24話 ぶどう畑荒らし(その4)
あれから二日、カインは農園近くにある病院にバルドルのお見舞いに来ていた。
「バルドル、お元気ですか?」
「ああ、弓矢が肉の厚い部分に刺さったから大したことないってよ。あと三日もすれば退院だ」
カインの止血のおかげもあり、腿の傷口は比較的広がらず命に別状もなかった。顔色も良く、いつも通りの元気なバルドルにカインは安堵した。
「良かったです」
「これもカインのおかげだ。ありがとうな」
カインは横に首を振った。
「いえいえ、己の並々ならぬ回復力に感謝すべきですよ」
「それで、あのあとどうなったんだ」
カインは少し声を落として言った。
「ぶどう畑荒らしどもを拘束し、地元の騎士団に引き渡しました」
「あいつらの正体って……」
バルドルも察していたのだなとカインが真実を告げた。
「ええ、地元の農家の人間でした。今年は豊作ではありましたが、他の農家では上手くいかず、ローランドさんばかりが評判を得ていたことで、周囲から嫉妬を買ったようです」
「クルエラが言った通りだったか」
「ローランドさんのように右肩上がりだった農園は少なかったのです。彼は数年で様々な品種のぶどう栽培に成功しています。
やつらは市場で自分のところで採れたものと偽って出荷もしていました。ローランドさんのように農園の危機を乗り越えた苦労人に対する侮辱極まりない行いです」
数年前のローラン農園の劇的な復活を地元の人間であれば知っているにもかかわらず、その農園に対する嫉妬や不作の憎悪でぶどう荒らしや盗品販売をするとは腹立たしい行いである。
今回の解決はしたがバルドルは依頼主であるローランドの心情としては苦いものになってしまったと思い心配した。
「……ローランドさん、どんな様子だ」
「ショックは受けていましたが、収穫シーズンなのに落ち込んでいる暇はないとテキパキと仕事をしていました。貴方のお見舞いも行きたがっていました」
それを聞いて少し安心はしたが自分の容態を気にかけてくれたことに、困ったなと頭を掻いた。
「俺のことなんてほっとけばいいのに」
「依頼人として貴方が怪我負ったことに対して心を痛めたのでしょう。でも、私から丁重にお断りしておきました。
忙しい時期ですし、バルドルが守ったぶどうたちを出荷してくださいと言っておきました」
「そういってくれて助かった。……それはローランドさんのか」
カインが手にしているカゴに気づき、バルドルは尋ねた。
カインは頷き、カゴの中身を見せるように少し持ち上げた。
「ええ、採れたてのぶどうと貴方が美味しいといったぶどうジュースですよ。ローランドさんからのお見舞いの品です」
「届けてくれてありがとうな」
バルドルは嬉しそうにカゴの中を覗き込む。
すると、カインがもう一つ包みを取り出した。
「こちらはクルエラ総隊長からです」
「え?」
思わぬ名前に、バルドルは目を丸くする。
「美味しいお菓子セットです。良かったですね」
カインが包みを差し出すと、バルドルは受け取りながら複雑そうな顔をした。
「俺、ガキ扱いされてる……」
☆ ☆
傭兵本部に戻ったクルエラは執務室に入ると、机に向かって大量の書類を整理するパリスがいた。
パリスは椅子から立ち上がり、敬礼した。
「お疲れ様です」
「数日間休暇の間、ご苦労だ。そちらは変わったことはあったか」
「特にありません。数件依頼が来ているので、後ほど書類のご一読をお願いします」
「分かった、明日の朝に見る」
クルエラが椅子に座り、ふうと息をこぼした。
パリスもソファーに座って言った。
「今回の休暇はアルテミスのぶどう畑でしたよね。楽しめましたか」
「ローランドの酒は美味しくて満足だが、あの双子に遭遇するとはとんだ休暇だった」
「双子……。また会ったんですが!?」
パリスは目を丸くしたが、愉快そうに笑った。
「ああ、ぶどう畑を荒らす輩がいるからと双子が雇われてたんだ。私も少しだけ協力した」
偶然なら仕方ないとパリスは溜息を吐いた。
「そうでしたか。解決したから悠々帰ってきたのですね。お怪我がなさそうでよかったです」
「なかなか面白い物を見れたぞ」
クルエラのいつになく楽しげな声色なので、パリスも興味深そうに尋ねた。
「どんなものですか」
「カインの殺意さ」
「殺意、ですか……」
クルエラはパリスの瞳が変わったのを分かっていたがそのまま話を続けた。
「身内に仇なす者に対して見せたのだが、なかなか身が締まるようなものだった。
あいつを怒らすとあんな感じなのかもなと」
弟に傷を負わせただけで、あそこまで理性を失うとは予想外だった。クルエラが止めなければ、なぶり殺しにしかねないほどの殺意だった。
少し見てみたいと思ったことは、胸中に留めておいた。
そういうことですか、とパリスはいつもの表情に戻った。
「隊長への殺意でなかったので安心しました。
そうでなければ、次に会ったときにカインさんへ敵意を持つことになります」
クルエラは笑った。
「今のところは不要な感情だな」
「でも、私もあの二人と勝負してみたいって少し思います。別に仲を悪くしたいわけではありませんが」
「ふふ、お前も血の気が荒いな」
「私も傭兵ですから仕方ありません。そのときにちょっとカインさんの殺意を見てみたいな」
「殺さない程度ならいいぞ」
パリスはニコッと笑った。
クルエラだって同じことは思った。あの双子の実力を知りたい。そして、その力がアルテミス王が気に入るほどの腕前なのか。はたまた、奴らに隠された過去なのか。
今回の事件で、クルエラはますます双子への興味を深めた。




