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11話 三国会議の警備(その3)

 一昨日、警備会議が行われた場所にブラッドとバルドルが行くと、ジュリアンとカインが先に来て座っていた。


 パリスは深刻な顔をして立っていた。

 バルドルたちも椅子に腰掛けるとパリスの口が開いた。


「皆さん、揃いましたね」


「パリス、どうしたんだよ」


「実は総隊長とエルメスの王女が行方不明になりました」


 三国会議は期間が短いため、アルテミス王やマルバン王は従者のみ同伴させていたが、エルメス王は王女も連れてカピトリーノ城に来ていた。


 あの総隊長と王女が同時にいなくなるとしたら、二人で行動していると容易に想像できる。


 それにエルメス王の王女は長い金髪に翡翠の瞳をしていて、如何にもクルエラが好きそうな容姿をしていた。


 場の空気が緊迫感から、一気に呆れたものへと変わった。


 ジュリアンはそんな空気をお構いなしに質問した。


「最後に総隊長を見かけたのはいつですか、パリス副官」


「昼ごろに部屋へ伺ったときですから、二時間は経過しています」


「ちょうど、会議が始まったころですか」


 ブラッドは意外に冷静に聞いた。


「部隊長たちには、まだ知らせていないのか」


「ええ、お忙しいでしょうから、部隊長たちにはまだ知らせていません」


 ジュリアンが不思議そうに質問した。


「隊員たちにも協力してもらい、探すのはどうですか」


 ブラッドは何も分かっていないと呆れ気味で言った。


「そんなことをすれば騒ぎが大きくなって三国の王に悟られてしまうだろう」


 カインも付け加えて言った。


「外部に知られてはアテナ傭兵隊の信用問題に関わりますよ」


「……」


 バルドルは自分たちがやるべきことを口にした。


「俺たち五人であの総隊長を見つけないといけねぇのかよ……」


 カインは小馬鹿にするような口調で言った。


「王女と駆け落ちとは……。そこまで節操がない総隊長だとは思いませんでした。幻滅は初めからしているのでいいのですが」


 ブラッドはカインの言葉に苛立ち、反論した。


「まだそうだとは決まったわけでもないのに総隊長を侮辱するな」


「この状況ならしたくもなります。それとも貴方はあの総隊長の変態度合いを副隊長でありながら理解していないのですか」


「なんだと!」


 ブラッドは眉を寄せて怒りの眼差しをカインに向けた。


 パリスは険悪な二人をなだめようと間を割った。


「二人とも落ち着いてください。今、論争しても時間の無駄ですよ」


「分かり……ました……」


「まあ、正論ですから今回は引き下がってあげますよ」


 バルドルは溜め息をこぼした。


「……はぁ。話を続けてくれ、パリス」


「あの人はこの近辺にはいません。誰かに邪魔されずあとで問題にならない場所に移動します」


「そうなると、城下町か」


「これは三国会議が終わる時間までが勝負です。皆さん、総隊長を見つけ次第、捕縛。王女は保護してください」


 双子は気乗りしないが、事が事だけに協力するほかなかった。


「こんなことまでやるとは思わなかったぜ」


「あの総隊長に振り回されるのはこれっきりですよ」


 ブラッドは椅子から立ち上がって指揮をした。


「それでは二組で行動するぞ。パリス副官はここに残ってくれ。適当に理由をつけて、時間を稼いでくれ」


「了解です」


 バルドルはパリスに対して報酬を押し付けた。


「パリス、今度俺たちに何か奢れよな」


 パリスは目を丸くして、頷いた。


「あ、はい!」


 四人はカピトリーノ城の城下町に向かった。ジュリアンとカインは南西部、ブラッドとバルドルは南東部の繁華街を捜索した。


 現在、カピトリーノ城は軍事拠点として使われておらず、観光名所になっている。港や交通の便が良いため、宿場町や貿易地として活気のある土地である。


 十六時ということもあり、街はたくさんの人で溢れていた。


 カインはジュリアンへ指示した。


「私は普通の飲食店で聞き込みをします。貴方はここ近辺の店を回ってください」


「……カインさんも一緒に来てください。この辺って似たり寄ったりの店がたくさんあるんで困難です」


「いやです。マルバンには世にも珍しい店があると聞いています。そんな場所に男二人でいるなんてできません」


 マルバンは東国との貿易が盛んに行われていて、町中にも東国文化が少し浸透していた。


 その一つが出合茶屋である。


 西洋ではそのような店がなかったのだが、マルバン人には大ウケして多くの出合茶屋が建てられていた。


 ジュリアンも何となくどんな所か想像できたのか、口をあんぐりと開けた。


「あ……」


「分かったら、さっさと行ってきてください」


 一人で入る気まずさもあるが、無理にカインを引きずり込むほうが恐ろしい。ジュリアンには、もう選択の余地はなかった。


「……行ってきます」


 バルドルとブラッドも捜索しているが手がかりは何も掴めなかった。


 バルドルはブラッドの目の前で本音を漏らした。


「どこに行ったんだよ、変態総隊長」


 ブラッドはムッとなり言い返した。


「そんなことを言うな! ……少し異常趣味があるだけだ」


 ブラッドはクルエラを尊敬しているようだが、趣味まで理解も許容もしているわけではないらしい。バルドルはそれに安堵すると同時に、笑いが込み上げてきた。


「ブラッド、それって擁護しているつもりかもしれないが、余計酷くなっているぞ」


「え?」


 バルドルは嬉しそうにブラッドの肩を叩いた。


「良かった良かった。お前はマトモなんだな」


「な、何の話だ!」


 その後、四人は繁華街をかけずり回った。

 クルエラが立ち寄りそうな店を一軒ずつ訪ね、店員や客に聞き込みをしていく。通りを歩く人にも声をかけ、少しでも怪しい人物を見かけなかったか尋ねて回った。


 普段なら気に留めることもないような路地裏や裏通りまで足を運び、手分けをしながら必死にクルエラと王女の行方を捜した。


 しかし、どれだけ探しても二人の手がかりは見つからなかった。


 しばらくして、四人は繁華街にある大広場に集まった。


 クルエラと王女を見つけた者はいなかった。


 四人は嫌な予感を覚え、肩を落とした。


「本当に駆け落ちとかしていないだろうな」


 バルドルがそういうとカインが言った。


「だからそうだと言ったでしょう。そういう男なんですよ」


 ジュリアンは身震いをした。


「こんなことで三国の関係が悪くなって戦争とかになったら嫌です。傭兵でも命は惜しいですよ」


 弱音を吐いているジュリアンにブラッドは叱った。


「そんな物騒なことを言うな! なんだお前、変な匂いがするぞ」


 ジュリアンはギクリと身を縮めた。


 そして、ジュリアンが言う前にカインが答えた。


「さっきジュリアンさんは如何わしい場所に行ってもらいました。そのときの匂いですよ」


 カインの証言にジュリアンは目を細めた。


「ジュリアン、本当か」


 ジュリアンは肩を竦めた。


「……」


「真面目で規律を重んじる男だと思ったのに……」


「誤解です。総隊長がいそうな場所を探していただけです。信じてください、ブラッドさん!」


 カインはこの状況を楽しんでいるのか不必要な台詞を言った。


「言い訳なんて見苦しいですね」


「貴方は余計なことを言わないでください!」


 すると、透き通るような重低音の声が後ろから響いた。


「貴様ら、こんな所で何をしているんだ」


 振り返るとクルエラとエルメスの王女がいた。


 ジュリアンとブラッドは先ほどとは打って変わって、引き締まった顔つきになった。


 バルドルはクルエラを睨みつけた。


「てめぇ、どこに行っていたんだよ。俺たちが探し回ったんだぞ」


 クルエラは悪びれる様子もなく言った。


「それはご苦労だったな。だが、今から帰るところだ。問題ないだろう」


 その態度にバルドルのはらわたが煮えくり返っていた。


「ふざけんな!!」


 バルドルはクルエラの胸ぐらを掴もうとすると、王女がクルエラを庇うかたちでバルドルの前に立った。


「全部私が悪いのです、クルエラ様を責めないでください」


 そう言われるとバルドルは嫌々引き下がった。


 カインが王女に尋ねた。


「どういうことですか」


「来週お母様の誕生日なので、プレゼントが欲しくてクルエラ様に街へ連れ出すようにお願いしたのです」


 王女はプレゼントと思われる箱を手にしていた。

 クルエラはクスリと笑って言った。


「楽しく買い物をしていたら、このような時間になってしまったんだ。仕方ないだろう」


 ブラッドは脱力した声で呟いた。


「そうですか……それなら良かったです」


 三人は胸を撫で下ろすが、カインだけが不服そうに怪訝な顔をしていた。


 バルドルはクルエラに聞こえるように舌打ちした。


「チッ、だったら一言言って行けよ」


「何を言っている。パリスにメモ書きを残したぞ」


 四人は一斉に声を上げた。


「「「「え?」」」」


 六人が城に戻るとパリスが出迎えてくれた。

 パリスに事情を聞くと、「少し王女と出かけてくる」というメモ書きが残されていた。


 単純にパリスがメモ書きを見ていなかったことが原因であった。


 こうして、三国会議は何事も平和に終わった。アテナ傭兵隊も無事に任務は遂行したが、双子にとっては不平不満の残る仕事となった。


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