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41話 劇団(その3)

 護衛 二日目

 稽古も順調に進んだ。カインはジョセフの自主練に役立つよう、台本に役者たちの動きや気づいた点を細かく書き込んでいた。


 そして、稽古終わりに劇団員と一緒に会食するという話が持ち上がった。


「ジョセフさん、会食は行かれますか」


「僕はパスです。こんな大切な時期にのんきなことできませんので」


 その会話は劇団員にも聞こえており、いい顔はされなかった。


 カインは、以前にリドルが言っていた「コミュニケーション不足」とは、これのことかと思いながらも、ジョセフの意見を尊重した。


「分かりました。昨日と同じでいいですか」


「ああ、自主練するよ」


 カインとジョセフは昨日と同じ川辺で自主練を始めた。


「今日はカインさん、メモ取っていたね。どんなことをメモしたんです?」


「ダメ出しやジョセフさんのことが書いてあります。それ以外にもジョセフさんと掛け合う人の動きも書きました」


「へえ、良かったら相手役してくれませんか。人がいたほうが練習しやすいんで」


「ええ、私でよければ」


 ジョセフにどこのシーンをやるか教えてもらい、カインは台本を持たずに演じようとした。


「カインさん、台本持っていて平気ですよ。掛け合いもしたいので」


「全部覚えたので問題ないです」


「お、覚えたんですか。昨日台本を渡されたんですよね」


「ええ、私記憶力はいいんですよ。でも役者ではないので演じるのが下手なのは見逃してください」


 公演時間二時間分の台本を一日で覚えたというカインに、ジョセフは唖然とした。


「ええ、それでいいですよ」


 カインとジョセフは会話の掛け合いをした。


 カインは台詞を覚えただけでなく、人物の心情や立ち位置まで把握して演じた。演技経験のない素人とは思えないほど伸び伸びと、演じることを楽しんでいた。


 心のなかでジョセフはカインを羨んだ。


「(カインさんは合理的で、それでいて自分自身も楽しむことに長けているのか。……僕にはできない演技だ)」


 ☆ ☆


 護衛 三日目


 今日は稽古前に、劇団員たちが王都周辺でチラシを配っていた。

 カインとバルドルはジョセフと一緒に参加し、町中に不審な人物がいないか確認しながら手伝っていた。


「(やっぱり、ジョセフがいると女性がいっぱいくるな)」


 護衛対象のジョセフも、本人の希望でチラシ配りに参加していた。案の定、女性ファンが次々と集まってきた。


「あ、この前のお姉さんじゃねぇか」


 以前、稽古場の近くでジョセフの出待ちをしていた金髪の女性がおり、バルドルは声をかけた。


 金髪の女性は少し驚いた様子で返事をした。


「バイトのお兄さんじゃない。今日は追い返さないでよね」


「はいはい、どうぞ。ほどほどに会話しろよ」


 バルドルに言われると金髪の女性はそのままジョセフのところへ駆け寄った。


 ジョセフは大勢の女性ファンに囲まれていたが、一人ひとりに笑顔で応じていた。


「今回の舞台は君たちのために公演するよ。ぜひ、劇場へ来てくれ」


「「「はぁぁぁい!!」」」


 女性たちはすっかりジョセフに夢中になっていた。


 カインは、このままでは街が混乱して護衛が難しくなると思い、ジョセフに耳打ちした。


「ジョセフさん、人が集まりすぎています。そろそろ、この場から離れましょう」


 カインの打診にジョセフも頷き、ファンのみんなに別れを告げてその場を離れた。


「ジョセフさんの人気を肌で感じましたよ。さすがスターですね」


「先程はありがとうございます。切り上げを間違えたらみんなに不満をもたれるところでした」


「あなたはファンのことを大切にしていました。役者として素晴らしい対応でしたよ」


「役者は、お客さんをどれだけ呼べるかで主役が決まる。それができない役者は、いつでも主役にはなれないんです。

 だから、目の前に来てくれたお客さんには、きっちりと対応したいと思うんです」


「そうですか。それなら今回の公演は必ず成功へ導きましょう」


「期待しています」


 稽古が終わり、双子とジョセフは宿に戻ろうとしたが、町が騒がしくなっていた。


「この通り、こんなに人が多かったか?」


「ええ。少し宿を確認しましょう」


 宿の周囲は女性ファンで埋め尽くされ、とても中へ入れそうになかった。


「ゲ、このタイミングでバレたか」


「あの宿には戻らないほうがいいでしょう。

 私が宿に荷物を取りに行って、近衛兵に、ここから退散させるよう頼んできます。

 貴方はジョセフさんを連れて自宅へいってください」


「分かった。そうさせてもらう。ジョセフ、俺たちの自宅に案内するからついて来てくれ」


「分かりました、カインさん。お願いします」


「お任せください」


☆ ☆


 バルドルとジョセフが慌てて家の中へ入ると、シャロンは急いで玄関へ向かった。


「バルドル様、早いお戻りですが何かございましたか」


「実は事情があって、急遽この人を泊めることになったんだ。平気か?」


「はい、可能です。カイン様から、もしものときに備えておいてくれと賜っていたのでお部屋の用意はできております」


「さすがシャロンだな」


 シャロンはジョセフに夜食を用意して部屋へ案内した。


 バルドルとシャロンはカインの帰りを待つため居間にいると、ややぐったりしたようにカインが帰宅した。


「ただいま、戻りました」


「お疲れ様、大変だったろう」


「宿に入るのは大変でしたが、女性たちへの対応は近衛兵に任せました」


「おおごとにならないでよかった」


「宿内にもファンらしき人がいましたから、あのまま泊まらなくて正解でしたよ」


「……怖」


「公演まであと二日ですから、少し王都から離れた場所ですが、このまま我が家に泊まってもらいましょう。ここなら心配ないでしょう」


「このまま無事終わってほしいな」


「私もそう思います」


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