」
リベリオが首を傾げた。
「足?」
その瞬間、パリスは固まり額に冷や汗が浮かんだ。
「(やめて。ここで、そんな………)」
しかし、クルエラは気にする様子もなかった。
リベリオはしばらく考え込んだあと、正直に答えた。
「僕は読書ですよ。さまざまな国の文化や言語を学ぶのが好きなので」
「そうですか」
クルエラは何事もなかったかのように頷いた。
パリスは小さく息を吐いた。




