39話 劇団(その1)
アルテミス国内で人気の劇団が、今度王都で公演を行うことになり、王都は賑わっていた。
双子は手紙を送った劇団の座長に会うために劇団の稽古を行っている建物に出向いた。
「ようこそ、お越しくださいました。バルドルさんとカインさん」
「貴方がサルバトーレさんですか」
「はい、ワタシがピエトロ劇団の座長サルバトーレです。今回はご依頼を受けてくださりありがとうございます」
「いえいえ。それで、手紙にあった脅迫やストーカーについて詳しくお聞かせください」
「ウチの俳優、ジョセフは最近注目されていましてね。そのせいで過激なファンが増えているんです。公演後に宿まで付きまとったり、金を握らせて迫ったり……」
「うわ……人気者は苦労するな」
「そして王都に来る少し前には、こんな手紙が届きました」
『ジョセフ、王都で公演すれば舞台をぶっ壊してやる。女に媚びを売っているお前はさっさと俳優をやめろ』
「脅迫状ですね」
「はい。事件も起きていないので騎士団には相談しづらく、こちらに依頼した次第です。公演中止を避けるためにも、ジョセフを守っていただきたいのです」
「お任せください。契約通り、明日からジョセフさんを警護します。今日は稽古場の構造と周辺を確認したいのですが、今から本人に挨拶しても?」
「もちろんです。ただ、今は舞台稽古中なので、先に稽古場をご案内しましょう」
劇団が借りている建物は二階建てで、一階が稽古場、二階が衣装や小道具の作業場になっていた。
座長の案内を受けたあと、双子は稽古場へ向かった。
稽古場に入ると、なにやら空気は重苦しいものであった。
容姿の整った俳優が表情を歪ませて、劇団員たちに向かって叱咤していた。
「お前ら、やる気あるのか!! そんな演技じゃ、次の公演、失敗するぞ」
その言葉に短髪の男が気に入らなさそうに言い返した。
「そんな言い方するなよ! お前のその態度は和を乱すんだよ、ジョセフ!」
「お前が言えた話ではないだろう。目立ちたくて、周りに迷惑をかけるような演技をしていることも分からないのか」
「なんだと!!」
二人が言い争う中、他の劇団員は止めようともせず、呆れたように顔を背けていた。
この光景にバルドルは怪訝な表情をした。
「(あの言い争いをしている傲慢そうな男が、ジョセフかよ。ああいうタイプは苦手だ。この空気も気まずい……)」
バルドルが心の中でぼやいているとジョセフは劇団員たちに向かって言い放った。
「お前のせいで興がそれた。今日の稽古はやめだ!!」
と稽古場を出て行ってしまった。
その場の空気が沈む中、座長がため息をついた。
「本番まで時間がないんだ。いいかげん、仲間割れはやめなさい」
「だって、座長……ジョセフのあの態度はあんまりですよ」
「お互い言いたいことはあるだろうが、言葉には気をつけなさい。私からもジョセフに伝えておく」
短髪の男は頷き、反省した様子を見せた。
「分かりました。……それで座長、その方々は」
「以前、ジョセフへの脅迫文が届いただろう。王都でも腕利きの騎士を護衛に雇ったんだ」
カインとバルドルに気づき、双子は挨拶した。
「カイン・グランフェルトと申します。短い時間ですが、よろしくお願いします」
「バルドル・グランフェルトだ。ただの護衛なんで、あんまり俺たちの存在は気にしないでくれ」
双子の容姿に劇団員たちの視線を集めた。
カインはジョセフへの聞き込みを後回しにし、まずは劇団員から話を聞くことにした。
「座長、少しこちらの劇団員さんとお話してもいいですか」
「ええ、ジョセフがいないと稽古は進みませんのでどうぞ」
「では、バルドル。貴方はここにいてみなさんと親睦でも深めてください」
「わかっ……はぁ!?」
カインの無茶ぶりに困惑するバルドルを稽古場に残し、カインは先ほどジョセフと言い争っていた男に声をかけた。
「お聞きしたいことがあるのですが、お名前は?」
「リドルです」
「リドルさん、ジョセフさんはいつもあんな感じなんですか?」
「ああ。台詞を覚えるのも動きも早いから、あいつのペースだとみんながついていけない。それでよく揉めるんだ」
「なるほど」
「それに、ジョセフは座長が半年ほど前に引き抜いてきた役者なんです。王子様役がぴったりハマって、今じゃあいつ中心の公演ばかりですよ」
「それは不満も溜まるでしょうね」
「まあ、あいつのおかげで劇団が注目されたのも事実ですけどね。ただ、人付き合いが苦手で、宿もいつも個室。きっと座長のお気に入りなんですよ」
「(あの座長が、そんな肩入れをするようには見えませんが……)」
「お話は以上です。また何かあれば聞かせてください」
「ええ、こんなのでよければ」
ジョセフ自身の問題や劇団の状況もおおかた把握できて、カインたちが稽古場に戻ると稽古場は盛り上がっていた。
「どうした?」
とリドルが尋ねると劇団員の女たちがやや興奮ぎみにいった。
「リドル、バルドルさんの歌声めっちゃきれいなんですよ」
「低音が心に響いて胸が熱くなるわ」
女性たちはうっとりした表情を浮かべていた。
それに対し、バルドルは頭をかいて困惑していた。
「お世辞はいいですよ……」
バルドルはあんまり歌で褒められることに慣れておらず、謙遜していた。
すると、他の劇団員たちはそんなことないと首を振って、バルドルへぐいぐいと迫った。
「お世辞じゃないですよ!歌手として売れると思いますよ」
「いや、役者になれると思うよ。演技とか興味ないの!」
「それは、その……」
とバルドルが劇団員たちによる圧のある勧誘をみて、カインはやれやれと溜息をこぼした。
「親睦は深めろとは言いましたが、役者の勧誘を受けろとは言ってないんですけどね……」
ジョセフは稽古場に戻りそうもないし、このままでは弟が無理やり役者に誘われてしまうのでカインは稽古場から退散することにした。
「バルドル、そろそろ引き上げますよ。これ以上は皆さんの迷惑になります」
「ああ、分かった」
バルドルは心の中で助かったと息を吐いた。
稽古場を出て、帰り道でバルドルにリドルと話したことを伝えた。
バルドルも予想通りといった反応を示していた。
「そっか。まあ、さっきのジョセフの口調はみんなの態度からして恨まれる要素はたぶんにあるよな」
「まあ、役者さんはみな気が強いですからね。言葉には出さなくても内心でジョセフさんを妬んだりするのは仕方ありません。
座長さんは言葉ではいいませんでしたが、劇団員が送った手紙の可能性もあると思っていますよ」
わざわざ稽古中まで双子に護衛させているのは、外部の人間や劇団員がジョセフに危害を加えないためのものなのだろうと思った。
「こぇーな。俺はあんまりそういう界隈は肌にあわねぇな」
「そうですよ。貴方は黙って私とハンディマンの仕事をしていればいいんですよ」
その言葉にバルドルは自身がカインに頼られていると嬉しそうに表情を緩ませた。
「カイン……」
「ハンディマンは稼げますし、安定職で気楽ですからね」
カインのとっても現実的な言葉にバルドルは肩を落とした。
「そうだよな……はぁ」




