48話 金山詐欺(後)
サニーから報告を受けた社長のロイドは、ザンデークについて詳しく調べさせた。
若くして莫大な資産を持ち、さまざまな事業に投資しているという噂は、どうやら本当らしい。
これほどの資産家なら、金山を一つ買うどころか、複数の鉱山をまとめて買うことも十分にあり得た。
ロイドはしばらく考えたあと、部下に指示を出した。
「ザンデークを一週間見張れ。金払いがいい人間かを見極める」
「かしこまりました」
部下は頭を下げると、さっそくザンデークの身辺を探るために動き始めた。
それから数日間、ザンデークの行動は密かに監視されることになった。
しかし、その様子を見ていたロイドたちは、次第に驚きを隠せなくなっていく。
ザンデークは噂どおり、かなり羽振りのいい生活を送っていた。
そして、ある日のこと。
「ザンデーク主催のパーティーがある。数人で潜入して、来客を見てこい」
「かしこまりました」
社長の指示を受け、数人の社員がザンデークのパーティーへ向かった。
会場には多くの客が集まっており、皆がザンデークと親しげに言葉を交わしている。
「やはり顔が広いな。公爵令嬢、企業家、投資家まで業界人が揃っている」
遠巻きに様子を見ていた社員たちは、周囲の客を確認しながら小声で話し合った。
噂だけではなく、実際にこれだけの人脈を持っているとなれば、ザンデークが相当な資産家であることは間違いない。
その頃、会場の中央では、ザンデークの執事を務めるカインが満面の笑みを浮かべていた。
「旦那様、皆が貴方の余興を楽しみにしております」
「わ、わかった」
バルドルは小さく返事をすると、観客の前へ進み出た。
そして、得意の歌声を披露する。
会場には美しい歌声が響き渡り、客たちは次第に聞き入っていった。
歌い終えると、大きな拍手が巻き起こる。
「惚れ惚れする歌声ですわ」
「ありがとうよ」
パーティーが終わると、バルドルは客の姿がなくなったソファーに腰を下ろした。
さっきまでの堂々とした資産家の姿はどこへやら、背もたれに体を預け、すっかりけだるそうな表情を浮かべている。
「マジで疲れた……。なんで俺のパーティーであんなに人が集まったんだ?」
「女将さんと陛下が、歌の上手いイケメン資産家のパーティーがあるから行ってみてって宣伝したからですよ」
「……すげぇな。豪華なパーティーをやるのも大変なんだな」
ガットもバルドルの様子を見ながら、しみじみと呟いた。
しかし、カインは手元の予定表を確認すると、淡々と告げる。
「明日は国内のカジノで散財して、慈善団体の代表者に会ってもらいます。当分は夜会、交流会と盛りだくさんです」
「資産家……って疲れるんだな」
バルドルは遠い目をしながら呟いた。
自分たちは詐欺師をおびき出すために資産家を演じているだけなのだが、ここ数日は本物の資産家よりも忙しい生活を送っている気がする。
「まあ、じきに成果が出ますよ」
カインはいつもの笑顔で言った。
「分かったよ……」
バルドルは力なく返事をすると、再びソファーに深く沈み込んだ。
☆ ☆
部下からザンデークの行動について報告を受けたロイドは、金山の売買を決めた。
身元については少々不安の残る部分もあったが、国内での豪快な金遣いを見る限り、金を持っていることは間違いない。
これなら多少高値を吹っかけても、問題なく買ってくれるだろう。
ロイドはザンデークを、自分の会社名義で所有している屋敷へ呼び出した。
応接間にはロイドが先に待っており、やがてザンデークが執事を伴って姿を現した。
ザンデークは周囲を軽く見回すと、何事もなかったようにロイドの向かいへ腰を下ろす。
「ザンデーク様、はじめまして。私が社長のロイドです」
「わざわざ同席してくれて悪いな」
「いえいえ。ザンデーク様とはよいお取引ができるとなれば、私の仕事など大したことではありません」
ロイドは愛想のいい笑みを浮かべながら、目の前の客を観察していた。
これだけ金を使う男なら、きっと金山にも惜しみなく金を出す。
そう考えていたロイドに、ザンデークが口を開いた。
「そうか。でもな、社長。あんたに言いたいことがあるんだ」
「なんでしょうか」
「今日であんたは店じまいだ」
もうザンデークを演じる必要はなくなり、バルドルはわざとらしくテーブルに足を乗せた。
突然の言葉に、ロイドの笑顔が固まる。
「それはどういうことですか」
カインは表情を変えずに答えた。
「あなた方が多くの貴族連中から金を巻き上げているのは知っています。大人しく捕まってください」
「なんのことですか」
ロイドはとぼけた顔をしてみせた。
「しらばっくれるな!」
バルドルが声を荒らげると、部屋の空気が一気に張り詰める。
それでもロイドは動揺を隠そうとしたが、カインはそんな様子を見逃さなかった。
「黄鉄鉱を金だと偽り、山を買い取らせる。こういう手法を何度もやっているんでしょう」
「……こいつらを逃がすな!」
ロイドが叫ぶと、周囲にいた社員たちが一斉に動き出した。
しかし、カインは慌てる様子もなく、ロイドへ手を差し出した。
「今まで騙した貴族連中の契約書を貸してもらいますよ」
「やだと言ったら」
ロイドがカインを睨みつけた。
カインは鼻で笑って、バルドルへ視線を向けた。
「バルドル、いきますよ」
「任せろ」
バルドルがゆっくりと立ち上がり、身構えた。
その瞬間、部屋にいた社員たちが一斉に双子へ襲いかかった。
「おら!!」
バルドルへ向かって拳が飛んできた。
バルドルはそれを軽くかわすと、相手の懐へ踏み込み、拳を叩き込んだ。
「ぐあっ!」
社員はその場に崩れ落ちた。
一方、カインへも別の社員が殴りかかっていた。
カインは飛んできた拳を片手で受け止めると、そのまま相手の腕を掴んだ。
「軽い拳ですね……はぁ!」
勢いを利用して投げ飛ばした。
社員の体が宙を舞い、床へ叩きつけられた。
「なっ……!」
ロイドが驚きの声を漏らす。
しかし、双子は止まらない。
続いて二人、三人と社員たちが襲いかかるが、バルドルは拳をかわして次々と打ち倒し、カインも相手の動きを見切って軽々と投げ飛ばしていく。
あっという間に、部屋には倒れた社員たちが転がっていた。
ロイドが状況を理解する頃には、立っているのは双子だけになっていた。
☆ ☆
数日後
新聞には、金山詐欺を繰り返していた詐欺集団が一斉に摘発されたという記事が掲載されていた。
朝食を終えたカインは、その記事を眺めながら満面の笑みを浮かべている。
「いやあ、見事に片付きましたね」
「お前が最初から最後まで仕組んだんだろ」
バルドルは紅茶を飲みながら呆れたように答えた。
「私は詐欺師たちに、こちらへ来てもらっただけですよ」
「そのために俺は一週間も資産家をやらされたんだけどな」
「とても様になっていましたよ、旦那様」
「もうその呼び方はやめろ」
バルドルが嫌そうな顔をすると、カインは楽しそうに笑った。
「ですが、あの演技のおかげで詐欺師たちは完全に油断していました」
「まあ、依頼人の金も戻ってきたんだ。結果的にはよかったけどな」
「そうですね」
「……当分はパーティー系には参加したくねぇ」
「え、今から祝賀会ですよ? かっこよく貴方の歌声を披露しないですか?」
「しねぇよ!!」




