23話 ぶどう畑荒らし(その3)
バルドルは小屋で仮眠をとったあと、ソファーに寝そべって二人の帰りを頬杖をついて待っていた。
「ったく、あの二人うまくやっているかな……」
考えるだけでも頭が痛くなると思っていると、プレハブの外から音が聞こえた。
複数の足音がプレハブの周りを囲んでいると察し、口元を緩ませてプレハブから出た。
暗闇で見えないが木々に隠れた者たちへ言い放った。
「おい、いるんだろう。出てこいよ、ぶどう畑荒らしども」
すると、四人の男たちが姿を現した。握られているのは斧やなた、剣と大人しく捕まる様子は微塵もなかった。
男たちの後ろには複数のカゴがあり、その中にはここの農園で摘まれたぶどうが入っていた。
バルドルは剣を抜けば、ぶどうの実を傷つけてしまうと素手で片付けると指を鳴らして前に拳を構えた。
男の一人がバルドルに突撃し斧を振り下した。咄嗟に避けて、男が空ぶった体がふらついたのでバルドルは手刀を首に打ち込んで倒した。
『(地面がぬかるんでいるけど、この人数ならいける)』
とバルドルは余裕の表情を浮かべていた。
続けて来る敵にバルドルは腹にストレートを決めて腕をつかんで背負い投げした。
そのとき、ピュッという音が聞こえ、バルドルが顔を上げると腿に弓矢が突き刺さっていた。
激痛にバルドルは顔をしかめた。
「一人隠れていやがったか……」
「おらぁ!!」
先程背負い投げした男の意識がまだあり、お返しと言わんばかりにバルドルは男の一撃を顔面に食らい、体がふらつき地面に倒れた。
「このままではまずい」とバルドルはとっさに口元に指を当てて指笛を鳴らした。
『(カイン、来てくれ)』
農園全体に響く指笛を鳴らされ、男は襟元を掴み締め上げてきた。
「てめえ何してんだ!」
バルドルの頬を殴られ、口内が切れて血を吐きだした。
「ぐっ!」
バルドルの首をぎゅっと絞められ苦しいともがいていると後ろにいた男の仲間二人が群がって言った。
「お、おい。やべぇぞ、仲間を呼ばれたぞ」
「じゃあ、こいつをどうするんだ」
「逃げようぜぇ」
「顔見られちまったんだ。口封じに殺すしかねぇ!」
「そんなことしたら、マジでまずい」
「どうするんだ」
「……私の弟から離れなさい」
カインは背後から男の手をダガーで一突きにすると、バルドルが握る手が離れた。
「……よくも汚い手で弟に触りましたね」
痛みに悲鳴を上げると、カインは男の顔を掴み、地面に思いきり叩きつけた。
「これはバルドルを殴った分です。そしてこれが」
カインは問答無用で足を高く振り上げ、腹に食らわせた。
「私の憂さ晴らしの分です」
男の意識はなくなり、突然の出来事に周りにいた盗人たちはカインから一斉に離れた。
「誰だ!?」
「誰でもいいでしょう。あなた方はこれから捕まるのですから」
カインの瞳には余裕はなかった。弟を傷つけられた怒りで平静を装いながらも気配がただならぬものとなっていた。
カインがゆっくりと盗人たちに近づこうとすると草陰に隠れていた弓兵がカインの心臓めがけて矢を飛ばした。
その瞬間、クルエラが刃を素早く抜き取り、矢を叩き落とした。
「危なかったな、カイン」
こんな男に助けられてしまったことに複雑な思いはあったが、この状況ならいたしかたないと感謝した。
「さすが総隊長ですね、ありがとうございます」
えらく素直な言葉にクルエラは鼻で笑った。
「ふん、ここは私がやろう。さっさと弟を運べ」
「分かりました、お任せします」
カインはバルドルの元へ向かい、手を伸ばした。
「バルドル、掴まってください」
バルドルの頭は殴られてはいたが、頑丈なこともあり意識ははっきりとあった。
「わりぃ」
カインは自分の肩にバルドルの腕を回し、プレハブへ運ぼうとした。
「こ、ここにいる奴らを逃がすな!」
と盗人の男が言うと、男たちはカインをめがけて向かってきたが、クルエラは双子をかばうように敵の前に立ちはだかった。
「お前たちの相手はこの私だ」
刃の先端を敵に向けて威嚇し、間合いを取ると腕を振り上げて隠れていた弓兵の腕めがけて短剣を投げた。
腕に突き刺さると、男はうめき声を上げて地に伏せた。
クルエラは正面から斧を下した相手を華麗に避けて、かかと落としを決めた。
背後に迫っていた敵には肘打ちを与えて頭を強打させた。
周りに敵の気配がないと感じると、弓兵の元にクルエラは歩みよって、冷ややかな視線で言った。
「おい、ここに侵入したのは貴様らだけか」
「……そ、それは」
「言え」
クルエラは慈悲もなく心臓を突き刺すような瞳に恐怖し自白した。
「そ、外に運び屋の男がいる。それで最後だ」
「農園の裏側か」
「そうだ。頼む! い、命だけは助けてくれ!!」
「ああ……」
クルエラはみぞおちを殴って、気絶させた。
「ローランドの前に突き出して、土下座させるまで殺さん」
腕に突き刺さった刃を抜き取ると、白いハンカチで血を拭って鞘に納めた。
プレハブに向かうと床にバルドルを寝かせて、弓が突き刺さった腿を布でカインが止血していた。
「おい、手当ては終わったか」
「ええ、応急処置ではありますが完了しました」
「一匹、賊が外にいる。
このまま逃がすわけにはいかんからな。貴様の弟はプレハブにおいていくぞ」
「ええ、分かりました。バルドル、さっさと終わらせてきます」
「……わりぃな」
クルエラはあるものを見つけて言った。
「カイン、プレハブに面白いものがあるぞ。これを利用しようではないか」
「いいですね、それ」
それは、長く伸びたツタが入った、使われなくなった袋だった。
☆ ☆
弓兵の男の言う通り、農園の裏門に馬車が止まっており、呑気に仲間の帰りを待っている男がいた。
カインは堂々と前に出てダガーを構え、言い放った。
「貴方のお仲間は帰ってきませんよ。大人しく捕まりなさい」
「!?」
男は自分の置かれている状況を理解し、馬に鞭を打って馬車を急発進させた。馬はカインに向かって突進してきた。
カインはとっさに避けて、馬車は一本道を進んでいった。
クルエラは木の上から目視で馬車の位置を確認し馬車が来る道に待機していた。
馬車がクルエラのいる地点へ近づくと、クルエラはタイミングを見計らって無数のツタを上から落とした。
視界が塞がれ、馬車を急停車させようと手綱を引くが馬が動揺し、その場で暴れ出してしまった。
クルエラは木から降りて馬車に乗り込み、馬に気をとられている男を放り投げた。
クルエラは手綱を握りしめて、「止まれ!」と引いた。
すると、クルエラの言葉を理解したのか、馬は先ほどまでの動揺が嘘のように大人しくなった。
クルエラは馬車から降りて、馬の瞳を見て言った。
「お前、なかなか優秀な馬だな。良かったら、私の傭兵隊にくるか」
ヒヒンッと馬が鳴き、クルエラは頭を撫でた。
放り投げられた男は全身打ち身となっていたが、意識はあった。ここから逃げなければと這いつくばっていると後ろから追いかけていたにカインに背中を足で力強く踏みつけた。
「あなた方には色々とお話を伺いたいことがあります。逃げないでください」
男がカインを見るとカインの瞳は汚物をみるように見下していた。
「だから、邪魔な四肢を切り落としてあげます」
弟を傷つけられた怒りに殺意がにじみ、一人ずつ生きていることが辛くなるほどの恐怖を味わわせてやろうと思った。
しかし、クルエラがカインの腕をガッシリと掴んで制止させた。
「その辺にしておけ。そこまでしたら弟に泣かれるぞ」
男は白目を向いて微動だりしていなかった。
罪人ではあるが無抵抗な人間を傷つければハンディマンといえど許されなかった。クルエラの言葉に殺意が抑えられた。
「(……そうですね。ここで殺せばバルドルのためにならない)」
カインは息を吸って気持ちを落ち着かせた。
「ちょっとした脅しですよ、本気でやりませんよ」
カインはにこやかな笑みでいっているつもりだが、頬がひきつらせダガーを握る手も震えていた。
必死に自我を抑えているカインの様子に溜息を吐いた。
『(よくもそんな嘘を言えたものだ)』
機嫌の悪いカインに言うのは得策ではないと思ったが、今回はカインの面白い一面が見れたと内心笑っていた。
ぶどう畑を荒らしていた者たちをすべて捕まえたあとは、カインはバルドルを早馬で病院まで運び、クルエラは騎士団に通報した。
カインが農園に戻ると騎士団の兵士が現場に集まりだしていた。
意外にもクルエラはまだ現場に残って事情を話しており、罪人には厳重な処罰をするよう強く求めていた。




